ルフラン


本編



扉の開く音が聞こえた。
どうやらノルンが、新しい契約者を導いて来たらしい。
自分の役割は、決められている。
決められた役割を、当然のように、人形の如く、こなしていくだけなのだ。
それにこの役割は、嫌いでは、ない。
開かれた扉から、恐らく自分のものではないであろう血まみれの服をきた男が、涙を流したばかりの赤く腫らした瞳で、睨むようにこちらを見据えていた。


5 戦乙女との契約。


扉の奥へと足を踏み入れ、ウガトルドは驚愕した。
そこには長いブロンドの髪をリボンで一つに結んだ少女が佇んでいたのだ。
明るい翡翠の瞳がこちらを捕えると、穏やかな笑みを浮かべる。
身長は小さめで、年はまだ、漸く十代を迎えた位だろう。
少女はドレスの両脇をつまむと、ぺこりと礼儀正しくお辞儀した。

「お待ちしておりましたわ。」

そう言って、少女は一歩一歩こちらへとゆっくり歩み寄る。
陶器のように白く艶やかな肌が伸ばされ、するりとウガトルドの頬へと触れた。

「な、お前は…」
「私はイーファと申します。この城に住む主。貴方のように、力を求める者に契約と引き換えに力を与える者ですわ。」

微笑む彼女の姿は、美しいの一言に尽きる。
まるで作り上げられた人形のように整った顔立ち。滑らかで柔らかそうな肌。
輝くブランドの髪は水晶の光に反射して、更に光り輝いている。
翡翠の瞳はじっと見つめていればこちらが吸い込まれてしまいそうだ。
先ほど妻と子を喪ったばかりだというのに、ウガトルドは確かに、今目の前にいる幼い少女に魅入ってしまっていた。
イーファはにこりと微笑むと、ウガトルドの首に腕をくるりと絡め、優しく口付けをする。
突然の事態に、思わず目を丸め思考を停止した。

「?!何をするんだっ!!」

ウガトルドはそういって力強くイーファの肩を掴んで引き離す。
しかし彼女はきょとんとした表情を浮かべてこちらを見つめていた。

「何って…契約の準備、ですわよ。私と貴方は、これから肉体と肉体で繋がれて契約を果たすのですのよ。」

イーファはそう言って微笑む。
彼女の言っている意味がわからないと言ってしまうほど自分は初心ではない。
そして目の前の、まだ十代を迎えて間もないであろう少女が言うような言葉でないことも、わかっていた。

「何を言っているのだ、契りなど、私には妻が…」
「その奥方様の敵を、取りたいのでしょう。復讐がしたいのでしょう。力が、欲しいのでしょう。」

彼女の囁きは的確に、彼の心の隙を突く。
それはまるで悪魔の囁き。
気付けば、震える右手は彼女の頬へと触れていた。
頭の中に残る、僅かな理性がウガトルドに問いかける。
生涯妻だけと誓ったのに、復讐のためとは言え、躊躇いなくこの少女を抱いていいものか。
当然彼女の外見年齢もそうだ。
しかし、亡き妻の敵を取るために、亡き妻を裏切って、そこまでしなければならぬ復讐なのだろうか。

(それでも…私は……)

彼女は妖艶に、細い指でウガトルドの頬を、首筋を、そっとなぞる。
翡翠の瞳と目が合えば、もう逃れることが出来ないのだと、その目に映る自分の顔がそう物語っていた。

「契約。しますか?しませんか?…まだ…逃げられますわよ?」

そう、にこりと、微笑む。
しかし、もうウガトルドの中に逃げるという選択肢は存在しなかった。
彼女の頬に、ゆっくりと触れる。
指で頬をなぞれば、滑らかな肌触り。
人に愛されるためだけに、こうして抱かれるためだけに作られているかのような、美しい肢体。
腰に手を回し、唇を重ね、舌を這わす。
甘い香りが鼻を擽った。

「契約をする。お前の身体を抱かせろ。」
「…ベッドは、あちらに。」

彼女はくすりと、彼の回答がこうなることを予想出来ていたかのように微笑む。
ちらりと横目で見れば、白いベッド。
全て彼女の手の上らしい。
しかしそれでも構わない。力を得られるというのなら、年端も行かぬこの少女の身体を抱こうではないか。
ウガトルドは無我夢中で白いベッドに彼女の身体と共に沈んだ。

 


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