賭博四天王編


第1章 犠牲となった子どもたち



科学者たちによって開発された、人工的な異能者…使者の力が込められた宝石。
それを少年達に埋め込む、という実験は過酷なものだった。
小さな子供達には宝石のエネルギーを受け入れ切れない。
その為、全身から血を噴き出し、命を落とす者が殆ど。
生き残った子供達の中でも何人かは仮死状態に陥る者が殆どで、壊覇と不火架は、一時的に仮死状態になり倒れた者の一部だった。
満足に生死の確認を取らなかった科学者達は、仮死状態であることに気付かず、二人を死体遺棄室に放置したこと。
これが一つ目の失敗。
そして二つ目の失敗は、死体遺棄室の場所と造り。
1階に設置された死体遺棄室は組織の端にあり、造りも単純だった。
それにより、コンクリートの下にはもう地面があるという造りになってしまっていたのである。
しかし、何より一番の失敗は。
壊覇の能力原となった宝石に宿った能力が、物質を土へ還す能力だったことかもしれない。
それからの壊覇と不火架の脱出方法は、ごくシンプルで単純なものだった。
小さな穴を少しずつ広げて、子供一人分の大きさにする。
後は下は地面なのだから、子供達の力といえど地道に掘り進めていけばいずれは出口、つまり外に辿り着く。
それまでに科学者が入って来て、穴が空いているのを見れば脱走者がいることに気付くだろう。
なので、穴の上に重なるよう、子供達の死体を置いて蓋にした。
元々死体と化した子供達を一時的に捨て置くための部屋なのだから、死体一人一人をいちいちチェックなどしない。
その後この部屋に何人も科学者が入って来たが、穴に気付いた者は誰一人としていなかった。


第7賭 生き残り


地面を掘り進み外へと抜けだした壊覇と不火架は、弥瀬地の繁華街へと辿り着いた。
泥まみれの子供など居ても違和感のない地域で、誰にも怪しまれることもなく彷徨う。
最終的に、繁華街のはずれにある、無人になって恐らく数年は立っているであろう寂れた建物の中へと雨をしのぐ為に入った。
鍵はかかっていたものの、それは壊覇の手によって砂へと還り、侵入を可能としたのである。
最初は2、3日留まるだけのつもりだった。
しかし、建物内には二人の他に誰もいないし、雨風も凌げるし、電気や水道が通っていないという問題を抜けば文句なしの場所だった為、結局1週間以上留まっている。
最初こそ、突然身体中の血管が浮き上がり、血液の流れが速くなり、黒い宝石を埋め込まれた日と同じような症状が出る日もあったが、身体が宝石と馴染んで来たのか何日か経てばそんなことも起こらなくなった。
新聞は、大人達が捨てたものを回収することが出来た。
服も、被検体用の服のままでは危険なので、ゴミとして捨てられていた子供服を漁った。
食べ物もまた然り。
深夜に二人で外を歩き、酒に酔い寝ている男の懐をまさぐり財布を盗んだこともあった。

「わ、結構入ってる。」
「なんか、申し訳ないよな…」
「でも、それがなきゃおれ等が死ぬぞ。」
「…そうだな。」

財布の中身を確認しながら、二人でやり取りをする。
盗んだものとはいえ、表面上はきちんとしたお金なので、買い物は出来る。
深夜にも営業している店でおにぎりや弁当を購入しても、それを怪しがる人はいない。

「おい、聞いたか…」

商品棚に品物を乗せながら、店員二人がひそひそと呟く。

「最近、政府直属の科学施設が全焼したらしいぜ。」
「おっかねーな。」
「しかもさ、なんかその実験に使われてたのが小さい子供っつー話だよ。」
「まっさかぁ。だって政府直属の組織だろ?んなこと出来ないって。」
「まぁ確かに噂だけどさ…でも、最近子供の孤児が増えて来たような気がするんだよなぁ。」
「そういえば近所で、双子のガキが野菜とかパンとかよく盗むって聞いたな。」
「だから余計、そんな噂が増えるんだろ。」
「嫌な世の中だよな。親がいねーガキっつーのも気の毒なもんだ…」

店員二人はそのまま、別室へと入って行ったためこれ以上話を盗み聞きすることは出来なかった。
しかし、自分達以外にもあの施設から抜け出した子供達がいる。
この情報を掴めただけでも、収穫かもしれない。

「ね、不火架…」
「どーせ、おれたちと同じ境遇の奴ら見つけて、一緒にあそこで…とか考えてるんだろ。」
「うっ、」
「ったく。食べ物取り合いになるぞ。しかも全員入りきれるのかよ。」
「うぅ…」
「って位、見つかればいいよな。」
「不火架…」

ばん、と不火架は力強く壊覇の背中を叩く。
壊覇は思わず前へ2、3歩よろめいた。
振り向くと、不火架がにやりと不敵な笑みを浮かべている。

「取りあえず、その最近現れた双子の盗人には会ってみる価値ありそうだよな。」
「…うん。」
「ま、今日はもう遅いし…明日探してみようよ。」

店を出ると、雨が先程よりも強くなっている。
これ以上強くなる前に、二人は半透明の袋を抱えて帰路を急いだ。

 


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