ルフラン


本編



ユーリとクロスの周囲を、赤い炎が包む。
草木が焼け、逃れる術は与えられていない。

「これで逃げることは出来ねぇなぁ。」

赤い軍服の男、ヘルニルと呼ばれた男が手の甲を高々とかざせば、髪の長い少女が舞い、何もない空間から炎が生み出された。
炎は周囲を燃やして威力をまし、二人を囲んで自由を奪っている。

「おいおいおいおい、こりゃぁやべぇぞ。」

クロスは口元こそ笑っているが、目は笑っていない。
自分たちは非力な一般兵だ。
銃や剣の扱いこそそこそこだが、こんな人間びっくりショーのような芸当は流石にできない。

「そうだな。下手をすれば丸焼きだ。」
「人間の丸焼きって、美味いのかな。」
「やめろ。想像しただろ。」

二人は背中合わせで、燃え盛る焔を見つめながら、冗談交じりの会話をした。


11 計画された事実。


周囲から聞こえる断末魔。
泣き叫ぶ悲鳴、人の肉が切れる音、銃弾が放たれる音、血の臭い、肉の焼ける臭い。
光景が目を。音が耳を。臭いが鼻を。刺激する。
そんな刺激が心地良いとすら思えてしまう自分は、もう壊れてしまっているのかもしれない。
否、正確には「もう」ではなく「既に」なのだろう。
妻子を亡くしたあの時から。
復讐を誓ったあの時から。
年端も行かぬ、少女を抱いた、あの時から。
ロキ=ウガトルドという名の人間の人生は、狂ってしまったのかもしれない。

「こうして直接お目にかかるのは…3年ぶり、かな。オルディオ=メルクス。」

目の前に立つ初老の男は、ギラギラとした野心の宿る瞳でウガトルドを見つめている。
背丈は巨体で2mはあるのではないかという印象だ。
そしてその手には、彼の背丈と同じくらいはあるのであろう巨大な槍が握られている。
この槍が、彼の愛用している武器なのだろう。
軽々と槍を振り回しながら、こちらをジロリと睨む。
彼の横には、腰まで伸びた薄い桃色の髪をした少女が、アスルド国軍と同じ、赤いコートを着て立っていた。

(あれが、あの男の使い魔か。つまり…)

彼もまた戦乙女。つまり、イーファと肉体を交え契約したのだろうということが察せられた。
その少女はにこり、とお淑やかな笑みを浮かべているが、何かあるのではないかと勘繰ってしまう。

「やぁ。3年ぶりだね。ロキ=ウガトルド。」

オルディオはにぃ、と口元と瞳をまげて笑みを浮かべる。
その笑みは何処か不気味で、そして、腸が煮えくり返りそうな憤りを覚えた。
脳裏に過るのは、血まみれで倒れる妻と息子のその姿。

「私の息子が、貴様の手にかけられたと聞く。」

オルディオは低く唸る獅子のような声で言葉を続ける。
流石は長年アスルド国を従えて来た将軍、威圧感は何処の国の将よりもある。
ウガトルドは頬に伝う汗を止めることは出来なかった。

「嗚呼。私の妻が、息子が、貴様達アスルド国によって受けた仕打ちを…返しただけのこと。」
「手酷い仕打ちだな。まさか我が息子を手にかけるとは、否、これは想定し得なかった私に非がある、か。」

オルディオはそう自嘲気味に嗤う。
しかしその嗤いは、何か意味有り気に見え、ウガトルドは怪訝な顔を浮かべた。

「想定し得なかった…だと…」
「そうだ。私はてっきり、貴様はテユールの力を使って軍を進行して行き、我が国と戦争をするのだと思っていた。しかしこんな形とは。否、まぁ結局は戦争をする口実が出来たのだから、それはそれで良し、か。」

オルディオの言葉は最早独り言だった。
しかしウガトルドは、厭な予感がした。
彼の言葉に。そしてその意味に。
心臓の鼓動が、やけに早く感じて吐き気がするのをぐっと抑え込む。

「どういうこと、だ。まさか、こうなることは、予想出来ていた、と。」
「そうだ。寧ろ、全て私の計算内だ。妻と子を殺された男は激昂し、タイミング良く現れた戦乙女の使い魔と出会い、乙女と契約。国を拡大し、勢力を広げ、我がアスルド国へ愚かにも挑む。という私のシナリオ通りだ。」

一瞬。
ウガトルドは、その言葉を理解出来なかった。
全てシナリオ通り。
妻が死んだことも。息子が死んだことも。
否。
愛すべき二人が死んだのは、アスルド国の罠だったのだと、利用されたのだと、あの時点で、おおよそ理解していた。
しかし。
あのノルンと名乗る少女に出会ったことも。
イーファと名乗る戦乙女と出会ったことも。
そして、まだ幼いイーファの身体を、合意の上とはいえ、抱いてしまったことも。
全て。全て。全て。
この目の前の男にとっては、シナリオ通りだったというのか。

「一つ見誤っていたのは、お前が復讐にかられ我が息子の命を奪うことだったが。しかし、今となっては仕方ない。戦争のきっかけになれば、それでいい。」

オルディオはにぃ、と口角を上げて槍をウガトルドの喉元へと突きつける。

「このシナリオには続きがある。勢力を広げ驕りが増した愚かな将軍はアスルド国と戦争し、見事なまでに敗北する。そんなシナリオだ。」

オルディオはそう言うと、勢い良く、槍をウガトルドめがけて突き刺した。

 


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