Pray-祈り-


本編



「まずは、皆に配った資料があるはずだから、それを見て頂戴?」

シリルに言われ、渡された資料に目を通す。
それは、何人もの人間が大量の空き缶や、無数の鉄くず、それに車といったものに押しつぶされ、病院送りになってしまっている写真だ。
しかも身体にくっついてしまったそれらは、一度くっつくと中々離れず、中には病院に収容したはいいが、今度はベッドから離れられなくなってしまったという者までいる。

「ベッドからも…?じゃあ、ずっとまとわりついているのか、これ…」
「厄介でしょぉ。それと、これ。」

更にシリルは手渡して来たのは、手紙だ。
警察にあてられたもので、内容を読んでみる。

『白は白へ。黒は黒へ。灰色は決して許されない。灰色は全て黒とみなし、天罰を処す』

そう書いてある手紙だった。
よく見ると、被害にあった人間というのは、色々な『疑惑』がかけられている有名人で、最近テレビによく出ているような者ばかりだ。
あくまで疑惑の段階にとどまり、決定打に欠ける故に中途半端に浮いている人物たち。
そういった人物たちが、ターゲットになっているという訳だ。

「困ったものねぇ。これじゃ私たち、警察の面子も丸潰れよぉ。それに、これはアリスちゃんと違って、意図的にやってるタイプだから、厄介だわ。」
「こちらとしては警察の面子はどうでもいいけどな。これ以上、被害を増やす訳にはいかない。情報をもみ消すのだって大変なんだからな。」
「もう、アルバちゃんいけず。」
「とにかくだ。被害者はテレビに出ている人間だから誰でも特定できるような人物だし、神器の能力もよくわからないし、わからないところがあり過ぎるんだ。戦力は多いに越したことない。頼むぞ。」

シリルの言葉を遮り、アルバが言う。
とにかく、この事件の主犯を突き止め、捕えるしかない。
けれど、どうやって探せばいいのやら、悩めるばかりであった。


第10器 ユーリの図書館


エイブラムは、新聞の記事がまとめられた資料を一枚一枚読み、共通項目をまとめていた。
金属が体中に纏わりつき、その重みに耐えられなくなり動けなくなるというものが、全てにおいて、共通している事柄である。
入院すればそれで解決、という訳でもないので、アリステアの件と比べれば、事件の解決が急がれる。
アリステアの時も、錯乱で急がれる状況ではあったが…それでも、死んでしまう位に錯乱をしている者はいなかった。今回の場合は、時間が経過すれば、骨や内臓が押しつぶされ、命を落とす者も現れるかもしれない。
それだけではなく、被害者がテレビを賑わせるような人物ばかりということもあり、警察が動かざるを得ないのもよくわかった。
しかし、手がかりがあまりにも少なすぎる。

「…こんなの、俺たちでもどうしようもない気がするんだが…」

場所は図書館。
放課後に、四人で集まろうということでこの街にある最も大きな中央図書館で、四人は集まっていた。
学校の図書室でも良かったのだが、此処の方が種類は豊富だ。
それに、この図書館に行けというイノセントの指示もあった。会わせたい人がいるのだと。

「捜査は順調か?」
「順調も何も、被害者の共通項目から、神器の特徴が予想出来るくらいで…」

投げかけられた質問に、エイブラムが振り向きながら答える。
すると、其処には見たことのない青年が立っていた。
美しい金色の髪は足元まで伸びていて、もうすぐ引きずってしまいそうな程だ。両目の深紅の瞳は深く、何処か愁いを帯びている。
両隣には、白金の美しい髪をした二人の少年少女が佇んでいた。

「驚かせてすまない。イノセントから、話は聞いていないか?」
「…確か、会わせたい人間が、いるって。」
「嗚呼、その程度しか聞いていなかったか。自己紹介をさせてくれ。…私はユーリ。ユーリ=フェイトだ。教科書に少し名前が載っている程度には、知ってもらえているかな?」
「ユーリ?!ユーリって、あの、魔女時代の…」
「そう。戦乙女の魔女を葬り、その魔女によって不死の呪いをかけられた、哀れな男が私だよ。」

ユーリはそう言って、優しく微笑む。
外見年齢はイノセントと比べると全然若く、まだまだ幼さが見え隠れする青年の顔だというのに、その表情は、今まで会ったどの大人よりも、達観していて、大人びているように見えた。

「じゃあ、本当に、あの時代から…?」
「そうさ。クロス=カートライトがまだいた頃から。そしてその子が継ぎ、またその子が継ぎ、今のイノセントの代になるまで、ずっと、私は生きて来た。かつてはもっと、カートライト家とは近いところにいたのだが…いまじゃぁこの通り、この図書館で、ひっそりと司書をしながら生きているよ。」

そう言って笑うユーリの表情は、何処か、複雑そうに見える。
懐かしんでいるような、寂しんでいるような、憂いているような、そんな、色々な想いか、彼の中に渦巻いている、そんな瞳のように見えた。

「カートライト家は、力をつけすぎたのですわ。クロスが亡くなって、その娘の代も終わり、代が進むごとにユーリの有難味は薄れ、ついにイノセントの親の代で、彼を司書という立場に追いやったのです。」
「酷い話だよね。カートライト家が此処まで大きくなったのは、クロスとユーリのおかげ。決してクロスだけのおかげじゃないし、クロスだって、それを望んではいないのに。所詮七光り共なのに、本当に、酷い話だ。」

くすくすくすと声を立てて笑う少年と少女。
この二人も、まるでクロスを見知っているかのような話しぶりだ。それに、一見するとただの少年と少女のようだが、何処か、人間離れしているように見える。
否、何処かではない。間違いなく、二人は、人間ではない。

「こら。アダムにイヴ。それは言ってはいけない約束だよ。」

ユーリはそう言って、二人の頭を優しく撫でる。
二人は頬を膨らませて納得をしていなさそうだが、それは、ユーリを想って故の抗議なのだというのは、よく伝わった。

「…そうはいっても、イノセントとその親は、別だ。イノセントの頼みとあれば、私は喜んで力を貸したいと思っている。…故に、協会には個人的に力を貸していてね。情報を提供しているんだが…四人には、来て欲しいところがあるんだよ。」

四人が首を傾げる。
恐らくこのためにイノセントは自分たちとユーリを会わせたのだろうが、一体何処に連れて行くというのだろうか。

「此処の資料なんて、たかがしれている。所詮は一般人向けのものだ。…奥までおいで?」

ユーリに連れられ、図書館の奥へと足を運ぶ。
奥には少し古びた扉があり、硬く鍵がかけられている。ユーリが懐から、扉と同様、古びた鍵を取り出してゆっくりと開ける。
そしてその扉の向こうには、図書館内部程ではないが、いくつもの本が敷き詰められていた。

「これは…」
「今まで見つけた、神器についての資料をまとめたものを保管している。教会の地下には神器本体を、そしてこちらでは神器の詳細についてを書いたものをまとめ、協会の人間以外にはその両方がわからないようにしているんだ。これは、クロスが考えたことなんだがな。」
「クロス=カートライトが?」
「クロスは、いずれ身内で争いが起こるかもしれないことを憂いていた。だから、私に資料を託したんだ。神器の使用方法がこれで解明されることで、カートライト家が神器を使って争いを起こすことを防ぐために、な。」

そう苦笑しながら、ユーリは本棚にある資料のいくつか取り出し、エイブラムたちに手渡す。

「図書館で調べるなら、此処が打ってつけだろう。今日は此処を使うといいし、今後も使うことがあれば、私に声をかけてくれ。いつでも貸すぞ。」
「嗚呼、ありがとう。」
「ところで、神器の特徴はわかったと言っていたが…教えてくれないか?」
「あくまで俺とアリステアとアベルが考えた仮説なんだが、被害者は皆、金属が身体に纏わりついている。まるで、磁石で引き寄せられたかのように。」
「磁石…つまり、人体を磁力化させる力、ということか?」
「わからない。けど、そうじゃないかって思っている。身体に纏わりついているのも金属ばかりのようだし、それが一番妥当なんじゃないかって。」
「成程。磁石、か…」

ユーリも、少し悩むような仕草をしてから、アダムとイヴにそれぞれ本棚を指で示す。
たったそれだけの仕草で、二人はその真意を理解したようで、それぞれ本棚へと向かい、資料を取り出す。
取り出した資料をユーリに手渡すと、ユーリはそのページをパラパラとめくり出した。

「…ふむ。ほら、お前ら、見ろ。」

ユーリにそう言われ、一同はその資料を覗き込む。
一部の資料が抜き取られているような痕跡があり、しかも、資料にあまり埃がついていない保存具合からして、抜き取られたのは最近のようだ。

「これ、は…」
「誰かに抜き取られてるな。確か此処には、神器の使用方法が記載されていたはずなんだが…」
「何の神器か、覚えてないのぉ?」
「安心しろ。書かれていた内容は全て覚えている。なんせ、これらを記録していたのは全て、私だからな。」

ベイジルの言葉にユーリは得意げに語りながら、記憶の片隅を掘り返す。

「確か、名を書くことで相手を指名し、身体を磁石化させてしまうものだったな…」
「その神器、どんな形状をしてるんですか!?」
「確か、万年筆だ。」
「万年筆ぅ!?」

四人は、ユーリの言葉に、呆けたように声を発したのだった。

 


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