空高編


第2章 神子と接触



「待っていた…?俺を…?」

唖然とする翼に、少年は笑顔で頷く。
その一方、雷希は警戒するように大剣を少年へ向けて構えていた。
神の子である翼を探す者は限られる。
恐らく雷希はそれを想定してのことだろう。
少年も雷希の意図を悟ったのか、ちょっと待ってと言葉を続ける。

「僕は政府の人間じゃぁないよ。寧ろ逆。まぁ、本当に会えるとは思わなかったんだけどね。」


第12晶 霊遣いの少年


霊落幽爛と名乗る少年は、霊を操る妖の子供だという。
一見は人間と左程変わりないが、霊が見えたり触れたり、操ってみたりと普通の人間には使えない能力を持つ。
また、本人も霊体化することが出来るというが、身体を浮かせる程度しか普段は使っていないらしい。

「此処最近起きていた、悪霊が動物に取り憑いたりする騒動の犯人はアンタか?」

雷希の質問に幽爛は首を左右に振る。

「僕は確かに霊達と一緒に遊ぶこともあれば、人や物に取り憑かせることも出来るけど、そんな事はしないよ。」

不満げに頬を膨らませながら、幽爛は雷希を見据える。
少し言い過ぎたと思ったのか、雷希もごめんと一言謝り言葉を続けた。

「じゃぁ、此処の人達は…?」
「ああ、これは僕だよ。」

幽爛は未だに虚ろな瞳で立ち尽くしている人々を一望しながら答える。

「ここ最近霊に取り憑かれてる人、多かったでしょ?だから、彼等の中にいる霊に直接呼びかけたんだ。そしたら、まぁ…取り憑いたまんま集まっちゃったって訳。」

本当は霊だけを呼びたかったのだけれど、そう言って幽爛は困ったような笑みを浮かべる。
だから、取り憑かせたのも僕じゃないよ、と幽爛は念押しした。
幽爛は元々霊を操るだけではなく、日頃から霊と一緒に遊び、心を満たして成仏させる手伝いをしているという。
その力を仕事としている飴月とは違い、あくまでこの世に取り残されている霊を気の毒に思うが故に行っているボランティアのようなものだと語った。
最近はその中でも凶暴化している霊が目立っていたため様子を探っていたところ、霊を祓う翼達を見かけたらしい。

「そのことを知り合いに話したら、是非とも会って話をしてみたいっていう人がいたからね。この辺でよく見かけるし、僕も霊の成仏をする為に動いていればいつかは会えるかなぁって思ったって訳。」

幽爛言葉は筋が通っているし、納得出来るものだと翼達も話を聞きながら頷く。
しかしあくまで初対面の少年。
素性が完全に読み取れる訳でもないし、実は政府直属の異能者という可能性もある。
「会わせたい人」の正体も気になるし、素直に信じていいものか。
そう思っていた時、幽爛はこちらへ両手を差し出した。
一体どういうことなのかと翼達は首をかしげる。

「僕が言う事をすぐに全部信じてなんて言えないし、信じられないと思うから。」

その言葉に思わず申し訳なさからたじろぐと、気にしないでと微笑んだ。

「信用出来ないなら手首を縛って動けないようにしてもらっても構わないよ。どうしてもその人には会って欲しいから。信じてもらえる為なら、なんでもしていいよ?」
「いや、その心意気だけで十分だ、いくら俺でもそこまでする気にはなれない…」

表情を一切崩さず、あどけない表情で言う少年に思わず根負けしてしまう。
確かにこの少年はいかにも怪しい人物ではあるが、此処は信じるしかない。
それに翼としては、自分に会いたがっている人間というのがどんな人物なのか、気になってしまうというのも本音だった。

「じゃぁ、ちょっと場所を移そうか。あの人達の中に取り憑いちゃってる子達も、出してあげたいし。ちゃんと成仏させてあげないと。」
「場所を移す必要があるのか…?」
「だって、霊を中から出しちゃうと正気に戻っちゃうよ?それで気付かれちゃったら、ちょっと不味いでしょ?」

幽爛のもっともな返答に、翼達は頷く。
じゃ、行こうか、そう言って歩き出す幽爛の後ろを4人は追った。

 


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -