空高編


第1章 神子と家出



テレビでは、見知った顔をした男の写真が写っていた。
どうやら数日前から行方不明らしい。
誘拐とか、神隠しとか、それっぽいことを偉そうな中年親父が上から目線で語っている。
あの男がそんなタマじゃない事は、こちらがよく知っていた。
テレビを見ながら、ぼんやりと珈琲を啜っていると、ぴんぽん、とチャイムが鳴った。


第2晶 来訪者


扉を開けると、深々とフードを深くかぶった男。
男がフードを取ると、空色の髪がキラキラと朝日に反射していた。

「来ちゃった。」

それが男の第一声。
片手に握っていた珈琲カップを思わず叩き割りそうになったが、それをぐっと堪える。
何故この男が此処にいるのか。
そもそもどうやって、こんな森の中にひっそりと佇むこの家を見つけたのか。
色々問いただしたい事は山ほどあるけれど、その全てをなんとか飲みこみ、一言絞り出す。

「帰れ。」
「人がせっかく来たのに、帰れはないだろ。冷たい男だな。」
「俺はアンタなんか知らないです。通販ですか?間に会ってます、帰って下さい。」

勢いよく扉を締めようとするが、何故か数センチ隙間が空いたまま締まらない。
どんなに力を入れても扉が閉まらないので、何故かと視線を下に落とす。
視線の先には、扉との隙間に挟まれている男の足。
その足を、逆に蹴り返そうとしてみたが、それでもびくともしなかった。
痛くないのだろうか。

「痛いに決まってるだろ。あまり人を虐めるな。」

人の心を読んでいたかのように男が口を開く。
そして無理矢理こじ開けようと力強くドアノブを握っていた。

「じゃぁ足離せよ。」
「そしたらお前、扉を閉めるじゃぁないか。」
「閉めるに決まってんだろ!今更何しに来たんだよ!」
「世界征服。」
「は?」

予想外の回答に思わず間の抜けた声を漏らす。
その際に、こちら側のドアノブを引く力が緩んでしまった。
男の力が一瞬で勝り、力強く扉が開かれた。
風が勢いよく、外から吹き込む。
目の前の男の、短い空色の髪がふわりと揺れた。
サファイアブルーの瞳をした、テレビに映っている写真と、同じ顔の男。

「世界征服をしに来た!だから、俺は此処に来た。」

まるで小学生のような言葉に、呆気をとられてしまう。
怒るべきか。
飽きれるべきか。
追い出すべきか。
取りあえず、目の前の男に、少し温くなった珈琲をぶちまけた。

 


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