空高編


第2章 神子と接触



なんとか橋を渡り終えると、施設の入り口であろう扉の前に立つ。
石造りで出来た灰色の建物は、近くで見ると更にあちこちのひび割れで古びている様が目立っていた。
扉は鉄製で、特に引き手やツマミというものはついていない。

「どうやって入るんだ?」
「まぁまぁ、急かさないでよ。」

幽爛は笑いながら扉の前へ立つ。
ガコン、と音がすると扉がゆっくりと左右に割れるようにして開かれた。

「認証式の自動ドアなんだって。認証式だから、誰でも入れるって訳じゃないけどね。」


第14晶 羅繻と死燐


実際に中へと入ってみると、外見と比べ中は整備されていた。
外見とは裏腹の光景に、翼達の中で凄いと思う半面、どこか裏切られた感が漂う。
暖色の証明が室内を暖かく照らしていて、とてもじゃないが外から見た、あの古く怪しい建物の中とは思えない。
階段は螺旋階段の構造となっていて、一番上の天井がよく見えるように伸びている。
恐らく10階位はあるだろう。
上を見上げていると、チラリと階段を下りる人影のようなものが見える。
幽爛は一足先にその人影に気付いたらしく、大きく手を左右に振った。

「しりーん!連れて来たよー!」
「聞こえてる。あんまデカい声を出すな。」

階段を下りて来た男はあきれたようにそう返答する。
男は二人。二人は階段を下り終えると、翼達のことをじっと見つめた。
一人は短い茶髪の天然パーマで、何処か眠たそうに下がり気味な黒い瞳。
服も瞳と同様真っ黒で、服の袖は先の方へ行く程に広がり、真っ白な肩が露出したデザインだ。
もう一人は身長が高く、淡い紫色の髪で前髪は中央から左右に分けている。
額は何かを隠すかのように、真っ白な包帯で覆われていた。
服は対照的に緑や黄色といった明るい色どりのものとなっていて、袖も手を覆う程長くぶかぶか。
小柄な人物ならまだしも、大柄な男でもぶかぶかな服とは一体どれくらいのサイズなのだろう。

「ハジメマシテ。僕は羅繻。こっちは死燐。」

幼さの残るあどけない声で、紫髪の男は微笑む。
自分達を交互に指さし、簡潔に自己紹介をした。

「は、初めまして…えっと、私達は…」
「わかっている。空高翼、荒雲雷希、卯雲雷月、卯時飴月、だな。」

律義に自己紹介を返そうとしたところ、死燐がそれを遮る。
まさか翼だけではなく、他の3人の名前も知っているとは思ってもいなかったため、4人はそれぞれ驚き顔を見合わせる。
死燐はその様子を見ても眉ひとつ動かさない。

「別に、驚くようなことじゃないだろ。」
「いや、驚くだろう?!だって、どうして俺達の名前を…」
「そういうの調べるのを仕事にしてる奴らだっているんだよ。」

死燐は眠たそうに欠伸を噛み締める。
どこか緊張感のない男だが、だからといって決して気を抜いてはいけないと感じ取ることは出来た。
大袈裟に例えれば、きっと、今と同じような顔で眉ひとつ動かさず人を殺すことも出来るだろう。
決して敵意を感じる訳ではないが、そんな経験の違いを感じるのは、4人…特に、雷希にとっては難しいことではなかった。

「もー、死燐が会ってみたいって言うから連れて来たのに、反応冷たいよー」

幽爛が雰囲気を崩すような明るい声を発する。
空気が読めていないのか、それとも逆に読めているのか。
少なくとも一瞬流れた緊迫とした空気は崩されていた。

「ごめんね、死燐って仏頂面だからさ、怖いでしょ?」

羅繻はへらへらと死燐の頭をぽんぽんと叩きながら笑みを浮かべている。
死燐も決して小さい訳ではないが、羅繻よりも身長はやや低め。
その身長差を強く感じてしまうのか、何処か不機嫌そうに顔をしかめた。

「羅繻。」

ただ一言、羅繻の名前を呼び睨みあげる。
たったそれだけの動作で羅繻はその全てを悟ったのか、ごめんごめんと軽く謝った。

「だってしょうがないじゃないか。そんな態度されたら警戒されて当たり前でしょ?」
「…」

羅繻のもっともな言い分に死燐は眉間に皺を刻む。

「まぁまぁ死燐。そうそう、本題を言わないとだね。」

死燐をなだめつつ、羅繻はにこりと笑みを浮かべる。翼達は思わず身構えた。

「そんな硬くならないでよ。僕達は、純粋に君と話がしてみたいだけさ。」
「話したいこと…?」

翼が首をかしげると、羅繻と死燐がこくりと頷く。
そして、死燐が口を開いて、問うた。

「お前は、神というものを信じるか?」

と。


 


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