the girl. | ナノ


1日  




「ナズナ、結婚式の日程が決まったんだ」

どこか遠くでそんな声が聞こえた気がした。
口が動かなくて、私はゆるゆるとそちらに顔を向けることしかできない。

「一週間後だ。すぐに決めた。本当は明日にでも、いや今日にでも挙げたいのだが、いかんせん準備がまだ終わってなくてな」

嬉しそうに話してくれるテマリに私も嬉しくなる。きっと今、彼女は綺麗に笑っているだろうから、できればその表情も見たいのだけれど、それは高望みというものだろう。

よかったね、と紡いだつもりだったが、それは彼女の耳に届いただろうか。

「ドレスをな、決めるのが一番大変だったんだ。全然どういうのがいいかわからなくて、ほら、私ってああいうのに疎いだろ?だけどシカマルが「めんどくせぇ」って言いながら決めてくれたやつが一番綺麗で、自分でも驚くぐらいぴったりでさ。すぐにそれに決めた」

シカマルさんの話をするテマリは世界一可愛いと思う。この時ばかりはかっこいい姿はなりを潜めて、恋する乙女といった感じで。

「式場は風の国の方にしてもらった。来てもらうのは申し訳ないが……その、お前に、見て欲しかったから」

テマリの言葉がどんどん弱々しく、尻すぼみになっていく。気にしなくていいのに、なんて言おうとして、今更嘘なんて吐きたくないと思い、嬉しいと告げたのだが、これは形をなしてるだろうか。テマリは何も言ってくれない。


テマリは美人だから何を着ても似合うよ。
でも、シカマルさんが選んだドレスならきっと一番似合うんだろうな。だって、テマリが選んだ相手だからね。

絶対幸せになってよ。私の分も。
私のことは気にしないでって言えたらいいんだけど、ごめん、嘘はやっぱり良くないよね。

気にして。私のこと。
気にして、忘れないで。

ちゃんと、お墓に来なかったら怒るからね。
化けて出て、奈良家の家中荒らして回るよ。

子供ができたら紹介してよ。テマリそっくりな美人な子が生まれるといいな。私にとっては、甥か姪になるってことだよね。いっぱい甘やかしちゃいそう。だって私、テマリが大好きだもん。

あ、もちろんお邪魔にならないようにはするよ。毎日仏壇に手を合わせろなんて言わないし、まあ顔見せてくれないと拗ねるだろうけど。

それから、笑顔は無くさないでね。
私、テマリの明るい笑顔大好きなんだ。いたずらっ子みたいに笑うところも好き。シカマルさんもきっとそういうテマリを好きになったんだから。だから、笑顔は無くさないで。

ああ、でも、シカマルさんを紹介してくれなかったことは怒ってるんだからね。
一発殴って…もとい、ちゃんと挨拶したかったのに。あと、シカマルさんと一緒にいるテマリが、私は見たかったんだよ。

あとはね、あとは。
あとは…。

なんだろう。
言いたいこといっぱいあるのに、なんで言えないんだろう。
何一つ声にならない。ずっと脳内でバカみたいに響いている。

ねえ、テマリ、泣かないでよ。
一週間後なんでしょ?
そんなにいっぱい泣いたらシカマルさんもびっくりしちゃうし、涙でぐちゃぐちゃな顔で誓いのキスをするのなんて、私ですら見たくないよ。こんなにテマリが好きな私ですらだよ?

聞こえてる?
ねぇ?

言葉に、声に、なってる…?


「…っ、ナズナ…っ」

グズグズと涙を流す声が聞こえる。
テマリの声だ。
だけど私の声は聞こえない。
もう、限界なんだろう。

なんで私だったのだろう。
まだ全然生きてないのに、どうして死ななければならないんだろう。
どうして大好きな人の側にいられないんだろう。
大切な人の笑顔も見られないのだろう。

なんで、どうして。
嫌だ。
嫌だよ。

私−−−−



「しに、たくない」



唯一形を成した言葉がそれだなんて、本当に世界は残酷だ。


あと…。いや、このカウントももう意味をなさないものだ。


ねえ、明日が来たらきっと、君の泣き声も聞こえなくなるんだよ。


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