ルフラン


本編



放たれた炎と雷はぶつかり合い爆発する。
どんという音を立てて、ユーリの身体とトールの身体は一気に吹き飛んだ。

「ユーリ!!」
「大丈夫だ!」

クロスの言葉に、ユーリは応じる。
恐ろしい程に、身体が軽い。
今までの自分と別人になっていくような、そんな感覚。
どくんどくんと、未だに心臓は煩く鼓動を奏でている。
ズキンと、激しい頭痛が突然ユーリを襲い、思わず膝をついた。
脳裏に浮かびあがるのは、誰かに微笑みかける、白髪の女性。

「ユーリ?」
「…大丈夫、だ。」

再びユーリの名を呼ぶクロスに、同じ言葉を返す。
頭痛は止み、目の前で微笑んでいるのは白髪の女性ではなく、薄い翡翠の髪の少女。

(あの…女は…)

誰だったのだろう。
そう考える暇すらも、今のユーリには与えられていなかった。


17 ユーリの焔。


かつて世界は、一度滅びた。
滅びた世界の中、僅かに生き延びた人間たちは各地へ散り、子孫を残し、文化を違え、国を作った。
そして世界は未だに争いを続けている。
かつて滅びた世界の痕跡は、僅かしか残っていない。
当時生きていた人間の手記。
残っているところで、それくらいだろう。
かつて滅びたその世界には、神々が生み出した使徒が現世に存在し、神の代わりに世界を滅ぼす代行者として神の力を授けられたそうだ。
その使徒たちは「使者」と呼ばれ、神はこの世界の存在を嘆き、世界を滅ぼしたと。
しかし、世界を滅ぼしたのは神ではなかった。
世界を滅ぼしたのは、神の中でも創造神たる存在を殺した、神子だったという。
そして世界を滅ぼした神子は、あるものを遺して…

「ユーリ!!!!」

はっとして我に返ったユーリは再び剣を振るって炎を作る。
生み出された炎の渦は少女を包むが、渦は電撃によって弾け飛んだ。
にこり、と少女は余裕たっぷりの笑みを浮かべている。

「油断するな莫迦!!!」
「煩い!痺れて動けないお前がとやかく言うな!!!」

しかし、クロスの言う通り油断していたのもまた、事実。
今の記憶は、依然書庫で読んだ歴史書の一部だ。
所詮は神話の類だろうと鼻で笑い、歴史書としてではなく、ただの創作話としてそれなりに楽しませてもらったのは覚えている。

(でも、どうして今、あの時の記憶が…?)

はぁ、とユーリは小さく息を吐く。
不思議と疲れは感じない。
今まで振るっているのがやっとだった剣も、今では手に吸い付いて身体の一部のように感じる。
此処までの変化の違いは何なのだろうかと不思議に思うが、考える暇はない。
今は目の前の少女を倒すことに、集中しなければならない。
炎を放てば電撃ではじかれる。
しかし剣で斬ればまとっている電撃でこちらが痺れ、槌によって潰される。
悩ましい限りだ、とユーリは考え込んでいた。

「おい、ユーリ!」

クロスがユーリを呼び、ふらりと立ち上がってユーリへ近寄る。
先程よりは動ける程度に回復したらしいが、まだ戦闘するには心元ない。

「一つ、思いついた。」

クロスはそう言って、ユーリに耳打ちする。
ユーリはそれを聞いてふむ、と呟き剣を構えた。
その様子を少女は不審に思うが、にこにこと笑みを浮かべたまま槌を握る。

「何か作戦を思いついたのかな?でも君に僕は倒せないと思うよ?」
「それはどうかな。」

ユーリは構えた剣を地面に突き刺す。
剣から青白い炎が発せられ、辺り一面の氷を解かしている。
血迷った故の行動と解釈したトールは、槌を握りしめ一歩、足を踏み込んだ。
身体に電気を帯びたまま。

「っ!!!!!」

バチバチバチと彼女の身体からショートしたように火花が散り、ガクリと膝から崩れ落ちる。
ピクリとも動けない身体に、トールは愕然とし、言葉も出せない。
否、正確には言葉を出したくても出せないのだろう。
踏み込んだ足の先には、ユーリが解かした氷の水。
彼女は自分自身の電気に、感電してしまったのだ。

「油断は命取り、だな。」

ユーリはそう呟き、少女の首と胴体を、その剣によって切り離す。

「クロス。」
「はいはい。」

もう身体の痺れが取れたのだろう。
クロスはぐるんと鎌を振るい、巨大な扉を強引にこじ開けた。

 


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