それからはほとんど毎日呼び出され、今日は距離が近かった、今日はいつもより会話が多かったとその日その日によって難癖をつけては罵る、の繰り返しだった。
夏休みが明ければ、彼らも忘れているのかもしれないという淡い期待も虚しく。
以前は口だけだったのに、少し肩を押された、胸倉を掴まれた、と手が出るようになり、ついにはリンチされるまでになった。

そこまでされると、もう学校には行きたくないと思ったけれど、次の日は堀江くんと遊ぶ約束をしていたから、体にムチを打って怖々と登校した。
学校に来た僕を見て、彼らは少し驚いた様子だったけれど、またクスクスと笑って僕の悪口を言い始める。

他のクラスメイトも、きっと僕がいじめられていることに薄々気付いているけど、誰も助けてはくれない。
それに関して、恨んだりはしなかった。
僕が逆の立場でも、庇ったりなんてできないだろうから。
唯一、このクラスで気付いていないとすれば、彼、堀江くんだけだろう。
もし、堀江くんの目の前で僕をいじめれば、優しい彼はきっといい顔をしないとわかっているのだ。

何をしても僕が堀江くんから離れないとわかると、暴力に遠慮がなくなってきた。
傷や痣が治る前に上書きされていくので、体育の着替えはトイレで済ませることが習慣になった。
それを堀江くんに不思議がられたけれど、笑って誤魔化すしかなかった。
いじめられていることを告白すれば、もしかしたら彼は助けてくれるのかもしれない。
けれど、何故だか堀江くんには知られたくなかった。



そんな過酷な日々が続いたせいだろうか。
僕はあるまじき失態を犯してしまった。
その日は、珍しく呼び出しがなくて、正直気が抜けていた。
花壇の水遣りを終えた頃には夕焼けと夜が混ざった空で、教室に戻ると僕の鞄だけぽつりとあった。

机の間を縫って、鞄を取ろうとした時、ふと堀江くんの席が目に入った。
そこは、いつもなら人がたくさんいて近づけない場所。
それが今は無防備に開けている。
僕はゆっくり近づいて、恐る恐る天板を撫でた。
自然と頬が緩み、とくとくと、心地の良い鼓動に包まれる。
そうっと跪く。
そして、まるで王子様の手の甲にキスするかのように、机に口づけた。

「何やってんだ……」

がたん、と大きな音が鳴った。
咄嗟に身を引いた僕が後ろの机に当たったからだ。
後ろに倒れ込んだまま、僕は教室の出入り口から目が離せなかった。

(どうしよう、どうしよう!)

見られてしまった、僕の密かな恋心を。
よりにもよって、僕を敵視している島本くんに――。



「お前……ハルをそういう目で見てたのかよ」
「あ……ち、が……っ」
「だったら、何でハルの机にキスしてたんだ!?」

机を蹴散らしながら迫り来る島本くんに僕は震えるしかできなかった。
ついに目の前に立たれた瞬間、全身の毛穴から一気に汗が噴き出した。

「そうか……なら納得だな。俺らがどんなに痛い目見せても離れないわけだ」

そう言って僕のお腹に馬乗りになると、Yシャツを引き裂き、ボタンが弾け飛んだ。
わけもわからず、殴られると思った僕は腕をクロスして身を守る。
けれど、島本くんは容易くその防御を解き、僕の腕を床に縫いつけた。

「何ビビってんだよ。お前、ハルにこうされたかったんだろ?それともお前がやりたかったのか?」

クク、と喉で笑う島本くんの目は、ちっとも楽しそうではなかった。
教室の蛍光灯が嫌に眩しく感じた。



ぐちゅぐちゅ、と厭らしい音が鳴る。
僕のお尻には島本くん自身がずっぷりと挿し込んでいた。

「う……っぐっ……」
「はっ……どうだ、嬉しいか!……まさか、お前が男好きだったとはなぁ……」

声がうるさいとねじ込まれた下着で、否定の言葉も紡げない。
未だに取り押さえられている腕は、痺れて感覚がなくなっている。
何故こんなことになっているのか、何故もっと早く逃げなかったのか、そんなことも今は考えられない。
とにかくこの苦しみから解放されたい。
その一心で、堪えるしかなかった。

いつの間にか律動が終わった。
島本くんが服装を整えている気配が窺える。
朦朧とする意識の中、カシャ、と無機質なシャッター音で正気に戻った。
携帯を構えた島本くんが目に映り、一気に血の気が引く。

「いいか、もうハルに近づくなよ。この写メをネットにばら撒かれたいって言うぐらい変態じゃないならな」

そう言い捨てると、背を向け去ろうとした。
僕は急いで、それを止めようとする。

「待っ……!」

けれど、体を動かした瞬間、芯に響く痛みと内部からどろりとした液体が出てくる感触に動けなくなった。

「ああ、それと……学校には絶対に来いよ。来ない場合もこれ、ばら撒くから」

淡々とそう告げると、もう振り返ることもなくその背中は消えた。
僕は尚も頭が追いつかず、暫く呆然と座り込むだけだった。

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