賭博四天王編


第1章 犠牲となった子どもたち



子供達の身体に焼印が押された後の2日間は、身体検査を徹底された。
身体中にコードが繋がれ、機械により出力された結果を白衣の大人達がメモをとる。
手首と足首につけられた枷により、逃走は困難。
しかし焼印をされた時よりは、痛みもないので大分マシだった。
その分これから何をされるかわからないという、不安感も強かったが。
小学生以下の幼い子供達にとっては、「痛いことをされない」という喜びが勝り、今後のことを考える者はごく少数だった。
本当の恐怖は、その翌日にあったことも知らずに。


第5賭 始まりの実験


3日目。焼印を押された10人の子供が檻から連れだされた。
1列に並ばされ、真っすぐ歩くように促される。
その中には、1番目と2番目に焼印を押された壊覇と不火架の姿もあった。
辺りをキョロキョロと見回せば怒られるような気がして、自然と背筋をまっすぐ伸ばして歩いていた。
辺りは暗く不自由まため、よく視えない。
カツンカツンと音を立てて歩く白衣の大人達の靴音と、素足でペタペタと歩く子供達の足音だけが響いていた。

「止まれ。」

そう言われ立ち止まると、鉄製の扉が目の前にそびえ立っていた。
見るからに重々しい扉を、大人の男二人がぐっと押し開ける。
ギ、ギ、ギ、と鈍い音を立てながら空いた扉の向こうには奇妙な光景が広がっていた。
蛍光灯の光は青く、確かに明かりが灯っているはずなのに何処か不気味な雰囲気を漂わせている。
何台もの培養槽が設備されていて、中身は空っぽであった。
培養槽の大きさは大きくもなく、小さくもなく。丁度子供一人分が入りそうな大きさ。
当然、この状況を考えれば、この培養槽の中に誰が入るのか、察しが付く。

「お前達が入るんだ。」

嗚呼、やっぱり。
壊覇は心の奥底で、落胆する。
しかし、この部屋へ連れられた時点で想像がついていたので、ショックは薄かった。
さっさと歩けと促され、壊覇を含めた子供たちはとぼとぼと力なく歩を進める。
泣き叫ぶ子供は、もういない。
それぞれ培養槽の前に立たされると、プシュ、とドーム状になっている培養槽の上部が音を立てて左右に開く。
それぞれの子供達は太いものや細いものといった、様々な管を繋がれ、培養槽の中へと子供達が入れられる。

「始めるぞ。」

その声を合図にドーム状の上部は再び閉じられる。
そしてゴポリと水音がしたと思うと、足元から緑色の培養液がこみ上げていく。
ビクリと身体を震わすが、緑色の液体が込みあがって来るのを防ぐことは出来ない。
足から膝、腰、肩、そして顔と、身体全身が液体の中に浸かる。
息苦しさに、口からゴポリと気泡を吐いた。

(息、苦し…)

視界が緑色のゆらゆらと揺れる。
0002…不火架も同じ状態なのだろうかと、同じ境遇の少年の一人が脳裏によぎる。
大人達は培養槽に設備されているコンピュータを、こちらの様子をちらちら眺めながら操作する。
すると、培養液が出て来た足元から、また別のものがコポリと音を立てて浮かび上がって来た。
丸くて小さな、黒色の、真珠のような宝石。
まじまじとその宝石を眺めていると、吸いこまれるように壊覇の胸元へと近付いていき、丁度心臓がある真上の位置にピタリと止まると。

「なっ…」

声を出そうとするが、ごぽりごぽりと気泡が零れるだけだ。
そして宝石は、痛みもなく、とぷんと身体の中へと入って行った。
異物が入って来る感触が不快で、眉間に皺を寄せる。

(なんだこれッ)

壊覇がそう思った時、何かを吐き出すように無意識的に口からごぽりと気泡を吐く。
目の前には、吐き出したばかりの気泡と、赤い液体が、緑色の液体の中にゆらりと揺れる。

(え、)

汚れのように見えるそれは、先程までは浮かんでいなかったもの。
紛れもなく自分の口から零れ出たものだった。

(まさか、血、)

ピキリと皮膚に痛みが走る。
手を見ると、血管がピキピキと浮かび上がっていて、同じような痛みが、首、頬、全身へと広がる。
体中の血液の流れが速くなっていくのを感じ、身体の奥から熱がこみ上げる。

「ぐ、あッ…」

叫びたくとも、叫びは音にはならず泡を吐き出すだけで終わる。
浮かび上がった血管の所々は切れて、血が吹き出る。
その血がまた培養液の中に溶け込む。
痛くて。痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて。
熱くて。
気持ち悪くて。
伸ばそうとした手は、気持ち悪い位に血管が浮かび上がっていて、爪も獣のように伸びていた。
視界がぐにゃりと歪む。
緑色だった視界が赤色に染まった時、プツンと何かが切れる音がし、壊覇の意識はそこで途切れた。

 


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -