賭博四天王編


第1章 犠牲となった子どもたち



二人の少年がぐにゃりと歪む。
肩までしかなかった銀色の髪は腰まで伸び、心なしか体格も一回り大きくなっている。
二人から一人へと変貌を遂げたその姿を、ただただ口をぽかんとあけて見守ってしまった。
肉眼でも見えている黒く淡い光は自分達の心臓にも宿っている、それの光なのだろう。
人を人為らざるものへと変える実験は、こんなにも何人もの少年の人生を狂わせるのだろうか。


第12賭 泥の沼


「いっ…てぇ」
「大丈夫?」
「一瞬意識飛びかけたけどね。」

差し出された不火架の手を取り、よろよろと立ち上がる。
ちらりと横目で、壊覇を蹴り飛ばした少年を見つめた。
目の前で変貌を遂げたので、彼が鋼屡と矩鬼だったものの姿であることは理解している。
それでも二人の人間が一人になるなんて、二人にとっては信じられないことだった。

「これも、あの黒い宝石の影響かな?」
「だろうねぇ。で、どうする?」
「んー、こういうのって、逃げるが勝ち、って言わないかな。」

壊覇と不火架の二人がかりでも、正直目の前の少年を力づくで止めることは難しい。
そもそもそこまでして、この二人を連れていくのも気が引ける。

「この力さえあれば、大人相手に対抗することも出来る。」

鋼屡と矩鬼の声が、重なって響く。
少年は笑みを浮かべながら、その拳をこちらへ振り上げる。
不火架は壊覇の服を掴み、強引に引き寄せるとその拳は壊覇の後ろにある石造りの壁にぶつかった。
壁がピシピシと音を立てて亀裂が入る。
あの拳を直接受ければどうなってしまうのだろうと想像すると、さっと血の気が引くのがわかった。

「おいおいおいおい、待てって。お前達が強いのはわかった。だからって言っても俺達は別にお前達とドンパチやりたい訳じゃないって。」

不火架が弁解するように叫ぶが、少年は拳を振るうのを止めない。
壁の亀裂が増え転がっていたゴミ箱が破裂する。
壊覇は不火架よりも反応が鈍く、不火架が壊覇の服の裾を引っ張りながらなんとか避けている状態で避けても避けてもきりがない。
更に天気は雨。
雨で濡れた地面はぬかるんでいて動きにくい。
泥に足を取られ、不火架は滑り尻もちをつく形で転んでしまった。
壊覇もつられて泥の中へと飛び込む形で倒れ込む。
口の中に泥の臭いと味が広がるが、気にしている場合ではない。
側面には壁。目の前には先程上ったばかりのフェンスがある。

「ったくあの馬鹿…話聞けっつーの!」
「聞いてくれる雰囲気ではなさそうだけどね…話せばわかると思うんだけどなぁ。」

こちらは切羽詰まっているというのに、壊覇ののんびりとした様子に思わず呆れてしまう。
察しろと言わんばかりに壊覇を睨むと、わかっているのかわかっていないのか、壊覇はゆったりとした笑みを浮かべた。

「大丈夫大丈夫。ね、不火架。ちょっと協力して?」
「はぁ?これ以上なんの協力するんだよ。」
「いいから、ね、耳貸して?」

壊覇が不火架の耳元へと顔を近づけ、小声で話す。
その内容に思わず「は?」と間抜けな声を出してしまったが、壊覇は笑顔のままだった。

「お喋りは済んだ?」

二人分の少年の声が重なって聞こえる。
これ以上は逃げ場がない。形成は完全に不利だ。
一歩一歩踏み締めるように少年がこちらに歩いてくる。
すると、突然少年の歩みがピタリと止まり、前に出していた右足も膝を曲げて崩れ落ちる。

「な、何だこれは…!」

少年が戸惑いの表情を浮かべる反面、壊覇は勝ち誇ったようににやりと笑みを浮かべた。

「不火架!」
「あいよ。」

壊覇が不火架の名を呼ぶと、不火架は壊覇の服を掴みもう片方の手を宙へ伸ばす。
二人はふわりと浮かびあがり、フェンスのてっぺんへと幼い身体が引き寄せられる。

「この辺り一帯、ぜーんぶ砂に戻してやったのさ。こんな天気じゃ、あっというまに泥沼地獄の完成だよ。」

泥の下にある硬い地面。
壊覇は地面に触れることで、地面を全て柔らかい砂へと変えていた。
柔らかくなった砂は雨水と合わさり泥となり、足場を奪って身体を沈ませにかかってくる。

「触れたものを磁石みたいに引き寄せられる不火架がいてくれて助かったよ。」
「あぶねー賭けだったけどな。お前がフェンスの下まで柔らかくしてたらお陀仏だぜ?」

不火架の能力が発覚したのは、本当に偶然のことだった。
街中で人にぶつかり、荷物にうっかり触れてしまった時のこと。
嗚呼、あの荷物の中にはさぞ色々入っているのだろうな。是非欲しいものだ。
そう壊覇とふざけて話していたら、本当に荷物が引き寄せられてしまった。
それから発覚したことは現時点で三つ。
一つ、指先にわずかでも、触れたものは磁石のように自分の元へと引き寄せることが出来る。
二つ、引き寄せられる距離はおよそ半径10メートル。
三つ、物質を自分の元へと引き寄せるだけでなく、自分を物質へ引き寄せることが出来る。
この三つさえわかってしまえば、物を盗むのにも苦労はなくなったし、追われても逃走経路を確保すれば簡単に逃げられた。
そして今回もその能力が役立ったのである。

「いやー荷物の中の食べ物は不火架に恵んでやろー」
「いらないよ。泥まみれでしょ、絶対。」

不火架が呆れたように溜息をつきながら、ふと下を見る。
底なし沼のような泥は、壊覇の手が離れたのものあり途中で止まったようだが、肝心の少年の姿は手一本しか視えない。
二人はさっと顔を青くした。

「と、取りあえずこいつ等出すぞ。」
「意義なし!」

二人は慌ててフェンスから飛び降りた。

 


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