空高編


第2章 神子と接触



森の木陰に隠れて、幽爛は静かに両手を伸ばす。
滝の周囲にいる人々から淡い光が漏れ出し、幽爛の周囲へと集まって行く。
黒い光に満ちていた霊も、幽爛のいる所へと吸い込まれるとみるみる白くなっていった。
霊達はまるで踊るように幽爛の周りをゆらゆらと泳ぐ。
先程まで霊に憑かれていた人々は正気に戻ったのか、滝の周囲がざわつき始めた。

「これで終わり。さ、行こう。」

そして幽爛は会わせたい人がいるという所へ案内すべく、踵を返した。


第13晶 森の奥にあるもの


幽爛を先頭に歩き出すと、再び彼等は森の中を歩きだしていた。
しかも先程よりも木々が深く生い茂り、道を通る時も木と木の間にある僅かな隙間を通らなければならない。
決して楽な道ではないし、そもそも人が通るような道であるかどうかも怪しかった。

「本当にこの先に、その会わせたいっつー奴がいんのかよ。」
「うん。そうだよー」

雷希の疑問に幽爛はあっけらかんとした顔で答える。
先程から木の枝が服に引っかかったり、草や蔦が足元に絡みついたりと非常に歩きにくい。
それは幽爛も同様なのか、足取りが何処かおぼつかなかった。

「此処しか道はないのか?」
「そうだねぇ。人の目につかず、なおかつ辿り着ける場所っていったら此処みたいで…逆に僕もこの道しか知らないんだよ。」

幽爛はごめんね、と言葉を続けて更に道を進む。
目の前に生い茂る草の山を掻き分けると、ようやく森を抜けた。
森を抜けたすぐそこは崖になっていて、1本のつり橋が崖の向こう側へと道を繋いでいる。
その先には灰色の施設があり、古い建物なのか壁には緑色の蔓があちこちに張り巡らされていた。

「此処がそうなんですか?」

雷月が問いかけると、幽爛はこくりと頷く。
風が吹くと、つり橋がみしみしと音をたてて揺れた。
当然その様子に4人の背筋は凍る。

「まさか…落ちたりはしないよなぁ…」
「んー、大丈夫だと思うよ。落ちない落ちない。」

幽爛は少し考える仕草をしてから、緊張感のない声で答える。
その根拠のない自信は何処から来るのかと少し震えた声で翼が問いかけると、じゃぁ僕が先に渡るよと、幽爛はつり橋へ足を伸ばした。
幽爛の足がつり橋の上に乗るも、つり橋はぴくりとも言わない。

「ほら、安全でしょ。」
「あぁ、なら良かった…」
「いやまて翼!」

ほっとして翼が渡ろうとしたのを雷希が遮る。
どうしたのかと首をかしげると、幽爛の足元をよく見たら、気持ち1センチ弱、宙に浮いていた。
半分身体が霊体である彼であれば、こんな芸当も確かに容易だろう。

「ちょ、浮いてるじゃないか!」
「あれー?いつの間にー?」
「とぼけるな!やっぱりこの橋危ないんだろ!管理者は何処だ!訴えてやる!」
「もー、早く渡ってもらわないと埒が明かないよーほら歩いた歩いたー」

幽爛の声に呼応するように、身体が勝手につり橋へと歩みを進める。
恐らく幽爛が憑き従えている霊の仕業なのだろう。
身体があまりにも勢いよく進むため、つり橋も遠慮なくぐらぐらと風に煽られるのと合わさって強く揺れる。

「ちょ!渡る!渡るから!!頼むからやめてくれ!」
「ちょっと雷希!あんまり大きく動かないでください!落ちたらどうするんですか!」
「俺のせいじゃねぇよ!好きでこんな風に動いてるんじゃない!」
「遺書…書いておけばよかった…」
「飴月!死ぬ時のことを想定してはダメだ!」

4人が悲鳴を上げながらも橋を渡るしかない様子をみて、幽爛は何がおかしいのか腹を抱えて笑い出す。
笑っている暇があったら霊を止めてくれと叫んでいるその様子を、巨大な画面越しに眺めている一人の男ははぁ、と大きく溜息を漏らした。
男の様子に気付いたもう一人の青年も、その画面を覗きこむ。

「ホントに連れて来てくれたんだねぇ」
「それについては有り難いが…騒ぎ過ぎだ。本当に橋が壊れたらどうしてくれるんだ。」
「あれって此処しばらく直してなかったっけー?」
「此処しばらくところか、10年以上あの状態だ。」
「ありゃりゃ。新しくする予定はないのー?」
「新しくする暇があったら、まずはまともな食事にありつきたいな。」

それは言えてる、と青年は紫色の髪を揺らして小さく笑う。
手を組んだ状態で茶髪の男は、翼達が橋をなんとか渡り終えている様子を眺めていた。

「じゃぁ行こっか、死燐。」

そしてそれを見計らったように、青年は男に声をかける。
死燐と呼ばれた男はああ、と呟くと椅子からゆっくりと立ち上がった。

 


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