アルフライラ


Side黒



「ノワールは甘い。甘すぎる。」

シャマイムはやや不機嫌だった。
テーブルの上に並べられた料理の数々を口に運び、その味を堪能しつつも、それでも尚、不機嫌なのだ。
その不機嫌な理由がノワールにあるのは、言うまでもないだろう。
そんなシャマイムたちは現在人々を集める大広間から移動して、食事をとる為に集う広間へと集合し、食事をとっていた。
此処で食事をしている者達は、ノワールの直属の部下であるシャマイムや、そんな彼を慕い集まった八人の部下、『シャリアフ』のメンバー、そしてノワールの専属魔術師と、あまり人数は多くはない。
他にもっと人数が居るかといえば、そうではない。
現在此処に集まっているメンバーが、宮殿内でノワールの為に働く者達全員なのだ。


Part5 シャマイムの部下:シャリアフ


『シャリアフ』は、あくまでシャマイム直属の部下であり、ノワールの直属ではない。
しかし、統率者にあたるシャマイムがノワールに付き従っているし、それを踏まえてシャマイムについてきている彼等は、ノワールの部下でもあると言っても過言ではないだろう。
有事の際はノワールの命にも従うが、極力強制したがらない彼の人柄があるからこそ、従うという面もある。
結局は、シャマイムも、そしてシャリアフの八人も、ノワールの人柄をそれなりに好いているのだ。

「まぁ、でも…ワタシとサトリで記憶を操作したのだし、当分は反抗して来ないと思いますよ。」

砂色の髪をした青年は、ゆったりと語りながら手元にある時計を弄っている。
時計職人であるトワ=シャオンは時計弄りが仕事であるだけではなく趣味でもあり、こうして食事の時でも時計を分解しているのだ。
部品を一つ一つ丁寧に取り出し、金属で出来たその部品の数々を机の上へと丁寧に並べ、満足そうな笑みを浮かべる。
空に変化のないこの国は、体内時計以外で時間を確認する術はない。
そんな中で活躍するのが、トワの作る時計だ。彼の創り上げる時計は時間のズレが起きない為、正確に、時を刻んでくれている。
よって、時間を確認したい時は彼の時計が用いられるのだ。
国民の誰もが頼りにする優秀な時計を創るのだから、常に時計への研究意欲は欠かせない。それが、この分解趣味にも直結しているのだ。

「トワ、せめて食事の時は時計を弄るのはやめなさい…」

それでも、食事の場で分解を続けるのは感心出来ない為、サトリが静止をかける。
金髪に桃色の瞳をした彼は優雅に食事をとっているが、その膝の上には水晶玉が置かれているので、食事の仕方としてはかなり器用だ。
そして、あまりトワのことを言えない。

「うん、サトリもだからね。そんなに水晶玉大事?」
「大事に決まっているじゃないですか!これは大事な商売道具なのですよ!万が一失くしてしまったら…しまったら…占いの時!それっぽく出来ないではないですか!!」
「いや、要らないんじゃん。」

占い師であるサトリにとって、水晶玉が欠かせないものだと豪語する理由はわからなくもないが、それでも的確な突っ込みを続けるエルは呆れながら野菜サラダを口に運ぶ。
このテーブルに並ぶ食事のうち、殆どの野菜や果物はエルが作っている。
植物専門の魔術師である彼は、自分の魔術で生み出した花や果物、野菜を売ったり、薬草やハーブから薬を作っていたりもするのだ。
植物に関することであればなんでも出来るらしく、ボキャブラリーはかなり豊富な方だろう。

「とにかく、私は拷問の末、結局は記憶操作で誤魔化すというこの流れが、気に入らんのだ。」

シャマイムは頬を膨らませて不満を言う。
ノワールの宮殿に捕えられた者は、殆どの場合シャマイムの手によって拷問され、最終的には時間の魔術師であるトワと、精神の魔術師であるサトリが、相手の心や記憶を操作して、ノワールへの反抗意識を向けていた時の感情や記憶をごっそり抜き取る。
再びアルフライラの虜へと戻された反逆者は、宮殿へそのまま追い出されるのだ。
そしてこの時、宮殿内部の記憶についても抜き取るので、万が一再びノワールに対し反抗意識を芽生えさせたとしても、振り出しに戻るという図式になっている。
ノワールにとっては危惧すべき反逆者なのだから、尋問をして監禁をして永遠に宮殿から出すべきではないというのがシャマイムの持論だが、ノワールから却下された。
国民が宮殿から戻って来なければ、ノワールへの不信感が出てしまうからだ。
そもそも、いくら記憶操作をしていても、拷問の内容があまりにも残酷であれば、その恐怖心が染みついてしまうかもしれない。
そうなってしまえばどちらにしろ、ノワールへの不信感につながる恐れがあるので、暴力そのものをノワールは反対しているのだ。

「そもそも、シャマイムのあの尋問だって本当は、ノワールに刃を向けようとして来た奴を取り押さえる為、っていう理由の時だけオーケーのはずだろ?今回だって、やり過ぎだってトーセイにも言われたじゃないか。」
「うぐっ…」
「ノワールに悪逆非道な統括者という噂が流れてしまったら、殆どがお前のせいだろうな…」
「そ、そこまで言うかユービっ…!」
「言う。」

赤い髪をした青年は、大きく口を開けてパンを頬張りながら異論を投げかける。
言っていることは正しい。
今回の件も、確かにトーセイに言われたばかりだ。
自分に崇拝レベルで忠誠を誓うトーセイは誤魔化せても、この真面目な性格のユービを論破することは難しい。

「…私も、あれは感心しないぞ、シャマイム。お前は優しい奴なのだから、あんなこと、極力、させたくはない。」
「…ノワール…」

複数の大皿を運んできたノワールに、シャマイムは気まずそうに視線を泳がせる。
シャマイムはどうにもノワールにだけは逆らえないし、反論は出来ないのだ。
大皿の上には数多くの料理が乗せられていて、ノワールはそれを一つ一つ丁寧にテーブルの上へと並べる。
彼等全員分の食事を作っているのは、他でもないノワールだ。
宮殿には料理人と呼ばれる者もいないので、ノワールが自分で料理を作っている。

「しかし、お前は甘すぎる。お前の甘いところは良い点でもあるが、この国を強引に統一するのであれば、欠点でしかない。…そんなところにむかつくのだ。私は。」
「そうか。しかし、お前はそんなむかつく奴が作った料理を食べているのだが…?」
「…む。美味いぞ。いつも感謝している。」
「………そうか。」

テーブルに乗せられた大皿からまた料理をいくつか小皿に乗せ、シャマイムは口へ運んでいく。
そんな彼を眺め、まだ食べるのか…と部下である八名が呆れているのは容易に想像出来るだろう。
実際に、彼等は呆れていた。

「ねぇノワール、ところでデザートはないかな、デザート。ボクはプリンがいいなぁ。」

スプーンをくるくると回しながら、能天気な声を発する青年。
白髪の髪に翠色の瞳をしたその少年は、にこにこと穏やかな笑みを浮かべている。
彼はノワールの専属魔術師であり、師にあたる、テフィラ=エメットだ。
ノワールが幼い頃から、彼の面倒を見ている所謂親代わりでもある。
それなのに彼はこの中にいる誰よりも幼い姿をしていて、右側頭部から生えた植物をぴょこぴょこと揺らしていた。

「…プリンなら、この後、作るつもりだ。」
「あ、ノワール!私も欲しい!私も!後、ユラの分もなっ!今頃家で寂しがっているだろうから召喚したいのだが!いいだろうか!」
「…別に構わない。ルミは食べれないから、そうなると…十二人か。」

お前たちも食べるだろう?
そう問いかけるノワールは、年相応の穏やかな青年のように、優しい笑みを浮かべていた。
彼の作る料理は格別だし、デザートもこれ程無く美味なのだから、断る理由はない。
こうして、日課である十二人の食事会は行われていくのであった。

 


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