the girl. | ナノ


28日  




風影邸をふらふらと歩いていると夕暮れが綺麗に見えることに気づいて窓から身を乗り出す。燃えるような赤に我愛羅を投影して思わず嬉しくなっていると「おい!」と焦った声で呼び止められた。何事だろうと振り向くとそこには息を切らして肩で呼吸を整えているテマリがいた。

「テマリ?」

乗り出していた体を廊下に戻して彼女に歩み寄る。紅潮する頬と、浅く吐き出される息が痛々しくて、思わず手を伸ばすとその手首をがしりと掴まれて強く引かれた。
ばくばくとうるさい心臓の音が体全体に響く。彼女が小刻みに震えたような気がしたから、ゆっくりと理解する。

「カンクロウから聞いた?」
「…っ!」
「図星だ」

テマリは割とわかりやすいからなと声だけで笑っていると、何かをこらえるような小さな唸り声が聞こえてそれも止まる。
半傀儡となり少女の体で成長の止まった私は、テマリよりうんと小さいから、包み込まれているような感覚になる。頭と背中に回された手により一層力がこもったような気がする。

テマリが泣いてるところなんて、我愛羅がさらわれた時ぶりだ。まさか、私のことで泣いてくれるとは思わなかった。カンクロウもそうだし…本当に、私にはもったいないぐらい優しい。

「ごめんね…テマリ…」
「どうして、言わないんだ…」
「んー…。やっぱり、心配かけさせたくないし…」
「そう言って、私たちが気付かないうちにいなくなるつもりだったんだろ!?」

その通りだ。だから、何も言い返せない。
このままいつも通り過ごして、ふらっといなくなれるならそれでいいと思っていたんだ。悲しいのとか、辛気臭いのとか嫌いだし、できればいつもの笑顔で見送って欲しかったから。

「我愛羅はさ、このこと知ってる?」
「いま、言いに行こうとしていた」
「じゃあお願い。それ、言わないで」

カンクロウとテマリは仕方ないかもしれない。でも、我愛羅はダメだ。絶対に。

「なぜだ…!」
「我愛羅は、私の半身のこと、気にしてるでしょう?」

私の体は、幼少期の我愛羅によってごそっと半分持っていかれた。
我愛羅は一尾に体を持っていかれないように一切眠れない生活を送っていたから、深夜にこっそり遊びにいったら喜んでくれるかと思って部屋に赴き、暗殺者だと勘違いされて半分をえぐられたのだ。
そのこと自体は全面的に言いつけを守らなかった私が悪いのだし、今こうして実際生きているのだから気にしていない。けれど、あの出来事が我愛羅のトラウマになってしまっていることは知っている。今は私がこうやって生きているから大丈夫なものの、風影として頑張ってるこの時期に私の終わりの時間なんて教えるべきじゃない。彼は心優しいから、きっと後悔に苛まれてしまう。そんなの、私が嫌だ。

「我愛羅には、いつも通りでいて欲しいよ」
「お前は、それでいいのか…!」
「うん」

テマリはさらに私を抱きしめる。そんな強くされたら体がバラバラになっちゃうよ、って茶化したら今は叱られるだろうから口を噤んだ。

夕日はどんどんと砂壁に沈んでいく。砂の里の夜は冷え込むから今日も寒くなりそうだと、短く息を吐き出す。

「我愛羅と、一緒にいなくていいのか…?」


好きなんだろう?

そう問われ、私は迷いなく「うん」と答えた。
「好きだからだよ」そう続けると、ついにテマリは何も言わなくなる。

好きだから、このままでいいんだ。


終わりの時間まであと、28日。
どれだけ隠しきれるだろうか。こういう時、表情が作れないというのはありがたい。
だって、泣きそうにすらならないのだから。


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