the girl. | ナノ


24日  




真夜中の空気は私の体を優しく包んでいる。見上げる夜空は濃淡に白いインクを散らしたように星が広がっており目を見張るほど綺麗だ。吐いた息は白く変わり、星空の一部に溶けて行く。
砂隠れの夜は本当に冷える。昼と夜の温度差が激しいのもこの里の特徴の一つだろう。今頃里のものは皆厚い布団に埋まり、夜を越えている。しかし、私のように半傀儡だと寒さを感じる面積自体が少ないため、割と平気であったりする。里が眠りにつくこの時間帯に風影邸の屋上で星空を眺めるのが私の数少ない趣味の一つだ。

ふと地上に目をやると、所々に灯る明かり。こんなに夜遅くまで大変だなと目を細めて見守っていると、私以外の呼吸の音が耳に入る。誰だろうと首だけ巡らせると、そこに立っている人物に目を見開いてしまった。

「我愛羅…」
「ナズナか…?」

風影のマントを羽織った我愛羅が、少し身をさすりながらこちらに歩み寄ってくる。「寒いでしょ?」と問いかければ、「多少はな」と苦笑された。そんなに息を白くして多少って、そんなわけがない。

「ナズナは寒くないのか?」
「………平気…」
「そうか…」

あんまり傀儡っぽいところを見て欲しくなくて思わず目をそらしてしまう。我愛羅は小さく呟いて私の隣に立った。そしてマントを広げると「入れ」と促してくれる。
その好意はすごく嬉しい。嬉しいけれど…私は静かに首を振る。

「大丈夫」

我愛羅は少し寂しそうに眉根を下げてマントから手を放した。
申し訳ないけれど、今の私に触れて欲しくないんだ。触った程度でわかるなんてことはないだろうけれど、もしもがある。
もしも触れた拍子に腕が外れたら?
サビがこぼれ落ちたら?
私の体はもう何年も酷使してきたのだからボロボロ。それを我愛羅にだけは知られないように生きてきた。カンクロウには口裏を合わせてもらって、疑いようがないほど完璧な隠蔽をしてきたのだ。今さらもう限界です、なんて言えるわけがない。

「我愛羅はどうしてここに?」
「息抜きだ」
「…風邪ひいちゃうよ」
「ナズナも、同じだろう」
「う…ん…、そう、だね」

我愛羅は不思議なほど、私をただ一人の少女のように扱ってくれる。もう何年も成長が止まったこの化け物のような私を。
それがこそばゆくて、恥ずかしい。
もう誰も私を人間には見てくれないのに。カンクロウもテマリも…結局は私を傀儡だと捉えているのに。

…やっぱり、我愛羅にだけは伝えたくない。
彼の前では、最後までただ一人の少女でいたい。

「じゃあ、戻ろうか」

私は熱くなる頬を隠すように足を急がせる。実際は頬が赤くなることはないのだが、それでも気持ち的に隠していたかった。

本当はもっと我愛羅と笑っていたいし、一緒にいたいけれど、もうそれは全て過ぎた願いだから、私は彼に小さく手を振って自室を目指す。
きっと、私の心はあの星空のようには輝かないだろう。


あと、24日。私の生命は流星のようだ。


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