ルフラン


本編



あれから、僅か数日後のことだった。

「ユーリ。クロス。二人は、私と共にアスルド国へ赴いてくれ。」

ウガトルドの言葉に、ユーリとクロスは思わず目を丸める。
彼の指定したアスルド国は、ヨトゥン国にとって最大の敵国。
そこに潜入するなど、今の状態では自殺行為と考えてくれてもいいだろう。
しかしウガトルドはにこにこと、プライベートの時と同じような明るい笑みを浮かべていた。

「あの国で、やりたいことがあるんだよ。」


3 復讐を遂げる男。


アスルド国は治安豊かで、本当に現在戦争が起きているのかと思える程、穏やかな国だった。
このような強固な国であるのに、ウガトルドが目の前の門番に手をかざすとあっさりとユーリたちを門の向こう側へと通してしまった。
何をしたのかとユーリとクロスが問いかければ、何もしていないよ、と彼は笑った。

「なぁ。ユーリ。」
「嗚呼。ロキのやつ…少しだが、手の甲が、光っていた。」

ユーリとクロスは互いに身を寄せながらひそひそと声を潜ませる。
二人の思いを知ってか知らずか、にこにことウガトルドは街中を歩いていた。
しかし彼にとって、此処は笑みを浮かべて歩くようなところではない。
何故なら彼は、このアスルド国で、妻と子を喪っているのだから。

「ウガトルド将軍。この国で、やりたいこと…と、いいますと?」
「嗚呼、ある人物を探しているんだよ。丁度、今日なんだ。」
「今日?」

その言葉と同時に、わぁ、と歓声が沸きあがる。
見ればそこはあのオルディオ将軍がいるとされているアスルド城の前だった。
城の前には顔立ちの整った、綺麗な金髪の少年が姿を現した。
肩まで伸びたそれをなびかせながら、民に浮かべている笑みはまさに光そのものだ。

「バドル…オルディオ将軍の、一人息子だ…」

ユーリがぽつりと呟く。
アスルド国民全てに愛される少年、バドル。
今日は彼の生誕祭で、国中あげての祝いの日だったのだ。
輝く金髪と翡翠の瞳。穏やかな風貌はまさに平和の象徴と言っても過言ではない位、光溢れる少年。
もしもウガトルドの目的が、この少年だというのなら。
クロスは嫌な予感がして、はっとウガトルドを見る。
すでに彼は一歩一歩前へと進み、バドルの前へと立ちふさがっていた。

「ロキ!!」

思わずクロスはウガトルドのファーストネームを叫ぶ。
最初はきょとんとしていたユーリも、その真意に気付いたが、既に遅かった。

「貴方がオルディオ将軍の息子、バドルですね。」
「そう、ですけど……貴方は……?」

何が起きているのかわからず首をかしげるバドル。
そしてウガトルドは、バドルの前で手の甲をかざす。その手の甲には、不思議な痣が浮かび上がっていた。

「契約者、ロキ=ウガトルドの名を以て命ずる。勝利の化身テユールよ、我が刃となりて我が願いに答えよ!」

ウガトルドがそう声をあげた時だった。
痣は鈍く光り、それに呼応するように目の前に現れた白髪の女性。
手には巨大な鎌が握られていて、にこりと優しく微笑んだ。
そこからはもう、一瞬だった。
突如現れた美しい少女は巨大な鎌を振るい、バドルの首を簡単に跳ねてしまったのだ。
美少年の生首は宙を舞い、ゴトンという厭な音を立てて地面へと転がる。
首からは大量の赤く鮮やかな血液が飛び散った。

「ふ、ふふふ、はは…あはは…ははははははははははははははははは…!!!!」

ウガトルドがそう高笑いをしたと同時に。
国民は突如起きたバドルの死に、悲鳴をあげ、錯乱する。
クロスとユーリは目の前の光景が理解出来ず、ただただ茫然と立ち尽くしていた。

「やった、やったぞ!私はやったぞ!!あの憎き男の!!愛すべき息子を!!!奪ってやった!!!!ざまぁみろ!!!!!」

そこには慣れ親しんだ兄貴分の男は存在しない。

「私の息子を!!!妻を!!!!奪った男の息子を!!!!ついに!!!!!この手で!!!!!!!」

目を見開き、歓喜の声をあげる復讐鬼にどう接していいのかわからず、ユーリとクロスは、笑い続けるウガトルドを見つめ続けるより他にはなかった。

 


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