最初は本当に嫌だった。僕は女の子じゃないし、ましてや、痛みしか伴わないそれは暴力に等しいと思っていた。

お風呂に入ると、身体が真っ赤になるくらい何度も何度も洗った。
肌を這うあの感覚が忘れられなくて、自分が自分じゃなくなるような気がして、たくさん泣いた。

次第に快感を覚え始めると、僕は絶望的になった。男に抱かれて、喜んでいるのだと。罵られながら、感じているのだと。



鬱蒼としていた僕を変えたのは、ほんの些細なことだった。
僕と、松原くんは出席番号が並んでいたので、日直の当番も一緒だった。
社会科の担任に、資料室を整理して欲しいと言われたのは、ちょうど僕たちが日直の日だった。
松原くんは多分、やらないのだろうと思ったけれど、資料室に行くと彼は黙々と仕事をしていた。

僕は二人きりという状況に、緊張していた。松原くんと二人というのはあれをする時だけで、口を開けば罵倒されるのみ。
まともに会話なんてしたのは彼のアパートまでついていったあの日だけだった。
それでも、僕は話しかけなければいけない状況下にいた。散々迷って、すごくすごく勇気を出して、僕は重い口を動かした。



「ま、ま、まっ松、原くん」

目だけ、僕に向けられる。
怯みながらも、続けた。

「こ、こっこれ、これ、そ、そっち、に、あ、あ、ある、か、か、な?」
「…これだろ」
「あ、あ、う、うん、あ、あり、ありが、と、とう」

この時僕は、何故か拍子抜けした。
その後も何回か、やりとりはあった。

松原くんがこたえる度に僕は、違和感が拭えず、家に帰ってからもずっと考えていた。
そうして気がついたのだ。

何故、あんなのにもお礼が言いたかったのか。
どうして、彼を目で追うようになったのか。



それは簡単なことだった。

松原くんは、僕のことをヘタクソだとか、淫乱だとか、いっぱい悪口を言うけれど、決して吃音については触れないのだ。

今日だって、僕が喋っても、宇宙人を見るような、そんな目で見なかった。
ちゃんと、言い終えるまで何も言わずに、きちんと応えてくれた。

僕を人として認識してくれているのか、ただ、興味がないだけか。
きっと後者だろう。それでもいい。僕が松原くんにとってその他大勢でも、それでもよかった。



僕は無性に松原くんに会いたくなった。そして、彼に触って欲しい。じわり、と体温が上がった。

「はっう…ん」

持て余した熱をどうすればいいか、わからず、ただ、松原くんとの行為を思い出しながら、欲望を追いかけた。

「んんっ…あっ…ま、つばら、くっ…」

ポタポタ、とベッドのシーツに染みを作っても、僕はしばらく言い知れぬ満足感に浸っていた。



僕は抵抗するのをやめた。
と言っても、僕の抵抗なんて、取るに足らないことだけれど。
敵わない力で抗わず、自らそっと脚を開いた。
酷い言葉で攻められても、ぐっと堪えた。

そんな様子を彼は訝しげに見つめ、その日の行為はいつも以上に執拗だった。
まるで淫乱な僕を暴いていくかのような、責めるかのような、そんな風に。

泣いて、許してと言っても突き立てられ、意識を失っては覚醒させられ、空が白み始めてもそれは終わりそうにもなかった。

やっと開放されたのは、次の日の昼ごろで、彼の部屋で目覚めると、家主はいなかった。
テーブルの上に置かれた鍵が、早く出て行けと暗示していて、僕は慌てて部屋を出た。施錠したものの、鍵はどうすればいいのだろう。
悩んで、とりあえず郵便受けに入れてその場を跡にした。



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