賭博四天王編


第1章 犠牲となった子どもたち



今日も順調だと思った。
この辺りの人々は自分達を見れば怯えるような目をして避けて歩いる。
今回だってパンや果物を盗んでも追いかけようとする人はいなかった。
路地裏に入り、入り組んだ道を走る。
いつもの隠れ場に戻ろうとした時、自分達とそう背格好の変わらない少年が目の前に立っていた。
翡翠色の短い髪を揺らしながら、金色の瞳がこちらを見据える。
思わず身構えていると、その少年の名前らしきものを呼びながら、また一人少年が現れた。

「おっそいよ。」

頼りなく息を切らしている少年は深く深呼吸すると、深い青の瞳がこちらを見据えた。
雨が降る、雲の厚いどんよりとした天気だというのに、金色の髪がまるで太陽のように雨水で濡れ輝いている。
ぎこちない笑みをこちらに浮かべた。

「ずっと探してたんだよ。君達のこと。」


第11賭 これからも二人で


「探してた?僕達を?」

鋼屡は思わず一歩引いて身構える。
見た目は至って普通の、自分達と同じ位の少年だ。
普通であれば警戒をする必要はないのだろう。
しかし、場所が場所だ。
こんな路地裏にいるような子供は決して普通の子供ではないし、此処最近起きていた物騒な事件を考えれば、その関係者と考えられてもおかしくはない。
相手もそれを察したのか、少し困ったような笑みを浮かべる。

「そんな顔をしないでよ。」
「こんなところで会う奴らは、大抵ろくでもない奴なのは学習済みなんで。」

矩鬼が口にすると、目の前の金髪の少年は、困ったように翡翠の髪の少年を見つめる。

「不火架ぁ…」
「まぁ、当然の反応だよねぇ。」
「うぅ…」
「壊覇だって逆の立場だったら怪しむでしょ。」
「確かに。」

不火架に坦々と告げられ壊覇はしゅんと顔を下に傾ける。
ふぅ、と呆れたように不火架が溜息をつくと、改めて鋼屡と矩鬼を見つめた。

「ま、こんな感じでさ。いかにも怪しいように見えるけど、敵じゃぁないよ。」

不火架はそう言って、服の裾を手で掴む。
掴んだ裾をぐいと上へ持ち上げれば、白い肌が露わになった。
まだ赤く、痛々しい火傷の痕が肌の上に刻まれている。
その火傷の痕を見て、鋼屡と矩鬼ははっと息を飲む。不火架の隣に居た壊覇も、思わず目を伏せた。

「お前達にもあるでしょ?これ。」
「不火架…」
「隠すもんでもねーじゃん。信用してもらうには、これが一番てっとり早いっしょ。」

不火架の腹部に刻まれた、数字の火傷を見つめ鋼屡と矩鬼はごくりと唾を飲む。
その火傷の痕が何を意味するのか、二人は嫌という程理解していた。
何人もの子供が目の前で死んでいった。
その骸を、まるでゴミのように引きずり棄てる真っ赤に染まった白衣を着た男達。
当時の記憶が次々と思いだされ、足が震える。

「傷つけるつもりはないよ。ねぇ、良かったさ、うち来ない?」

壊覇が目の前で手を差し伸べる。
目の前の二人が、自分達と同じ存在であることはわかった。
そして彼等の目にも、悪意や敵意は感じられない。
それでも。

「イヤだ。」

鋼屡はそう冷たく言い放ち、壊覇の手を振り払う。
勢いよく払われたその白い手は、ほんのり赤くなった。
銀髪の双子は、寄り添うようにして二人を睨む。

「確かに、お前はあんな奴らと違って、悪い人じゃないと思う。」
「でも、僕達は二人で生き抜いた。これからも、二人だけで生きていく。」
「もう誰にも頼らない。」

最後は、鋼屡が言ったのか、それとも矩鬼が言ったのか。
恐らく両方なのだろう。

「んー、でも放っておけないんだよなぁ。」

否定をされたにも関わらず、壊覇は傷つく素振りもみせずに困ったような笑みを浮かべる。

「二人と二人よりさ、四人の方が確実に生き残れるよ?俺達は屋根のある場所見つけたし、そういうとこの方が、安全は保障されるよ?」
「煩い!」

鋼屡は雨水で出来た水たまりを壊覇達の目の前へと蹴り上げる。
水が目の中に入り、思わず目を硬く閉じた途端、腹部に衝撃が走り身体が後ろへと飛ぶ。

「壊覇っ!」

不火架の声が響き、自分が蹴り飛ばされたのだと自覚した。
身体が地面を転がり、顔の皮膚が擦れて薄らと血が滲む。

「こっちに来るな。そんなに連れて行きたいって言うのなら…」
「力づくで連れて行けよ。」

鋼屡と矩鬼は、幼く細い手を互いに絡み合わせる。
硬く結ばれたその手は、どちらからともなく吸いつき、もともと一本の腕だったかのように重なって行く。

「結局、こうなるのな…」

壊覇を助け起こしながら、不火架は今日何度目かわからない溜息を吐いた。

 


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