賭博四天王編


第1章 犠牲となった子どもたち



「お前達の番だ。来い。」

先程、数人の少年を連れて行った男が戻って来た。
さっきの子供達はどうなったのですか、なんて、聞けるはずもなく。
少年はゆっくり立ち上がると、言われるがままに男の元へと歩み寄る。
燃えるように赤い髪がゆらりと揺れた。


第6賭 生存者在り。


全身の激しい痛みで目が覚めた。
起き上がると、先程まで培養槽の中に居たのが、何もない灰色の部屋にいた。
窓もなく明かりもない、無機質な空間。

「此処は…」

立ち上がり、一歩歩くと足が何かに引っかかり、そのまま転倒してしまった。
いてて、と呟きながら躓いた原因であるそれに手をつきながら起き上がる。
ぐにょ、と柔らかい、しかし何処か冷たく硬い感覚に壊覇は首をかしげた。
慣れて来た目を凝らして見つめる。
するとそれは、真っ赤な、元々は真っ白であったであろう被検体服を着た少年の遺体だった。

「ひいっ」

悲鳴を漏らし、逃げるように後ろへ後ずさる。
恐怖で漏らしそうになるのをぐっと堪えて、ごくりと唾を飲み込む。
ピキリ、と強い痛みを感じて左腕を押さえる。
左腕はまだぴくぴくと血管を浮かび上がらせていた。

(さっきの、変な宝石入れてからだ…)

先程よりも力を込めて左腕を押さえると、浮かび上がった血管が少しずつ引いていく。
ふぅ、と息を吐いて力を抜くと、改めて辺りをきょろきょろと眺めた。
他にも、何人か倒れている子供の姿がある。
恐る恐る近寄り、首元に触れてみるがそれは氷のように冷たく、脈もなかった。

「しんでる…」

無意識に呟く。
恐らく此処は先程の実験で命を落とした子供達が収容される部屋なのだろう。
一人一人、肩を揺さぶったり、脈を確かめていると、見慣れた少年が倒れていた。
黄緑色の髪で、顔は伺えない。

「ふびかっ!」

力の入らない身体でよろよろと近寄る。
触れた肌は、氷のように冷たかった。

「ふ、ふびか、ねぇ、うそでしょ、いきてるでしょっ」

身体を抱き寄せ、バシバシと乱暴に頬を叩く。
すると不火架はげほげほと咳き込みながら、緑色の液体を口から吐き出した。

「げふっ、げほっ、っはー、死ぬかと思った…」
「ふびか…」
「かいは、えっと、ここ、は…ぼくたちさっきまで…」
「おれたち、死んだと思われたみたい。失敗作とみなされてここにまとめて廃棄されてたんだよ。」
「他の子達は…?」

不火架の問いかけに、壊覇は首を左右に振る。
その意味を読み取った不火架は、項垂れるように下を向いた。

「どうしよう…」

下を向いたまま、力の入らない弱弱しい声で不火架は呟く。
生きているとわかっても、今度ろくな目に会わないのは明らかだった。
しかし此処は、出入り口は扉のみで窓もない。
扉からの正面突破は、どう見ても不可能だった。

「くそっ」

壊覇は、力を込めて床を叩く。
するとピシリと何かがひび割れる音がした。

「え」

不火架もその音を聞いたのか、思わず間抜けな声を漏らす。
音の聞こえた場所、壊覇の拳の下を見ると、ぱらぱらと壊覇の拳についたコンクリート片が零れる。
コンクリート製の床はひび割れていて、一部は砂のようになっていた。
二人は思わず顔を合わせる。

「きみ、こんなちからあったの?」
「ないないないない。おれやっともうすぐ8才だよ?」
「だよ、ね…」

二人でまじまじと、砕けたコンクリートの床を眺める。
そして、壊覇は拳に力を込めると、もう一度床を強く叩いた。
コンクリートは粉々に砕かれ、その下を手で掻くようにして掘る。
少し冷たい、湿った柔らかい感触がして、掴みあげると、手に握られているそれは黒い土だった。

「これって…」
「土、だな。じゃぁ、ここは…一階…」
「ねぇ、かいは。」

互いの意図を察して、頷く。

「ここから、出られるかもしれない。」

 


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