賭博四天王編
第1章 犠牲となった子どもたち
“使者”と“人間”の大きな違いは、その身体に貯め込んでいるエネルギー量だそうだ。
人間は普段、生活をする上で必要最低限の力を使うエネルギーしか備わっていない。
それ故に、人間は脳の1割程度しか有効に使えていないし、力もセーブされている。
比べて、使者の場合は全ての力を100%発揮してもそれに耐えうる脳と肉体を持っている。
「まぁ、その使者の潜在能力によって、力の量は異なるみたいだけれど。」
腰まで長い髪を持ち、両耳に水晶のピアスをつけた白衣の男は呟いた。
男の視線の先には、小さな水槽。
その水槽には無数の管がとりつけられており、管の先には、まるで黒真珠のような丸い宝石。
「使者のエネルギーの根源たるものは宝石だよ。心臓の中に、宝石が埋め込まれている。」
左胸の上に手を置きながら、男は饒舌に喋る。
片手には、一般的な家庭包丁が握られていて、ぽたぽたと刃の先から鮮血が流れ出ていた。
「僕も、使者を殺したのは初めてだったよ。心臓中にこんな素敵なものがあるなんて。」
ナイフを突き立てた時の、肉を切る感触。
自分の力が、純粋な使者に勝った優越感。
これからの研究への好奇心と、心臓を抉って出て来た、まるで真珠のように白く輝く宝石を思い出し、恍惚な表情を浮かべる。
「その使者の中から取り出した宝石をベースに、エネルギーを込めたのがこの黒真珠。」
水槽を愛おしげに撫でながら、初老の男へ視線を移す。
初老の男は、顎に生えた真っ白な髭を指でそっと撫でる。
「僕は、人間にこれを埋め込むのは反対なんだけどねぇ。多分、エネルギー許容量を超えて、破裂しちゃうよ?」
「それでも構わないさ。君の研究成果を待っていれば、何十年とかかってしまう。それよりは、人間に埋め込むのが手っ取り早いよ。」
「まぁ、僕は止めないけれどね。僕は、自分の研究を続けたいから、これで帰らせていただくよ?」
第4賭 宝石の心臓
窓から外を眺めると、いつもよりも強く雨が降っていた。
雨粒の一つ一つが、まるで弾丸のように地面へと打ちつけられる。
止む気配のない雨の音を、目を閉じながら静かに聞いていた。
同居人である、金髪の少年は古びた穴だらけのソファに腰を沈め、新聞を読んでいる。
「読めるの?」
「……あんまり……かんじ、むつかしい。」
「だよねぇ。」
漢字がびっしりと並ぶ新聞と、少年はそれでもにらめっこを続ける。
一番大きな記事では、灰色の建物から炎と煙が立ちあがっている写真が載せられていた。
記事の中では、事件の原因が不明であることと、施設内の人間が全滅した旨が書かれている。
雨ばかり降っている弥瀬地だが、運悪くその日の天気は晴れ。
普段ならあっという間に止む雨も止まず、結局施設は全焼してしまったそうだ。
死体の損傷も激しく、黒く焼け焦げていて死因も焼死なのか、それ以前に死んでいたのかすらわからないそうだ。
「わかるんじゃん。」
「簡単な漢字はわかるし、文章の前後の流れで大体わかるでしょ?」
「俺はバカだからわかんねぇなぁ。」
「はいはい。」
「ねぇ、その記事いつの?今日の奴じゃないでしょ?」
「えっと…3日前だね。」
「3日前……じゃぁ、アレから、1週間後…?」
「俺達が逃げた後、誰かがやったんだろ。誰かが殺したのか、それとも、証拠隠滅か。」
「あるいは両方か。」
「……」
二人の間に沈黙が流れる。
沈黙に耐えきれなくなった、黄緑色の髪をした少年はうんと伸びをすると、金髪の少年の隣へと座り込んだ。
「あんときの生活が嘘みたいだなぁ。」
「あぁ。」
「えーっと…0001?」
「番号で呼ぶな、0002。」
「お前もだろ。で、かいは?」
「なに?」
「外、出たんだなぁ…」
「あぁ。」
「実感、わかないなぁ。」
「そうだね。」
「今までの一年、なんだったんだろう…」
「……わからない。」
雨の音を聞きながら、壊覇はそっと目を閉じる。
そして、当時の記憶を思い返していた。
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