ルフラン


本編



「契約者リーヴァ=リドルの名を以て命ずる。命の化身レフィアよ。我が刃となりて、我が願いに答えよ!」
「契約者ヘルニル=ヴェルの名を以て命ずる。富の化身レフィよ。我が刃となりて、我が願いに答えよ!」

二人の声に呼応するように、双子の少女は各々手に武器を持つ。
どちらも少女が持つようなものではないであろう武器で、絶体絶命とはこのことか、とユーリは頭を抱えた。

「どうする、クロス。」
「今、考えているさ。」
「ただの人間が人外に挑むなんて、無謀もいいところだな。」
「契約している、というなら、生身の人間を叩けば、あの人外も動きを失うんじゃないのか。」
「まずどうやって近づくよ。」

そこでクロスは口を閉ざす。
恐らくそこまでは考えていなかったのだろう。当然と言えば当然だ。
まずは目の前にある炎の輪から抜け出さなければならない。

「…やはり、あの人外少女二人を叩くしかないか…ユーリ。」

クロスはぼそぼそと独り言のようにつぶやいていると、突然ユーリに耳打ちした。
普段であればなんだ気持ち悪いと悪態をつくところだが、残念ながらそんな場合ではない。

「一つ、思いついた。耳を貸せ。」


13 クロスの作戦。


幼い二人の少女が手に持つのは巨大な剣と、鉄球。
華奢な少女が持つにはあまりにも不釣合いなのだが、軽々と持っているあたりに不気味さを覚える。
クロスはこの短時間でなんとか状況を分析していた。
女性兵が呼び出したのはレフィア。短い髪の、まるで活発な少年のような姿をした少女で、手には鉄球が握られている。先程水を出したのはおそらく彼女だろう。
男性兵が呼び出したのはレフィ。長い髪で一見お淑やかそうな見た目だが、片手で大剣を持ってる仕草は何処となく雄々しい。彼女は先程、炎を出して草木を燃やした。

「そっちから来ないなら、こっちから行くよ!」

レフィが軽快に叫ぶと、巨大な剣を振り下ろす。
クロスがちらりとユーリを見れば、察したようにユーリは一度、頷いた。

「そぉれ!」

レフィがユーリめがけて振り下ろした巨大な剣は、とっさに素早く避けられる。
自分の攻撃が避けられて不愉快だったのか、レフィは更にムキになって剣を振るった。
レフィの剣を避けるユーリの反対側に立つクロスの前に現れたのはレフィア。
にこりと笑みを浮かべたまま、ずるずると鉄球を引きずっている。
腰から銃を抜き彼女めがけて撃てば、軽々と鉄球を持ち上げそれを盾にされた。
鉄球の後ろから、あどけない少年のような顔がのぞく。

「こんな攻撃、わたくしたちに通じるとお思いでいらっしゃいますか?」
「いいや、思わないな。しかし試してみたくなるのが人間の性というものだよ。」

クロスはそう言って笑う。
しかしその頬にはじわりと汗が滲んでいる。
炎の熱気は想像以上に体力を奪っていた。
それはユーリも同じで、更に剣からの攻撃を避けていればクロスよりも体力の消耗は早い。
空気を吸い込もうと息を吸えば、喉が熱で焼かれそうになる。
呼吸がままならない状況でも、レフィは余裕そうににこにこと笑みを浮かべていた。
ずるずると、巨大な剣をわざとらしく引きずりながら近寄っていく。
後ずさりすれば、とん、とクロスの背中とぶつかった。
二人に完全に挟まれてしまっている。
先に動いたのは、レフィアだった。

「さぁ、このまま潰れておしまいなさい!」

彼女はそう言うと、勢いよく鉄球を放つ。

「ユーリ!!」

そしてこのタイミングを待っていたと言わんばかりに、クロスは叫んだ。
二人は鉄球が放たれると同時に素早く横へ飛び、鉄球を避ける。
メキッ
その鉄球は、クロス、そしてユーリの奥にいたもう一人の存在に直撃して骨の軋む音を立てた。

「れ、レフィ…!」

愕然とした声を出したのは、鉄球の鎖を握りしめて震えているレフィア。
長身であるクロスやユーリの身体の真後ろに、レフィはすっぽりと収まってしまっている。
つまり、二人が避けるその時までレフィはレフィアが何をするのか、見えていなかったのだ。
故にすぐに飛んできた鉄球に、反応出来ずその小さな身体で受け止めてしまった。
鉄球をまともに受けて力を失ったレフィの手から、巨大な剣が離される。
その剣をユーリが握ると、勢いよく剣を振りかぶりレフィアの胴体を真っ二つに切り裂いた。

「…あ…」

茫然と、声が漏れ、二つに別れた身体は地面へと崩れ落ちる。
ユーリはその剣で更に、鉄球を受けて身体のひしゃげたレフィの首と身体を二つに裂いた。
もう二度と動くことのないように念を入れたのだろう。
ユーリらしいと言えば、ユーリらしい。

「お、おい!痣が消えたぞ!どうなってるんだ!」
「レフィア!聞こえているの?!レフィア!」

炎の壁の向こうから、二人の使い魔を操っていた男女の声が聞こえる。
この炎の壁だ。
壁の向こうで何が起きているのか、二人には判別が出来ないのだろう。
クロスは手に持ったままの銃を。そしてユーリもまた、懐から銃を取り出し、隣りあわせの二人は同じ方向めがけて銃を構える。
狙いは一つ。

パァン

銃声が森の中で木霊する。
確かな手ごたえを感じると、ユーリは再びレフィの使用していた剣を握りしめ、燃える草木を切り裂き道を作った。
その道から炎の壁の向こう側に出れば、男女のアスルド兵は額から血を流してこと切れていた。

「なぁ、ユーリ。その剣、重くないの。」
「重いに決まっている。しかしこれからも似たような奴らを相手にするなら、こいつらが使っている武器で攻撃した方が確実に効くだろ。」
「ま、それはそうか。…私は持って行かないぞ。」
「…流石に鉄球は、キツいだろ。」

二人ははぁ、と同時にため息を漏らす。
その時、誰かが叫ぶ声が、聞こえた。聞き覚えのある、懐かしい声。

「…今の声。」
「ロキだ。」

すぐにその声の主がロキだと気付いた二人は顔を合わせて頷く。
そして、二人は声のした方向へと駆けた。

 


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