ルフラン


本編



アスルド国の城内は活気に満ちていた。
皆が皆宴をしていて、明日以降の戦に向けて指揮を高めている。
いくらバドルが亡くなったからといって、開戦をするなんて、いきなり過ぎる。
不信に思ったリーヴァは、オルディオの元へと向かった。

「オルディオ将軍。聞きました、ヨトゥンのこと。明日、戦が始まると。」
「嗚呼、そうだリーヴァ。お前も準備をしなければならぬ。」
「しかし、いきなり開戦なんて…!中には戸惑っている兵もいます…!」

オルディオは席を立ち、リーヴァの肩をぽんと叩く。
その瞳は厳格さを持ちながらも慈愛に満ちた、アスルド国の統括に相応しい男の眼差しだった。

「お前に会わせたい奴がいる。」


9 戦の準備。


オルディオの言葉にリーヴァは疑問を持った。
今晩氷の森に。
オルディオはそう告げると席を立った。
何故自分が氷の森に招かれるのか、不思議に思ったリーヴァは自分と同じくオルディオの右腕的存在であるヘルニルに内緒でこのことを話した。

「嗚呼、お前も呼び出されたのかリーヴァ。あれは最高だぞ。しかし女のお前を呼び出してどうするのかな。」

ヘルニルはそう言ってにやりと笑みを浮かべていた。
酒とは違う、何かに酔った瞳に不信を持ちつつ、時が経ち、夜がやって来た。
オルディオに導かれるように氷の森へと向かえば、時刻は夜であるにも関わらず氷の森の中はまだ昼間のように明るい。
森の奥にはユグドラシルと呼ばれる水晶の城が建つだけでその城は茨に阻まれ入ることも出来ないはず。
周辺と違い気温も低いため、誰も好んで森に近づく者はいなかった。

(何故、氷の森なのか。オルディオ将軍には、何か考えが…?)

不信に思いながらオルディオの後をついて行けば、城の前にある橋へ通ることを阻む茨が、オルディオを歓迎されるかのように道を開けた。
その異様な光景に驚くが、オルディオは眉ひとつ動かさず橋を渡る。
城の前に立てばまた、導くように扉が開き肩まで伸びた栗色の髪を持つ少女がそこにいた。

「オルディオ様。今晩は…」
「こいつだ。今回はあちらの姿になるよう、伝えておけ。」
「…かしこまりました。」

少女は一言そう言うとオルディオに一礼してその場から霧散するかのように姿を消す。
人ならざる所業に口を開けて茫然としていると、オルディオは真っ直ぐ歩き出した。
リーヴァは慌ててオルディオから極力離れないよう、ついて歩く。
中は一面水晶で、鏡のように自分たちの姿を映し出している。
コツコツコツと、靴音だけがあたりに反響していた。

「此処だ。」

オルディオは一言呟くと、目の前にある扉の前で立ち止まる。
扉がゆっくりと開けば、そこには幼さの残る顔立ちの、美しい少年が立っていた。
輝くブロンドの髪と翡翠の瞳。
その風貌は、何処か、亡くなったばかりのオルディオの息子、バドルによく似ていた。

「彼女が、新たな契約の相手、ですか?」

少年がそうオルディオに問いかけると、そうだ、とだけ返答した。
彼は優しく穏やかな笑みを浮かべると、ゆっくりと歩み寄り彼女の手を優しくとる。
その手を愛おしそうに撫で、リーヴァの手を撫でていた少年の右手は、気付けば彼女の頬にまで伸びていた。
普段であれば何をする、と払いのけるところだが何故かそれが出来ない。
彼の瞳を見ていると、まるで吸い込まれるようにその瞳から目を離すことが出来なかった。

「僕はイーファ。肉体と肉体を交えた契約を交わすことで勝利をもたらす力を授ける存在。君はオルディオ様に選ばれた。」

そう言ってイーファはリーヴァの手の甲に、口付ける。
身体の奥からぞくぞくとした感覚が込み上げられ、これ以上、彼の側にいては危険だと本能が警告しているが、身体が動かない。
無数の鏡がある中で、彼に抱き寄せられるリーヴァの姿が映し出されていた。
身体はもう、捕えられている。
彼には、人を惹きつける力が、惑わす力があると言われても納得してしまう程、彼に魅入っている自分がいた。

「リーヴァ。その男と契約をしろ。そうすれば力が授けられる。我がアスルド国はヨトゥン国に負けぬ力を持ち、戦も勝利を勝ち取るだろう。」

オルディオの声が部屋の中で反響する。
契約しろ、と彼は言った。
そして、イーファは言った。肉体と肉体を交えた契約、と。
つまりその契約しろという命が何を意味するのか、リーヴァにはわかってしまっていた。
それは拒まれるべき行為。
しかし。
彼を拒む以前に、彼の美貌に魅入り、彼へと吸い込まれてしまっている自分が、確かにそこにいた。
ヘルニルの言っていた「最高」とはこのことなのか、と彼女は僅かに残る理性で思考する。

「了解しました、オルディオ将軍。」

彼女は了承の返答をし、イーファの首へと手を回す。
彼の、翡翠の瞳に自分の顔が映し出されていた。
そこにいるのはアスルド国に仕える兵士の顔ではない。
ただ一人の男に魅入られた女の顔。
恍惚と頬を赤らめ、これから何が起きるのかを理解し期待している卑しい女の顔だった。

「…全てはこの国の為に。」

自分を正当化する言い訳を呟きながら、彼女はイーファと抱き合い口付けた。

 


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