ルフラン


本編



バドルが、殺された。
喜ばしき生誕祭のある、この日に。なんたる不幸か。
報せを聞いたオルディオは、怒りでその手を震わせた。

「なんたることか。」

怒りは口をついて言葉になる。
何よりも遺憾であるのは、愛息子バドルを殺害したのがヨトゥン国のウガトルド将軍だというではないか。

「わざと泳がせていれば調子に乗りおって…それもこれも、あやつが…」

オルディオは吐き捨てるように呟くと、重い腰を上げて身体と椅子を引き剥がす。
息子を喪ったばかりで取り乱した上司を見て、部下は心配そうに声をかける。

「オルディオ将軍、どちらに。」
「少し出る。」

行くところは、決まっている。
しかし、何人にもその行き場所は伝えることは出来ない。
伝えてはいけない場所だった。


7 怒りの矛先。


「イーファ。イーファはいるのか!!」

ユグドラシルに来客の気配がすると思えば、聞き覚えのある声が城中に響いた。
イーファはその声に反応し、すぐに彼…オルディオの前へと姿を現す。

「はい、此処に居ります。お父様。」

礼儀正しく一礼するが、ユグドラシルはイーファの幼さ残る頬を殴り飛ばした。
幼い身体は自分の倍近くある巨体に殴り飛ばされ宙を舞う。
床へと投げ出された身体に、ノルンが心配そうに寄り添った。

「お前を我が子と認めた覚えはない!!お前が!あの男にテユールを渡したから!バドルは!バドルは!」

それは愛する息子を喪ったが故の怒りか。
男は怒りで震える拳をさらに幼き身体に雨のように打ち付ける。
しかし彼女は抵抗することなく、父であるオルディオのされるがままとなっていた。
彼女の手足として仕える使い魔もまた、オルディオに逆らうことは出来ず、彼女が殴られるのをただただ茫然と見つめている。

「…嗚呼…あの男、ついに死んだんですか。」

ポツリと漏らすイーファの言葉。
それはオルディオの逆鱗に触れるのに十分だった。
イーファの首元のリボンを強引に引っ張り、彼女の身体をベッドへと叩き付ける。

「ついに?ついにだと!バドルが死なぬように!わざわざ!醜いお前の身体と交えて契約させたというのに!!死んでしまったではないか!!!我が息子が!!!!」
「確かに、私が与えたイズは永遠の美と命を提供する化身…しかし、必ずしも死なぬという訳ではありません。使い魔同士で効力を打ち消し合ってしまえば、その力は無効化しますわ。契約する前に、申し上げたではないですか。」
「黙れ!!」

自分に指図する存在が気に食わなかったのだろう。
オルディオは彼女の上へのしかかり、乱暴に服を破く。
露わとなった白い肌には、先程彼が強く殴り飛ばしたが故か、青い痣が浮かんでいた。

「抱かれるしか能のない役立たずが、余計な口を挟むな。」
「……お父様。」
「黙れ。その口を閉じろ。私の息子はバドルだけだ。」

私の子は、バドルだけ。
その言葉がイーファの心奥深くへと、突き刺さる。
長年の冷遇故、理解はしていたつもりだった。が。改めて言われるのはやはり、辛い。
彼女の艶やかな髪に、オルディオの大きな手が触れる。
先程とは裏腹、彼の手は優しく彼女の顔を、首筋を、肢体を撫でまわしていた。
青痣のちらつく白い肌が、ぴくりと震える。

「お前のその顔は、母親そっくりだ。」

その瞳は優しく非道で、暖かく冷たい。
その手は実子を優しく愛でる手ではない。
ただ一人の女を強引に抱く、欲望にまみれた、男の手。

「イズの契約はバドルの死をもって無効化した。そうだな。」
「えぇ。そうでございますわ。」
「ならば、今、私がお前と再び契約をすれば、イズの能力は私の手の内になるんだな。」
「…えぇ、ですが、お父様、お父様にはもうすでに…」
「無駄口を叩くな。お前は、おとなしく私と契約をすればいい。」
「…わかりました。」
「嗚呼、これでイズが我が手に、バドル、我が愛しき息子よ、お前と一つに…」

オルディオはそう呟き、イーファの肢体を愛しく撫でる。
しかし、その目の暖かさは、温もりは、決して、彼女に向けられたものではなかった。

 


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -