りんごジュースと缶コーヒー

正直、疲れる。
みんながワイワイと遊園地内を闊歩する中、私は「人酔いしたから」と適当に言い訳をつけて逃げてきた。本当に苦手かもしれない、あのノリは。ベンチでぐったりと肩を落としていると、すっと影が差す。

「おい、すげえ暗いじゃねえか」
「奈良…」

そこにはジュースとコーヒーを持った奈良が立っていて、自然と手が伸びる。「ん」と渡されたジュース缶のプルタブを持ち上げてぷしゅりと開封し、勢いよく呷る。喉に落ちるりんごの甘みが今は少しうっとおしかった。

「っはぁーーっ。ありがとう…奈良」
「大丈夫か」

奈良は私の隣に座るとコーヒーを一口。無糖とか馬鹿じゃないの。そんな苦いものよく飲めるものだ。あからさまに苦そうな顔してしまっただろうか、奈良が「なんだよ」と短く聞いてくるもんだから、小さく「ありえない…」と返しておいた。

「大丈夫に見えるぅ…?」
「見えねえからきたんだろ」
「じゃあ聞くな、めんどくせえ」
「うっわ、拗ねんなよめんどくせえ」
「拗ねてないわばかっ」
「いってえ、手ェ出すな、女だろお前」

ポカリと奈良の肩を叩くとそんなことを言われてムッとしてしまう。奈良にはそういうのいって欲しくないというのはわがままだろうか。

「男とか、女とかどうでもいいじゃん」
「よくねえよ。少なくとも俺はな」
「なにそれ…ムカつく」
「なんでだよ…」

奈良のくせに、何言ってるんだ本当に。
私を女に見てない筆頭はあんたでしょうが。とそこまで考えて、まるで自分が奈良に女に見てもらいたいかのようで焦る。そんなことは決してない。奈良とだけは絶対にありえない。

「おい、何百面相してんだ」
「見んなヘンタイ」
「めんどくせえな…」
「めんどくさがんな」
「はぁ…どこでこうなったんだお前は」
「どこでもなにも、生まれた頃からこうですけど」
「そう……だったな」
「は…?」

やけにはっきりしない奈良に違和感。何を言ってるんだって本心から思ったし、その昔から知っているかのような言葉にイラっとしたけど、それ以上に感じるこの胸の空虚感はなんだろう。

あんただけは忘れないでよ。
忘れないでよ馬鹿。

何度も脳内に響く声は誰のもの?
私が知らない私がいるみたいでひどく気持ち悪い。

「奈良……っ」

自然と溢れるその呼び方も違和感しか感じなかった。
あれ?私ってどうやって呼んでいたっけ?
奈良で間違いないはずなのに、なんでこんなに激しく「違う」って思うんだろう。

これじゃあ、まるで他の人たちと一緒。
奈良に、気持ち悪がられてしまう。

絶対に、いや。


「都…?」
「なんでもない…。ちょっと冗談抜きで人酔いかも」

じゃあ、帰る。ジュースの缶を片手に、私はせわしなくゲートに向かって歩き出す。背中に奈良の声がかかった気がするけど、こんな熱い顔じゃそっちなんか見れるわけなかった。