the girl. | ナノ


30日  




カチャカチャと私の体の中をいじる音だけが部屋に響いていた。まるで手術台に寝かされた重病人のようだと天井につらされる電気を見つめる。背中を預けたベッドのシーツがサラサラで気持ちよくて寝てしまいそう。
開いた窓から吹いた風がカーテンを揺らすのに目を細めて、こんな綺麗な月夜に何をしているのだろうと自嘲してしまう。動かない半身が忌まわしい。


「もう、いいよ」


吐き出した私の言葉にカンクロウの手が止まる。しかしそれも一瞬で、すぐさま音が続いた。いいって言ってるのに、カンクロウは本当に頑固だ。

私の体は私が一番よくわかっている。
完璧だと、永遠だと謳われていたこの体にも、終わりや、限界だってあるんだ。

「カンクロウも、わかってるでしょ」
「少し、静かにしてろ」
「意味ないんだよ」
「うるさいじゃん…。集中してんだって」

浅くため息を吐いて、また天井を見上げる。どれだけの間こうしているだろうか。もうわからないや。

幼い頃、我愛羅によって半身を奪われた私は、赤砂のサソリと呼ばれる傀儡使いの抜け忍が残したという傀儡を、失った半身に埋め込むことでなんとか一命をとりとめた。成長はその時に止まり、このまま永遠に誰かが壊すまで生きていくのだろうと思っていた時、事件が起きた。
そのサソリと呼ばれる男が亡くなったのだ。
それから私の永遠は、ゆっくりと崩壊へと歩みだす。サソリのチャクラに呼応して動いていたのだから、いつ壊れてもおかしくない。半身だけ、という事実が少なからず私をこの世界に留めている。たった、それだけが。

それを知っているのも、教えてくれたのも、いつも私のメンテナンスをしてくれているカンクロウだけだ。彼はなんとか私の延命をしようとしてくれているけれど、それが無駄なのはわかっている。文字通り、身にしみてわかっている。

「カンクロウ…、あとどれぐらいだろう」
「少なくとも俺がいる限りはいかせねぇじゃんよ」
「無理だよ」
「…っ!!」

私の言葉がいかにカンクロウの心を抉るのか、全部わかっている。手を止めて欲しいのだ。もう、終わるものに時間を割いて欲しくないのだ。私はもともと死ぬはずだったのに、周りの人の力でここまで生きていけたのだから、それで十分だろう。

「カンクロウも私もよく頑張った」
「何を根拠に言ってんだ」
「私の体が根拠だよ」
「お前が、死んじまったら、その「頑張った」だってなんも意味ねえじゃんっ!!」

その通りだと思った。
彼の優しさが、彼の願いが痛いほど伝わるのに涙を出す器官はとっくに死滅していて、一滴もこぼれない。ああ、どうして私はこんなに無様に生きているのだろう。

それでも…、歩んできた道も思い出も全部愛おしいものなんだ。

「バカばっか」

もっと生きたいなんて願っちゃダメだ。
今そう思えることすら奇跡なんだから。
もう十分だって笑わなきゃ。

だからね、カンクロウも本当のことを言って欲しいの。

「ねえ、カンクロウ」
「……」
「あと、どれくらい持つかな…?」
「…………」

誤魔化すことはできないと悟ったのだろう、彼の手が止まる。それで、いいのだ。



「一ヶ月」



彼の短い言葉が本物かもわからない心臓に突き刺さる。
それがもうどれほどの長さか理解できなくて、「なんだ」と呟けば嗚咽をこらえるカンクロウの声が聞こえてきた。
その声で気づく。そっか、多分それはわずかな期間なのだろう。


神様が私にくれた時間は、あと30日。


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