空高編


第1章 神子と家出



「これを使って下さい。」

雷月がそう言って、翼に差し出したのは1本の小太刀。
普通の小太刀と違い、刃が水晶のように透明で鮮やかに輝いていた。
翼はその小太刀を受け取ると、そっと指で刃を撫でる。
指はなめらかに刃の上を滑り、感触も水晶のそれだった。

「それは、霊を斬る刀なんです。人とかも斬れない訳ではないんですけどね。飴月が創りました。」
「飴月が?」

雷月はまるで自分の事にように誇らしげに微笑む。

「翼サンの為に作ったんですよ。使って下さい。多分、この仕事する上で必要になると思うんで。」


第8晶 : ポストに在るは一通の。


それは今朝方の事である。
四人の中で一番朝の早い翼は、家の外でうんと伸びをして、深呼吸をした。
森に囲まれたこの家周辺は、朝は小鳥の鳴き声と風に揺れ木々の葉がざわつく音が響き渡る。
天気は快晴で、青空が眩しかった。

「ん?」

家の前にポツンと立っているポスト。
こんなところでも郵便というものは来るらしい。
ポストを開けると、真っ黒な分厚い封筒。
手に取るとずっしりと重みがあり、開けると、中には手紙と現金の束が入っていた。

「な、え、え…?!」

思わず悲鳴をあげると、玄関からあくびをしながら飴月が外へと出て来た。

「翼、朝早い。どうしたの?」
「い、飴月、あの、これ。」

翼は思わずガクガクと震えながら飴月に封筒を差し出す。
飴月は眠気眼に封筒の中身を眺め、手紙だけを取ってじっと内容を確認する。

「依頼。」
「え、仕事…ってコトか?」
「そう。依頼料は、いつも前払いだから。」
「そ、そうか…中には何て?」
「よくある内容。霊気にあてられて、妖怪化した動物の討伐。」

飴月は淡々と答えながら、手紙を丁寧に畳んで懐へとしまった。
翼へと顔を向け、水辺のように澄んだ瞳でじっと翼を見つめる。
なんとなく恥ずかしくなり、翼は頬を赤らめながら視線をそらした。

「翼、顔赤い?」
「な、なんでもない!」

自分を誤魔化すかのようにごほん、と咳払いをしてから飴月と目を合わせる。
ゆったりとしたたれ目の瞳に、腰まで伸びた透き通るような薄い青色の髪。
色素が薄いためか、どちらかというとその髪の色は青みのある白に近い。

「で、行く、のか?」
「うん。翼も、行く?」
「え、俺が…?」
「うん。翼も、仕事について知ってた方が、いいと思うから。」
「それもそうだな…習うより慣れろという言葉もあるし…」

翼は納得するかのように、うんと頷いた。
飴月は決まりだね、と言うとにこりと優しく微笑みを浮かべた。

「でも先にご飯。食事も大事。」
「あぁ。今日の朝食はパンケーキだよ。野イチゴが実っていたから、それをソースにした。」
「うん。楽しみ。」

何よりも彼女は食べる事が好きなのかもしれない。
先程よりも明らかに、飴月の瞳は輝いていた。

 


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