ルフラン


本編



服を脱がせば、少女の白い肌が露わになった。
まだ幼さの残る身体は臆することなく、しっかりと、ウガトルドの身体に絡みつく。
妖艶な瞳をちらりと光らせ、これから行われることがどのようなことなのか、更に実感させようとしてくる。
ちらりと、妻の穏やかな笑顔が脳裏に浮かんだ。
心の泉に沈んでいた躊躇いが、ぷかりと顔を覗かせて、こちらを見つめている。

「何を、躊躇われているのですか。」

イーファはそう言うと、ウガトルドの手を取り、その指に舌を這わす。
わざとらしく、ちゅ、と音を立てて指を舐め、一筋の糸で指と舌を結んだ。
顔を覗かせた躊躇いが、彼女によって踏みつけられ、再び沈んでいく。

「躊躇ってなど、いないさ。」

ウガトルドはそう呟くと、膨らみかけの乳房へと顔を沈める。
既に、妻の顔は、子の顔は、穏やかなあの日々は、脳裏から剥がれ落ちていた。


6 契約の完了。


それが、数年前妻が亡くなった時の話。
あの少女と、契約をした時の話。
イーファと身体を交えた後、右手の甲には何か文字のような痣が浮かび上がっていた。
その痣をなぞっていると、まだ熱を帯びた身体を寄せながらイーファはそっと囁いた。

「これは、私と貴方の、契約の証。この契約を媒体に、貴方に力を授けます。ですが、この契約にはリスクが伴いますことを、お忘れなきよう。」

そう言って、彼女は口付けした。
最後の別れまで、自分という存在をこの世に刻み付けるように。
それ以来だ。
テユールという少女が使い魔として自分の周囲を舞うようになったのは。
否、正確にはそもそもイーファの使い魔。
しかしウガトルドが契約を交わしたことにより、ウガトルドの使い魔としても動くことができるのだ。
後は早かった。
元々戦略を考えるのは得意だったし、契約をしたことにより彼女の力を使い戦果もあげた。
将軍にまで地位が上がるのに時間はかからなかったし、戦で功績をあげればアスルドやナーヴァに虐げられることの多かったヨトゥン国民は誇りが出来たのだろう。
国民はウガトルドを非難する処かよくやったと褒め称えた。
契約をした。
力を得た。
地位も得た。
領土を奪い。財産を奪い。勢力を広げ。
そして、長い時を経て。ついに。
復讐の機会は訪れた。
過去の生誕祭で、彼を殺す機会がなかったわけではない。
しかし、彼を殺めれば、間違いなくヨトゥンはアスルドと大規模な戦争をすることになる。
それには、今まではまだ力が足りていなかった。
今は、彼らと対等に戦えるであろう軍力と力を、得たと思っている。
だからこそ、実施した。
そして、成した。
復讐を。

「ふふ、ははは…あはははははははは…」

口から零れる笑い声。
憎き男の息子は首と身体が二つに分かれて、地面に転がっていた。
妻を。息子を。奪った国を仕切る憎き男。その息子を、この手で殺した。
これ程気持ちの良い復讐があるだろうか。
あまりにおかしくておかしくて笑い転げていると、気付けばアスルドの赤い軍服を着た男たちがウガトルドたちを取り囲んでいた。
こんな騒ぎを起こしてしまえば、当然だろう。
ユーリとクロスは、未だに困惑の表情を浮かべている。

「おい、ロキ!」

クロスは未だに笑い続けているウガトルドの肩を掴む。
ガクンと壊れた人形のように首を下へと倒した後、再びぐんと首を上げて瞳孔の開きかけた瞳でクロスを見つめる。
あまりに異様な姿に、クロスは悪寒が走り、ウガトルドの肩を掴む手が震えた。
少なくとも今目の前にいるのは、自分が知っているウガトルドではない。
そう思っていると、いきなりウガトルドは、いつものような優しい笑みを浮かべ始めた。

「臆することはない。安心しろ。」

そう言って再び手を掲げると、あの白髪の少女がウガトルドの前へと現れた。

「テユール。」
「仰せのままに。我が主よ。」

テユールは優しく微笑みながら答えると、巨大な鎌を振りながらくるりくるりと踊り始めた。
鎌を大きく振り回せば、ウガトルドたちを囲んでいた兵士は次々と身体を真っ二つにされていく。
身体からあふれた大量の血は周囲に血の泉を作り出し、踊りながら殺戮を行うテユールのその姿は、血の泉で舞う踊り子のようだった。

「なんだよ…なぁ…なんなんだよこれ…!!」

クロスが困惑の声をあげる。
ユーリはこの光景を、神妙な表情で見つめていた。
全ての兵士を殺し終えたテユールはウガトルドたちの前へと戻る。

「さぁ。撤退だ。」

そしてウガトルドの言葉を合図に、四人の姿はその場から消えた。

 


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