賭博四天王編


第1章 犠牲となった子どもたち



弥瀬地は、8つの地の中でも特に科学技術が進歩した土地だった。
科学研究を主とする組織の本部も弥瀬地に存在し、政府の命を受ければ秘密裏な実験を日夜行っていた。
遡る事20年以上前、組織は政府よりとある命を受けた。
「人工的な使者の製造」
使者とは、神や悪魔の能力を受け継ぎ、特殊な能力を操る“人為らざる者”とされている。
姿形は普通の人間と同じで、当然人間によって産み落とされる。
人間同士の間で産んだ子供でも、使者として生まれる事がある。
人間離れした能力を所有する為、一部の人間からは嫌悪され、恐れられる。
代々続く使者の家系出身の者は、政府の要職に就き、それなりの地位を保証されている。
しかし殆どの使者は政府の狗として人間兵器となり闘い、人としての扱いを受ける事は殆どない。
人工的な使者の製造は、つまり、効率的な兵器の増産にも繋がっていた。
そして、その実験の対象となったのが、弥瀬地で暮らす小さな子供達であった。


第2賭 改造人間


「かーいは!今日遊ぼうぜー!」

黒の服に紅い瞳。
そして髪の色と同じ、黒い鞄を背負った少年の声に振り向く。
同じく黒い鞄を背負った金髪の少年は、黒髪の少年、美琴にどん、と体当たりされた。
手をぶんぶん降りながら勢いよく走って来た為、勢いあまってぶつかってしまったのだろう。
小柄な二人の少年は地面へと転がる。

「痛いよ、美琴。」
「ごめんごめん。ねぇ壊覇、今日遊ぼうよ。」
「ごめんね、今日は用事があるから、遊べないの。妹の誕生日だから。」
「そっかぁ、じゃぁ仕方ないな。残念。」

美琴はぷぅ、と頬を膨らませるが仕方ないと溜息をついて起き上がった。
そのまま屈み、壊覇へと手を差し出す。
壊覇はその手を握り、ぐっと起き上がった。
身体についた砂や泥を、手で軽く払う。

「そういえば、知ってる?1年の業陀、昨日家に帰ってないんだってよ。」
「え、そうなの?その子の事は知らないけど…今日、俺のクラスにも1人、学校来てない子いた。なんか家に帰ってないって…」
「2年も?」
「2年もって事は…4年生も?」

壊覇の言葉に美琴は小さく頷く。
二人の間に流れた一瞬の沈黙は、突如降り始めた雨に遮られた。

「あ、雨…」
「もう帰らないとだな。壊覇、どん臭いんだから気をつけろよ?」
「うるさいなぁ。素直に心配しろよ。じゃ、また明日な!」
「うん。また明日。」

壊覇は美琴へ元気に手を振った後、雨にあまり濡れないように鞄を傘代わりに頭へと掲げて走った。
道を真っすぐ走り、曲がり、歩き慣れた道を順調に走って行くと、途中にある店の前で停止する。
店の扉をゆっくりと開けると、大きいものから小さいもの、白いものや茶色いものといった幾多ものテディベアが並んでいた。
レジで店番をしていた店員へ声をかける。

「おばちゃん!とりにきたよ!このまえの!」
「あら、壊覇ちゃん。いらっしゃい。もう学校は終わり?」
「うん!これから帰るから!早く!」
「急かさなくてもちゃんと渡すわよ。お代は先週ちゃんと頂いたものね。」

店員の女性は微笑みながら、壊覇へ黄色い袋とピンクのリボンでラッピングされたものを手渡した。
キラキラと目を輝かせながら、壊覇はそれを大事そうに抱く。

「こんな優しいお兄ちゃんを持って、壊覇ちゃんの妹は幸せね。」
「喜んでもらえるかな…?」
「もちろんよ。きっと壊覇ちゃんの気持ち、伝わるわよ。」
「うん!ありがとう!」

壊覇は元気よくお礼を言うと、店の扉をあけて外を出る。
先程の雨はにわか雨だったらしく、あっという間に天気は晴れていた。
鞄を背中に背負い直し、ラッピングされたプレゼントを大事そうに抱えて家へと小走りで向かう。
妹の喜ぶ顔を思い浮かべながら、壊覇は本来自宅があった場所へと向かった。

「…え…」

しかしそこに家など無く。
目の前は業火で包まれていた。

「え、う、そ…」

目の前に広がる非日常に、壊覇の思考が一時停止する。
何度目を瞑り、瞬きしても、目の前の光景が変化することはない。
パチパチと火花を散らせ、“家だったもの”は無常にも巨大な火柱を作って燃え上がっていた。
パサリ、と抱えていたプレゼントが力なく地面へと落ちた。
リボンが緩み、袋から、本来妹に渡すはずだった白いテディベアが顔を出す。

(嘘だ。だって、だって。)
(今日は、妹に、破茄に、プレゼントを、渡して、)
(それでそれで、母さんケーキ作るって言ってて、父さんも、今日は仕事休むって)
(だから、父さんと、母さんと…妹は…何処に…?)

崩愚壊覇の、20年前の記憶は此処で一時的に途切れる事になる。

 


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