空高編


第1章 神子と家出



荒雲雷希は悩んでいた。
翼と共に暮らすことになり、3日が経過していた。
翼との生活に不満がある訳ではない。
寧ろ、元々好奇心が強く勉強熱心な翼は、雷希の行う一般的な家事にも興味を示した。
物覚えも良い為、2日目には自力で料理もするようになった。
それが不味い訳でもない。寧ろ美味い。
問題は、翼との生活に馴染めば馴染む程、世間の騒ぎが増す一方である事。
そしてもう一つが。


第4晶 同居人襲来


空高翼は、雷希が教えてくれた掃除・洗濯・料理という家事一般に興味を示した。
今までは何もしなくても綺麗な部屋、綺麗な服、美味しい食事が用意されていた。
自分自身で何かをする、という経験はほとんどなかった為、興味は人一倍だった。
自分で作った料理を、雷希が美味しいと言ってくれたのも嬉しかった。
掃除や洗濯をすると、とてもすっきりして、清々しくて気持ち良いと知った。
少しずつ馴染みつつある生活に比例して、世間の騒ぎは大きくなる。
ついに政府から、捜索隊が派遣される話も出ているようだ。
勿論、後ろめたい気持ちが全くない訳ではない。
だからといって、後悔がない訳でもなかった。

「よし、これで全部かな。」

布団のシーツやシャツといった、洗濯物を外へと干す。
今日の天気は快晴で、見事な洗濯日和だった。
森の中に佇むこの家の周りには、当然木々以外には何もない。
柳靖地の街外れにある森から、更に奥深くに入った場所にある家は、翼自身最初に見つけるのに苦労した思い出があった。
我ながらよく見つけた、と当時を思い出しうんうんと一人で頷く。

(そういえば、)

雷希に家事を教えてもらった際、ふと、気になるコトがあった。
まず布団のシーツ。
最近中々シーツを洗う暇がなかったから、と頼まれたが、洗濯したシーツは4枚。
いくら洗う暇がなかったとはいえ、一人暮らしで4枚も出るだろうか。
そして食器。
食器も、茶碗や箸が、少なくとも、雷希のものと思えるそれの他に2つあった。
という事は。

「もう洗濯終わったん?」
「あぁ。」

雷希の声がして、振り向く。
何故か寝不足気味らしい雷希は、気だるい欠伸をしながらふらふらと外に出て来た。

「無事全部終わったぞ。センタクキというものは凄いな。あっという間に綺麗にしてくれる。」
「洗濯機も知らなかった訳?世間知らずもいいところだな。」
「だからこそ、こうして色々知りたがっているのではないか。ところで雷希。」
「なんだ?」
「もしかして、本当は雷希の他にも一緒に住んでいる人間がいるのか?」

先程疑問に思っていた事を、雷希にぶつける。
雷希はピタリ、と一瞬動きを停止させた。
そして、うー、とかあー、とか小さき呻きながら、短い髪をわしゃわしゃと掻く。
どう説明しようか悩んでいる様子だった。

「あー、まぁ、うん…そだね。いる。一応いる。ここ数日、外出してはいるけど。」
「もしかしなくても、俺がいるのは不味くないか?」

写真とはいえ、テレビで顔は全国に広がっている。
自分で言うのもなんだが、元々空高翼を知らない人間もいないと思う。
しかし、今回の自身の家出により、一層名前と顔が知れてしまったのは言うまでもない。
見つかれば、即政府に通報されるか、されなくとも、巻き込まれるのが目に見えている。

「いや、それはないよ。話せばわかる相手だし。ただ、なぁ。」
「ただ?」
「ただ、その。」
「雷希―」

その会話に入りこむように、雷希の名前を呼ぶ声が響く。
びくり、と雷希は身体を跳ねて、声のした方に振り向く。
翼も雷希の視線を追うと、その先には綺麗な青色の髪をした2人の人間がいた。
1人は長い髪を一つに束ねた少年で、もう1人は、腰まで長く髪を降ろした少女だった。
雷希の名前を呼んだのは少年のようで、ひらひらと手を振りながら雷希へと歩み寄る。

「やっと帰りましたよー、お腹空きました。あれ、そちらの方は?」

少年は翼に気付くと、首をかしげる。
翼は小さくぺこりと頭を下げると、

「空高翼だ。3日前から、雷希に世話になっている。」

と、簡潔に自己紹介をした。
少年はその名前を聞くと驚いたのか眼を見開き、少女は薄々気付いていたのか、無反応だった。

「翼、って、え、あの、空高翼?」
「あぁ。」
「さっき、街の街頭テレビで報道されてましたけど、あの、神の子の?」
「あぁ。」

一瞬の沈黙。
気付いたら、雷希が3メートル先に吹っ飛ばされていた。
目の前の少年によって殴り飛ばされたのだと気付くのに10秒かかった。

「え、ら、らい…」
「雷希!あなたって人は!まさか誘拐に手を染めるとは思いませんでしたよ!」
「ちょ、らいづ、おちつ、」
「言い訳無用です!こんな少女のようないたいけな男の子誘拐して!あなたがそんなHENTAIだとは思いませんでした!」
「あ、あの、違うんだ、えっと、」
「翼さん大丈夫です!いいんですよこんな奴構わなくっても!きっと脅されて無理矢理攫われたんですよね!大丈夫です今僕が助けますから!」
「いや、違…」
「雷月。」
「あう。」

雷希をひたすら殴りながらまくし立てる少年に、先程まで黙っていた少女が口を開く。
むんずと彼の一つにまとめている髪を掴むと、少年も動きを停止させた。

「落ち着く。雷希の話、ちゃんと聞こう?」
「あう…」

少女の言う言葉には従順なのか、少年も渋々雷希から離れる。
交代するかのように今度は少女が屈みこんで、雷希と目を合わせた。

「雷希。」
「なんだよ。」
「この人、空高翼?」
「そうだよ。」
「雷希がさらったの?」
「違う。コイツが勝手に家出して来た。」
「雷希、翼様と、知り合い?」
「まぁ、一応。」
「どんな?」
「…師匠だよ、もう何年も前の話だけど、さ。」

 


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