幾度となく精を受け、やっと解放されふらふらになりながら寝台を降りようとした時、またもや引き戻された。 まだ、務めに励まなければいけないのかと身を硬くしたが、水神は市を腕に包み込むとそのまま寝てしまった。 何が何だかわからず、焦っていた市だが、激しく体力を消費していたため睡魔に襲われその内意識が沈んだ。 翌朝、目を覚ますと水神の寝顔が間近にあり、思わず悲鳴を上げかけた。 そして自分の状況を把握すると、どっどっと鼓動が大きく打ち、冷や汗がだらだら流れ出した。 (僕、僕は、なんてこと……っ) 今、寝台から抜け出すべきか、しかしそうしてもどうせすぐに明らかになるだろうし、何より身じろぎすれば水神を起こしてしまうだろう。 (それに……このことを万が一お許しいただいても、昨日のことはもう) どうやったって、許されることはない。 そう悟った市は絶望し、そして受け入れた。 (元々、お父さんにとっても村にとっても厄介だったんだから。本当は、水神様に首を絞められた時に死ぬはずだったんだ) それを今日まで、少しばかり生き長らえただけ。 市は祈るようにその時を待った。 「ん……」 一刻か、つかの間か、水神の瞼が薄ら開いた。 恐怖を感じたものの、瞼の奥の瑠璃のように透き通った瞳につい見蕩れてしまった。 水神も、市に気付いたもののじっと見つめるだけであった。 (謝ら、ないと) 「あの……」 恐る恐る口を開けば、がばり、と水神が覆い被さってきた。 ついに、殺される、と反射的に目を瞑れど、市の想像に反し水神はその小さな唇に喰らいついてきた。 「んっ……ふぅ」 そして昨日の再現かの如く、また身体をとろとろに溶かされ、熱の塊に押し入られた。 水神はそれまでとは打って変わって、厭らしい言葉を強制させないばかりか罵倒もせず、ただ市の身体を貪った。 声を抑えようと手で塞ごうにも、除けられ、歯を食いしばっても舐め解され、与えられる快楽に喘ぐしかなかった。 村でも内職しかしていなかった市は、元々体力が乏しく行為が終わると、肩で息をするほど困憊していた。 水神は寝台に座り直すと、髪を掻き揚げながら、ぽつりと漏らした。 「酒」 「申し訳ありません!只今!」 疲れなど何のその、飛び上がると着物を纏う時間すらも惜しいと、左足を引き摺りながら、裸で寝室を出ようと襖に手をかけた。 「待て」 「は、はい!」 水神に向き直り、正座をした。 「何か纏え」 「あ、も、申し訳ありません。今すぐ!」 はしたないことをした、と反省し、いつもの着物に袖を通すと今度こそ寝室を後にした。 急ぎ酒を持って部屋に戻ると、水神の姿がなかった。瓶子と杯を膳に並べると、市は手持ち無沙汰になった。 暫くすると、どたどたと足音を鳴らし、水神が現れた。襖を開けると共にばさり、と市に何かを投げ被せた。 それに埋もれながら何かと確認すると、浅葱色のとても質の良さそうな着物だった。 「それを着ろ」 と、だけ言うと市が用意した酒を呑み始めた。 意図が掴めず混乱していた市だったが、水神が確かに着ろと言ったので、部屋の隅の定位置に移動し、はらりと着物を脱ぎ落とすとその浅葱色を纏った。 << >> |