Pray-祈り-


本編



「そうか、やはり、オセロ=グレイは黒か。」

時刻は放課後。場所は協会。
エイブラムたちは、昨日デールの店で仕入れた情報と、昼間のオセロとのやりとりについてを報告した。
報告を聞いたイノセントたちは、顔をしかめる。
どうやら、デールが言っていた、他の共鳴者による犯罪についても報告があがっていたようだ。

「こちらも神器の確認と調査を行っていたが、やはり、いくつか紛失していた。そして、紛失していた神器と、ユーリの資料室から抜き取られていた資料は一致していたよ。」
「じゃあ、神器の使い方を相手は理解してる可能性が高いんだな。」

アベルの問いかけに、イノセントが頷く。
今回の事件の犯人たちは、各々神器の使い方を把握していて、その上で犯罪を犯しているというのだがから、性質が悪いにも程がある。
そして、犯罪に使われている神器は皆、協会から奪われた神器だと言うのだから、尚更だろう。

「他の神器については、こちらに任せてくれ。エイブラム、アベル、アリステア、ベイジルの四人は、引き続きオセロ=グレイの神器犯罪を取り締まってくれ。」
「了解した。」

まずは、どうやって彼を止めるかではあるのだが。
エイブラムの脳裏には、オセロの自信たっぷりな笑みが張り付いたまま、離れなかった。


第16器 灰色の世界と白黒の世界


オセロ=グレイの計画は、彼にとって順調だった。
まずはテレビに出ている有名人。
数々の不祥事疑惑が出ているが、正式に処分のされていない、所謂グレーな人間に処罰を下した。
周囲の反響は、想像していたよりも良かった。
やはり、自分と同様、中途半端に処分も受けず、のうのうと生きている人間に異を唱えたい者は、数多く居たらしい。
オセロが多くの人間を粛清すればする程、その反応はどんどん大きくなっていって、その光景は、ひどく気分が良かった。
自分の考えが全て正しいのだと、自分は間違っていないのだと、改めて思うことが出来るから。
それが快楽になっていたのだ。

「さて、と。」

オセロは放課後も開放されている学校の図書室に座る。
一人席のそこは、オセロにとっては特等席で、各々勉強に集中しているので、万年筆で何かを書いたとしても、誰も気付かないのだ。
だからこそ、犯行手段は容易い。
懐から、古びた紙きれを取り出す。
色褪せた紙に、黒いインクで書かれた達筆な字をよく読めば、この万年筆の使い方がこと細やかに書いてあった。
これがどんな存在なのか。
どのように使えばいいのか。
初めて使った時は、胸が昂ぶった。
まるで、自分が特別な存在になったかのような感覚に陥り、何でも出来るような気さえした。
そして誓った。
己の理想のために、コレを使って、世界をあるべき姿へ、正しい姿へと導いていこうと。

「今日は…」

オセロは、今日のターゲットを考える。
最近、テレビで出て来た人間は尽くターゲットにしてしまったので、もうあまり、ターゲットにすべき人間がいない。
そういえば、とオセロは思い出す。
確か、政府の少し偉い人が、今日この近辺で演説をするらしいという話を聞いた。
流石に不可解な事件が相次いでいるので中止をした方がという声もあったらしいが、だからこそ、危険を冒してでも演説をするという姿が高評価を得るだろうということで無理矢理決行するらしい。
御曹司という立場は好きではないが、立場がそれなりにあると、そういった話も、政治とは無関係なはずなのに、よく耳に入る。
否、無関係ではない。
結局は、関係してしまっているのだ。金という名の癒着という形で。
今日、この辺りに訪れるという政治家も、グレイカンパニー、つまりは父と癒着をしている人間の一人。
けれど、決定的な証拠もないから、言及されても、のらりくらりと交わしている、そんな卑怯な人間の一人。
腹立たしい。
非常に、腹立たしい。
鞄からいそいそと、オセロはノートを取り出す。
ノートを捲ると、そこには今まで被害にあってきた人間たちの名前が、ずらりと記載されていた。
ノートでなくてもいい。
ありとあらゆるものに、とにかくこの万年筆を使って、人の名を書くと、その人間の身体を強力な磁石のようにしてしまうという、不思議な万年筆。

「制裁しないと。」

そうしなければ、狡い人間ばかりが得する世界で在り続けてしまう。
そんなことは、オセロ=グレイは、どうしても許すことが出来なかったのだ。
ノートに、今日のターゲットとなった人間の名前を書きこんでいく。
これで、今日もまた一人、粛清される。
そう思った、その時。

「…!」

ズドンと、大きく鈍い音が響いた。
その方角は、間違いなく、ターゲットがいまの時刻に居るはずであろう場所だ。
図書室内にいる生徒たちも、今の音に驚いたのかざわざわと騒ぎ始める。
そんな彼等の間を横切りながら、オセロは図書室を出て、現場へと足を進めた。
その先は、いつもの光景だ。
金属類にまみれた人間が、苦しそうに呻いて、地面にひれ伏している、そんな光景が拝めるはずだ。
そして、周囲の人間も、ひれ伏したターゲットに自業自得だと嘲笑う。
そんな、いつもの光景が見れる。
見れるはず、だった。

「よぉ、待ちくたびれたぜ。オセロ=グレイ。」

しかし、其処には地面にひれ伏すターゲットはいなかった。
ターゲットは確かに地面に近い位置にはいたが、尻もちをつき、口をパクパクさせて、空を見上げながらお漏らしをしている。
空中では、車や鉄パイプ、看板といった金属類がターゲットに向かって飛びかかっている状態で、停止していた。
バチバチバチと、赤い電流が空中に漂っている。

「嗚呼、そうか…君も…」

思えば、不思議だったのだ。
何故彼に声をかけようと思ったのか。何故、彼と話そうと思ったのか。
でも、今ならわかる。
もし、神器と共鳴することが出来るというのならば、共鳴者同士にもきっと、何か繋がりめいたものを感じてしまうということなのだろう。
だからこそ声をかけてしまったし、彼自身も、自分の存在を、事件のことを、知っていた。

「君も、共鳴者だったんだね、エイブラム=アクロイド。」

瞬く赤い光は燃え盛る炎のようで、キラキラと煌めいていて。澄んだ翡翠の瞳は、今の自分にはない、どうしようもなく焦がれるもので。
そんな彼が酷く羨ましく、そして、苛立ちを感じたのだった。

 


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