Pray-祈り-


本編



「やぁ、大人数だねぇ。こんにちは。」

教会を訪れると、其処には一人の少女と、一人の青年がいた。
美しい桃色の髪と、翡翠の瞳をした少女は、白いフリルのスカートを翻してにこにこと朗らかに微笑んでいる。
それとは対照的に、隣にいる深緑の髪と紫色の瞳をした青年は、無表情の仏頂面で、こちらをじぃ、と眺めていた。

「やぁ、君がエイブラムだね。初めまして。おれはアレス。アレス=トアだよ。」
「え、あ、ああ、初めまして。」

桃色の髪をした少女は、人柄の良い笑みを浮かべながら、白い手を差し出す。
小さく細い手を握り、握手をするが、そこで一つ疑問が浮かんだ。

「あの、おれ、って…」
「ああ、おれ、男なの。ちゃんとつくものついてるよ?知らなかった?」

にこにこと笑顔を浮かべたまま、平然と言ってのけるアレスに、思わず口を開き唖然とした表情を浮かべてしまう。
そして、思わず、アリステアの方を見てしまった。
アリステアも、過去の己の醜態を思い出しているのか、複雑そうな表情を浮かべている。

「…アリステア…女装男子という方向も、アリだったんじゃないか…?」
「触れるな。もうその話には触れるな!俺はもう胸を張って男として生きると決めたんだ!」

アリステアの叫びが、あまりにも悲痛だったので、それ以上は触れないことにする。

「…おい。煩いぞ。どうせイノセントさんに会いに来たんだろう?さっさと地下に行けよ、今は丁度、アルバさんと地下にいるから。」
「あ、えっと…」
「こら。」

仏頂面の青年がじろりとこちらを睨みながら言うものなので、思わずたじろいでいるとアレスが青年の頭を勢いよく殴った。
紫色の瞳が、涙で潤んでいる。

「うちのバカがごめんね?こっちのバカはハマルって言うんだ。」
「おい、アレス。誰がば…」
「ほらバカ。自己紹介しなよバカ。それとも自己紹介も出来ないのバカ。さっさとしなよバカ。」
「…ハマル。…ハマル=シェタランだ…よろしく、たのむ…」

今にも泣きそうになりながら自己紹介をするハマルの姿は痛々しく、とても不憫でならなかった。


第9器 カートライトとクロス


地下へと降り進むと、そこのは深刻そうな表情で会話をするイノセントとアルバの姿があた。
彼等の他にも客人がいたようで、すらりとした長身の男が立っている。
何処か見覚えのある黒い制服からして、どうやら警察の人間らしい。

「嗚呼、エイブラムにアベルか。すまないな、来てもらって。今丁度、ちょっと厄介なことが起きてしまってな。」

こちらに気付いたイノセントが、少し困ったように笑う。

「困ったこと、と言いうと、また神器絡みか?」
「そうだ。しかも今度は警察も関わっているらしくてな、少し動いにくいやつなんだよ。」

エイブラムの問いかけに、アルバが頷く。
その警察らしき人間は、こちらの存在に気付くと近付いて来てにこりと微笑んだ。
白髪の髪に、警察の人間にしては少し派手な赤色のメッシュがかかった青年は親しげにエイブラムと握手をする。
よくみるとその青年には見覚えがあり、かつての宝石店強盗事件の時、アルバを諌めてくれた青年だった。

「あなたとは二度目になるけど、一応、初めましてって言っておくわね。私はシリル。シリル=ローレンスって言うのよ。警察の人間でもあるんだけど…神器の共鳴者でもあって、こうして、協会の助けが必要な時は、アルバちゃんやイノセントちゃんに会いに来てるの。」

そして、神器の件が公にならないように上手く隠蔽する役割も、担っているらしい。
成程、そうでなければあの強盗事件は警察が捕まえて幕を閉じた、だけでは済まないはずだ。

「ちゃん付けをするなシリル。私のことはいいが、イノセントにはやめろ。仮にもコイツは、カートライト家の家長だぞ。」
「おいおい、アルバ。別に良いって。そんな大それたものでもないし。」
「魔女を倒した名家の家長だ。大それているべきなんだよ。クロス家の人間として、そこだけは口出しさせてもらうぞ。」

アルバはじとりとイノセントを見ながら言う。
その口調は何処か厭味のようにも聞こえなくはないが、イノセントの表情からして、どうやらこのやりとりはいつものことなのだろう。

「あの、差し支えなければ教えてもらいたいのだが…クロス家の人間として、って?」
「嗚呼、差し支えは全くないぞ。クロス家は、カートライト家の分家に当たる。カートライト家はクロスの娘が継いだが、クロス家は、その次に生まれた息子が継いだらしい。お家争いがなくなるように、というクロスの配慮だったそうだ。カートライト家とクロス家は代々対等の関係を保ちながら、互いを支え合っている。家族同士、肉親同士で恨みを抱かないためにな。クロス家は、カートライト初代家長のクロスの名から取っている。」

とはいっても、とアルバは困ったように肩を落とす。

「このように、イノセントが協会の団長をし、カートライト家家長として言われる中、私は副団長でクロス家の婿養子。二番手もいいところだよ。」
「お、おい、アルバ?!だから私はお前が団長の方がいいと以前だなぁ…」
「それは聞き飽きたよイノセント=カートライト。お前が団長でいいと何度も言っているだろう。今のはジョーク。軽い厭味と嫌がらせだ。それくらい理解をしろ。」
「うう…」

アルバが笑ってイノセントの抗議をかわすと、がっくりと肩を落とす。
こうしてアルバがからかい、イノセントが振り回されるのはよくあることらしい。
そして、イノセントはカートライト家家長という身分が、あまり好きではないように見える。

「婿養子、ということは…直接、血の繋がりとかは…?」
「ないない。全くないよ。私は他所から来たのでね、だからこそ立場も低い。」
「でも、二人とも、よく、似てる。」
「ないないないない。よく見ろ、そこの緑頭。私の髪と、イノセントの髪、まったく別の色だろう?それにイノセントの方が背も高いしゴツいしこんな奴と似ているなんて屈辱だぞ屈辱。まさか、目の色が似てるとか言うんじゃないだろうな?これは偶然だぞ。寧ろ、私はこの偶然からクロス家にもらわれ、イノセントのお守を命じられてる経緯があるんだからな、目の色が似ている人間なんてよくある話だ。まぁ、オッドアイは珍しいかもしれないがな。」

とにかく、この話は終わりだ、とアルバは言った。
しかし、ベイジルが似ていると言った途端、アルバは少し、ムキになっているような気がしたけれど、気のせいだろうか。

「まずは、その二人の共鳴者の処遇だな。えっと…」
「アリステア=ユーイングと、ベイジル=イーデンです。アリステアは今回の神器暴走の元凶ではありましたが、現在は肉体的、精神的にも安定をしています。強力な反射能力もあるので、使いこなせればかなりの戦力かと。ベイジルは逆に、能力が魂の浄化ということで決定打には欠けますが、神器の力を無効化することが出来た件もあるので、全く力にならないと言う訳では。」

アベルは淡々と、二人の情報について書類を見ながら読み上げる。
ベイジルはいつも通りという様子だが、アリステアは、緊張の表情を浮かべていた。
ベイジルとは違い、彼は騒動の原因にもなっているのだから当然だろう。しかも警察の人間までいるのだ。何か処罰があると思っても、おかしくはない。

「そうだな…アルバ、お前ならどうする?」
「私に聞くな。お前の意見をまずは聞かせろ、イノセント。」
「む、二人とも確かに神器を使いこなせればかなりの戦力になりそうだし、アリステアは、暴走こそさせてしまったものの、過去の件がある。完全に悪意がないとはいえなくても、無意識化での暴走だから…意図的にしていたとも言い難いし、だな。」
「ならば、こうしよう。アリステア=ユーイング。お前はお前の意思に関係なく、協会に加入してもらう。神器の使用を認める代わりに、我々の命ずる任務には赴いてもらうし、まぁ、所謂監視だな。…ベイジル=イーデンについては、個人の自由に負かす。神器を使って協会に残るも、神器を放棄するも、自由だ。」

それでどうだ?と、アルバは答えた。
イノセントもアルバの意見には賛成のようで、その意を込めて頷く。
戦力は欲しい。けれど、簡単に許される訳ではない。だからこその、強制的な協会の加入だろう。

「元々、罰を受ける覚悟をしていたんだ。協会加入で済むなら、まだマシだ。」
「安心しろ。学業やその他諸々の生活に干渉する気はない。ただ、アベルとエイブラムに、何か不穏な動きがあれば報告してもらうだけだ。」
「わかった。加入を受け入れるよ。」

アリステアは、あっさりと協会への加入を承諾した。
もしかしたら、元々加入を考えていたのかもしれないな、とエイブラムは思う。
そして、ベイジルの答えもまた、決まっていた。

「ぼくも、加入するよぉ。アリステアにはぼくがいた方が丁度良いだろうしぃ?能力的に、役に立つかはわからないけどぉ。」
「そう言ってくれると、助かるよ。一人でも、戦力は多い方がいい。」

ベイジルもまた、協会への加入を承諾する。
本来であれば、友人として、二人まで巻き込んでしまうのは心苦しい面があるのだが、しかし、友人が仲間でいてくれると、心強い。
アベルも、エイブラムが協会に加入すると聞いた時はこんな気持ちだったのだろうかと、思ってしまう。

「まぁ、アリステアとベイジルにはそもそも神器の説明をしなければいけないと思うんだけどね。それは、この話をした後にしようか。」

イノセントは優しく微笑むと、書類を四人に手渡した。
また新聞の切り抜きが、いくつか張り付けてある。その他には、警察の調書のようなものまであった。

「早速、四人には任務を言い渡す。これから説明をするから、よく聞いてくれ。シリル、説明を頼む。」

そう言うと、シリルはにこりと、微笑んだ。

 


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