賭博四天王編


第1章 犠牲となった子どもたち



人混みの中ですれ違う人に、わざとぶつかる。
それが業陀不火架のやり方だった。

「きったねぇなぁこのクソガキ!」

罵られるのはいつのものこと。
それでも実際に殴りかかって来る者はそうそういない。
人混みの流れが激しい中わざわざ振り返って戻る者などいないし、こうして怒鳴って来る人もいるにはいるがごく少数だ。
大抵の者は、人とすれ違いざまぶつかるというのはいつものことだと思っているし、気に留めることはない。
その際に決して欠かしてはいけないのは、相手の鞄、もしくは財布に直接触れること。
わざとぶつかり、少し触れるだけでいい。
後は少し距離をとってから、ちょいちょいと指で引き寄せる仕草をすれば、それはまるで磁石のように引かれて来る。

「はい、一丁あがり。」

そう言って、にやりと不敵な笑みを浮かべてみせる。
罪悪感が一切ないと言えば、嘘になる。
けれども罪悪感を持っている暇などない。
そんな感情を少しでも持ってしまえば、自分たちは後は飢えて死ぬだけなのだから。


第10賭 見つけた二人


今日はいつもよりも強く雨が降っていた。
髪や服が濡れるのはいつものことなので、最初こそは傘を恋しく思ったが慣れというのは恐ろしいもので、今では気にも留めない。
路地裏へ周り、雨に濡れないよう壊覇と不火架は鞄や財布の中を覗きこむ。
今回は中々の上玉だったらしく、分厚い紙幣が財布の中に入っていた。
鞄にも、食べ物がいくつか入っている。
小さな子供二人分なら大体2週間はもつ量だろう。
二人で顔を見合わせ、満足げな笑みを浮かべる。

「よっしゃ、今回は結構あるな。」
「これだけあれば、2週間はもつかな?」
「余裕余裕。」

不火架の言葉に思わず壊覇も笑みをこぼす。
このままでは探しに戻って来た人に、鞄が盗まれたと気付かれる可能性があるので更に持参したリュックサックの中へ入れ、壊覇が背負う。
大通りから悲鳴が聞こえ、騒がしいなと二人は思わず顔をあげる。
まさかもう気付かれてしまったのだろうかとそーっと大通りへ顔を出すと、二人の子供が果物やパンを抱えて疾走していた。
銀髪に碧い瞳をもった瓜二つの少年が、目の前を横切り大通りを真っすぐ進んで行く。

「不火架。」
「あぁ。」

恐らくあの二人が、此処最近騒ぎを起こしているという双子だろう。
道を歩く誰もが、少年たちを捕まえる素振りをしない。
それどころか小さな悲鳴をあげて道を開く者もいる。
ただものを盗むだけであれば、大の大人が避けて歩く必要はない。
捕まえることが出来ない程の、逃げてしまいたくなる程の何かが二人にはある。
壊覇と不火架はうん、頷くと、路地の裏へと再び入り、行き止まりとして立ちはだかっているフェンスをよじ上る。
最初こそ、小さな身体でフェンスを上るのは至難の業であったが、なるべく人前に出ないように、裏道裏道と繰り返していくごとに、それにも大分慣れて来た。
壊覇であればフェンスを砂にすることも出来るだろうが、今後のことを考えるとなるべくそれは避けておきたい。

「よしっ、お先っ」
「あ、待ってよ不火架」

一足先にフェンスを上り終えた不火架は地面に足を置くとそのまま走りだす。
慌てた壊覇はバランスを崩し、尻もちをつく形で地面に落ちたが、慌てて不火架の後を追いかけた。
入り組んだ路地裏と走り進むと、先程の二人の銀髪の少年と、不火架が向きあうように立っている。

「ふ、ふびかっ」
「おっそいよ。」

息を切らしながら不火架の横に並ぶと、抵抗感むき出しの目で双子はこちらを睨む。
壊覇は荒れる息を深呼吸で整え、ふぅと大きく息を漏らした。

「ずっと探してたんだよ。君達のこと。」

双子の碧い瞳を見つめながら、壊覇はにこりとぎこちなく微笑んだ。

 


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