翌朝、目が覚めた僕は声にならない悲鳴を上げた。
皺くちゃのシーツ、彼の匂い、痛い身体、そして隣には―

とにかくここから離れなければ。

その一心で鈍痛を抱えた身体に鞭打って、散らばった服をかき集めると急いで部屋を跡にした。

家に着くと、一目散に浴室に向かった。
帰りの電車の中、彼が放った欲望が内股を伝ったのだ。
それを早く洗い流したくて、目一杯熱い湯をかけた。
視界がぼんやり滲み、広がる。

「ううっ…ひぐっ…うーっ」

怖かった。
彼だけじゃない。
すべてのものが、僕は怖くて仕方がなかった。



次の日僕は熱を出した。ちょうど金曜日で、1日休むだけでよかったけれど、土日もずっとベッドの中で魘されていた。
月曜日には熱が下がり、登校した。松原くんはいつも通り素知らぬ顔で過ごし、HRが終わったらさっさと帰っていった。

もう二度とあんなことは起こらない。
あれは夢だったんだ。

そう思い込もうとしていた。
しかし、携帯の着信によってそれは砕かれた。

―松原翔

確かに、ディスプレイにはその名が表示されていた。
思わず、辺りを見回すが人がまばらなプラットホームには探し人の姿はなかった。
再び携帯電話に目を落として、登録した覚えのないアドレスからのメールを読む。

23時に来い。

それだけだった。
どこに、とは考えずともわかった。
脅されているわけでもない、けれど従うしか選択肢がないように思えた。

約束の時間。
おぼろげな記憶を頼りにアパートまで辿り着き、部屋の前でうろうろしていると、不意に扉が開き中に引きずり込まれた。
口づけをされると、抗うこともできなくなった。

「な、なっ何、を、す、する、の?」

ぼんやりした頭では自分が何を口走ったのかわからなかったが、松原くんは僕の言ったことが面白かったのか、にやりと笑って一言。

「セックス」

その後、僕は初めてあの時、松原くんとセックスしたのだと理解した。


その日から2ヶ月経った今、幾度も彼と体を重ねていた。
松原くんは、学校では、正確にはみんなの前ではまったく知らん顔をした。
僕も話しかけようとはしなかったし、逆に誰かにバレたら、とハラハラしていた。
どうして、こんなことをするの。もう、止めて。
言いたいことはたくさんあったけれど、元来の性分のせいか、3日も空けずの呼び出しに僕は従っていた。夜でも、休日の朝でも、学校で、なんていうことも珍しくはない。



現に今も―

「ほら、もっと尻を突き出せ」

埃くさい教室の使い古された机に手をついて、言われたような体勢をとる。恥ずかしさと、誰か来たらという恐怖は残るが、それ以上に、得られる快感を覚えてしまった身体は浅ましくも歓喜に震えている。

「ひくついてるな…そんなにこれが欲しいか?」

ぐり、と先端が蕾に押しつけられる。

「あっ…」

早く、早く挿れて欲しい。
僕は無意識に腰を擦りつけていた。

「淫乱」

嘲笑われると同時に、押し入ってきた熱い塊に僕の理性は奪われていった。



行為が終わると、松原くんは僕に目もくれず帰っていった。
そう思うとつきん、と胸が痛むけれど僕は考えないようにしていた。


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