賭博四天王編


第1章 犠牲となった子どもたち



壊覇と不火架があの施設を脱出したそのすぐ後日。
ある双子の兄弟も、その組織を抜けだすことになる。
抜けだしたきっかけは、一人の少年。
壊覇達と同じ実験を受けたその少年は、宝石の力が暴走し、理性を失い全てを破壊した。
これが、新聞にも掲載された施設の火災の原因。
仮死状態になることなく、なんとか意識を保った二人はこの騒ぎに紛れながら辛くも逃げ出した。
他にも逃げ出した子供達は何人かいたが、逃げ出した者はごく少数で、何人かは捕まり、何十人かは命を落とした。


第8賭 鋼屡と矩鬼


鋼屡と矩鬼が施設から逃げ出して、初めに向かったのは自分達の家だった。
家に向かえば、父と母が待っているような気がしたからだ。
しかし辿り着いた、かつて家があった場所には何もなかった。
正確には、黒ずんで崩れ果てた、家らしきものの残骸がそこに存在しているだけ。
父も母も当然、いる訳がなかった。
二人の兄弟は、愕然と、目の前の光景を見つめていた。
込み上げて来る涙は、お互いの手を強く握り合うことでなんとか耐えた。

「大丈夫」

どちらからともなく、言い聞かせるように呟く。
鋼屡が言ったのか。矩鬼が言ったのか。それともどちらもそう呟いたのか。
二人が心を折ることなく立っていられたのは双子故の団結力だろう。
親がいなくても互いがいる。
その互いの存在が、強く二人を結びつけ、奮い立たせていた。
家がなくなった二人はあてもなく彷徨ったが、歩き続ければ空腹も当然訪れる。
空腹を満たす為に二人が取った行動は、盗みだった。
売られている果物や野菜、パンといった主に「店に無防備に置かれているもの」をターゲットに盗み、路地裏まで素早く逃げていくという芸当。
単純だが、一度見逃せば中々捕まえられないものだった。

「鋼屡、今日は何盗んだ?」
「パン。そっちは?」
「こっちはリンゴ。少しはたしになるかな…」
「十分だよ。食べよう。」
「うん、いただきます。」
「いただきます。」

二人で両手を合わせて拝むようにして呟くと、パンやリンゴへかぶり付く。
親が買い与えてくれたパンや果物は、ただただ普通に美味しかった。
けれど、こんな目にあったからこそわかる。
食事を摂れるということがどれほど恵まれていることなのか。
そしてその食べ物は、なんて美味しいものなのかと。
食べ物があまりに美味しくて。今の現状があまりにも悲しくて。
外へ出てから初めての食事は、二人で涙を流しながら貪るものとなった。
路地裏に放置されていた土管の中で、泥だらけになりながら、それでも兄弟は疲れ切って眠りに落ちた。
二人はこうして、壊覇達とはまた違うやり方で飢えを凌いでいたのである。

「いい加減にしろよ、この悪ガキ共が。」

だが、子供の行動範囲で盗みを繰り返せば、いずれは限界が生じる。
相手も対策をしてくるから盗みにくくなる。
成功したとしても、このように見つかった矢先に取り囲まれるようになる。
大人達は殺気立った目で小さな二人の子供を睨みつけた。
手にはそれぞれ、バットやフライパン、棍棒とどれもこれも決して子供相手に向けるものではない。
二人はそれに恐怖を覚える訳でもなく、ただただ黙ってそれを眺めていた。

「囲まれちゃったね。」
「そうだね。」
「あたったら痛いかなぁ。」
「痛いと思うよ。」
「痛いのは嫌だなぁ。」
「嫌だね。」
「「じゃぁやられる前にやっちゃおうか。」」

言葉を交互に重ねて、最終的には二人で同じ言葉を発する。
恐怖を宿さない子供の瞳に。物怖じしない子供の態度に。
大人は不気味さと恐怖を抱く。
目の前で親を殺された恐怖。無理矢理焼印を入れられた恐怖。黒い得体のしれないものを入れられた恐怖と痛み。
全てを思い出せば、目の前のこの大人達など恐怖に値はしなかった。

「「しんじゃえ。」」

あどけない無邪気な笑みが不気味さを際立たせる。
それ以来、双子の盗みを大人達は黙認することとなる。
何故黙認するのかと問えば、大人達は皆顔を青色に染めながら、「お前はアレを見てないからわからないんだ」と怒鳴り上げた。
当時居合わせた一人は、その後語る。
たった「一人の子供」によって、皆殺しにされかけたと。
あれはただの化け物だったと。
あれを刺激し命を落とす位なら、食べ物の一つや二つ盗まれるなんて、安いものであると。

 


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