Pray-祈り-


本編



アルバは、イノセントに降り注ぐ、あらゆる不幸の受け皿として、生れ落ちてしまった。
双子のきょうだいなんて、お家騒動ともなれば確実に争うことが確立してしまう。
であれば、小さい頃から、圧倒的身分の違いを突きつけて、争う戦意を、削いでしまおうというのが、カートライト家の方針だった。
生まれて間もないアルバを、クロス家へ養子として引き渡す。
クロス家に女児が生まれれば、カートライト家の血を強く残す為の婿養子になるだろうし、男児が生まれれば、用無しになるか、良い盾代わりにはなるだろうという魂胆だ。
そしてクロス家もまた、純粋なるカートライトの血を継ぐ人間を手に持つのは、都合がよく、利害が一致していた。
愛情に飢えた、哀れな子。
目に涙を溜めて座り込むその少年と、ユーリは、視線を合わせる。

(この子を使おう。)

神器を効率的に集めるのであれば、カートライト家の人間が一番、効率が良い。
最終的に神器を一つにする際には、クロス=カートライトの血を受け継ぐ人間の命が必要なのだから。
アルバは、クロス家の養子にはなってはいるものの、カートライト家の血を強く継いでいる。血縁だけであれば、立派なカートライトの人間だ。
利用するのであれば、この子が、一番都合がいい。

「アルバ。私のために、戦ってくれないか。お前の力が、必要なんだよ。」

ユーリはそう言って、手を差し伸べる。
この時から、アルバは、ユーリの為に神器を集める傀儡として、利用されることになったのだ。
全ては、神器を一つにする、そのために。


第47器 永い時の終焉へ向かいB


ユーリは絡みつく植物を、青い焔で薙ぎ払う。
神器で強化しているとて、所詮は植物。薙ぎ払うのは、容易いことであった。
まさかアルバが土壇場で裏切るとは、イノセントを守るとは、正直、ユーリにとっては予想外のことだった。
アルバは、イノセントを恨んでいる。
それは今も変わらない。それは、アルバも宣言していたことだ。
カートライト家も、クロス家も、全てなくなってしまえばいいと、そう宣言している位だったのだから、全て滅ぼしても構わないと言う位だったのだから、ユーリの最終的な目的を聞いても、微動だにしないだろうと思っていた。
しかし。

「ミストを…ミストを殺したのも、お前なのか…!」
「そうだ。奴は、お前のことを止めるやも知れぬ可能性があった。故に、殺した。」
「シリルはどうした!ノアは!ヨアンは!下にいたやつらは…!」
「さぁな。」

ふ、と鼻で笑って見せる。
すると、アルバは明らかに激昂した表情で植物を操り、銃を撃つ。
ユーリは失念していたのだ。
愛情を求め続けたアルバ。そんなアルバの隙を突くのは容易かったが、そんな彼だからこそ、自分のことを認めてくれる人間には、自分の傍にいてくれる人間には、多少なりとも愛着や執着を持つ。
だからこそ、アルバは、ユーリに武器を振るうのだ。
カートライト家や、クロス家。家そのものがどうなっても、構わない。
けれど、自分が仲間と認めた、小さな世界までもが脅かされるのは、許せなかったのだ。

「私は、私は大罪人だ!嫉妬に溺れ、お前に従い、神器を集める為に、どんなことだってした!」

アルバが吠える。

「アレスの自害願望を知っていて、引き入れた!最終的にはどうなるかもわかっていた上で、私は、あの子を救いきれなかった!だから、ハマルまでもが、死んだ!」

その叫びに呼応するように、植物が蠢く。

「ミストもっ…みんな、みんな、私が巻き込んだ…!」

アルバの拳は力強く握り締められていて、その拳からは、血が滲む。

「お前の異変にも、気付いていた…!」

ユーリが剣を振るう。
刃はアルバの胴体を切り裂く、その寸前、白い光の壁によって阻まれる。その光は、イノセントの生み出す光の盾だった。

「くっ…邪魔をするな…!」
「残念だが、邪魔はさせてもらう!お前のバカげた企みは、達成させる訳にはいかない!クロス=カートライトだって、そんなこと望んではいない!」

イノセントの手に、白い光の球体が浮かび上がる。
彼が放った球体を避けると、それは壁へとぶつかると勢いよく壁が破壊された。バラバラと壁の破片が霧散していく。
霧散した破片は土埃のように舞い上がり、ユーリの視界を奪う。
その隙を突いて、イノセントとアルバがそれぞれ銃弾を放つ。銃弾はユーリの身体にぶつかる、その寸前でぴたりと止まった。

「あら、銃弾なんてまたお下品な。」
「酷いじゃないか、こんなことをするなんて。」

銃弾の目の間に、真っ白な少年少女が現れる。
銃弾を止めたのは、アダムとイヴ。ユーリの所有する、使い魔たちであった。

「かつてのご友人の、その子孫と争うことになってしまうなんて、嘆かわしいですわ。嗚呼、とても嘆かわしい。」
「仕方ないよ。そういう宿命だもの。さ、イヴ。この弾は、彼等に返そう。」
「ええ、そうしましょう、アダム。」

二人は外見年齢相応の無邪気な笑みを見せながら、銃弾を、紙飛行機でも飛ばすようにアルバとイノセントに向かって軽く投げる。
すると、軽く投げただけだというのに、その弾はまるで銃から直接放たれた時と同じように、速度を速めてアルバとイノセントの、それぞれの足を貫いた。
足を貫かれ、バランスを崩した二人の身体はガクリと倒れる。

「あら、どうしましたの?もう、おねむの時間ですか?」
「駄目だよ、寝るなら布団じゃないと。」

クスクスクスと、二人は嗤う。
それは、少年少女の純粋なる笑い声とは、少し異なる。不気味な、怪しい、人為らざる者の笑み。
少年少女の手には、巨大な鎌が握られていた。

「ですが、私たちは優しいですから、此処で眠らせてあげますわ。」
「そうだね。そうしよう。ただし、永遠に、だけどね。」

アダムとイヴが、鎌を振り下ろす、その刹那、ユーリのものとは異なる青い焔がアダムとイヴを包んだ。
キャア、という悲鳴をあげて、二人は炎から逃れる。
鎌は炎の熱気でどろりと溶け、二人の衣服も、所々黒焦げになっていた。
その炎を放ったその主は、コツコツと二人の前へと歩き、そして、見据える。

「エイブラム…!」
「おい、無茶するな、エイブラム!」

イノセントとアルバがそれぞれ声をかける。
エイブラムの胸元に飾られたネックレスが、強く、赤く光り輝くと、勢いよく赤い雷が放たれた。
雷はアダムを、イヴを、そして、ユーリをそれぞれ狙い、放たれる。
しかし、ひらりひらりと交わされて、なかなかあてることが出来ない。
力を放てば放つ程、エイブラムの中に疲労が蓄積していき、自然と、床に膝をついてしまう。よくよく考えれば、エイブラムは今日、何度も何度も神器を解放させているのだ。
そろそろ、疲労がたまっても、おかしくはない。

「あら、もう、終わりですか?」
「お疲れのようだね、じゃあ、邪魔だから、死んでもらおうかな。」

アダムがどろりと溶けた鎌に触れると、再び、鎌は鋭い刃を取り戻す。
今度こそ、もう駄目なのだ。

「エイブラム!」

アベルの叫び声が聞こえる。
喉元が、やけに熱い。何故、こんなにも熱いのだろうか。それに、やけに眩しい。

「…え…」

光の正体は、エイブラムのネックレス。
今までとは次元の異なる、強い輝き。どくんどくんと、心臓の鼓動が高鳴っていく。この鼓動の正体は、エイブラムには、なんとなく、理解することが出来た。

「…解放…」

エイブラムがぽつりと呟く。
赤い光に包まれると、エイブラムのネックレスがぐにゃりと形を変えていく。
その形は、まるで巨大な剣のようにも見えて、エイブラムはその剣を、ぎゅっと力強く、握り締める。
年季の入った、人の身体と同じ位とも思われる巨大な剣。
本来のエイブラムであれば、重くて、持てなさそうなものなのに、恐ろしい程にエイブラムの手に馴染み、そして軽い。
それが、エイブラムの神器であるということを、物語っていた。

「エイブラム!」
「わかっている!」

遠くから、アベルが、イノセントが、皆が、エイブラムを呼ぶ声が聞こえる。
エイブラムは、勢いよく剣を振りかぶり、二人の使い魔のその胴体を、切り裂いた。

 


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