実験班組織編


第2章 紫盤 音秦



「お待たせ。」
「お父様、どーっしたか、中は。」

ゼロが外へと出ると、長身の青年がゼロの元へと駆け寄る。
赤銅色の癖っ気を揺らし、にこにこと人懐っこい笑みを浮かべている青年を、ゼロは見上げた。
青年の背中からは、まるで鳥のそれを模したような鉄の翼が生えている。
しかし何処かぼろぼろで、特に左側は今にも外れそうだった。

「やっぱ見た目通り、酷い有様だったよ。伍は良い子にして待ってた?」
「当然っすよ、お父様。こうして変な虫はぜーんぶ追っ払っておきました!」

伍と呼ばれた青年は、えへんと胸を反らす。
彼の周囲には、真っ赤な絵具のような液体をぶちまけられた人という人が転がっていた。
その働きっぷりに関心したのか、ゼロはうんうんと頷く。

「よく出来ました。流石だね。」
「でも左翼が壊れちゃいました。これじゃぁ飛べませんよ。」
「安心おしよ。ちゃんと、父さんが直してあげるから。」

ゼロの言葉に安心したのか、伍は満足げに微笑んだ。

「で、どうするんすか?」
「さて。どうしようねぇ。もう少し、彼等の様子を見てみたい気もするけれど。」


第14話 外から流れる音色には


あれから、死燐は未だ眠ったまま。
弓良は身体が睡眠を欲しているだけだから、そっとしておいた方がいいと言っていた。
これ以上出来ることもなく、手持無沙汰となった羅繻はベッドの傍に置いた椅子に腰かけ、死燐をじっと見つめている。
規則正しい寝息を立てて眠る少年を眺めていると、コンコンとノック音がして陰思が入って来た。

「まだ居たのか。何か食べないと、体調崩すぞ。」
「陰思は、食べなくていいの?」
「俺は子供とはいえ鬼だから、少し位食べなくても、まぁやっていけるよ。」
「僕も、光と水と酸素があれば、大丈夫だもん。」
「…」
「…」

二人の間に沈黙が流れる。
その沈黙に耐えられなくなったのか、諦めるように陰思が溜息を漏らした。

「わかったよ。そんなに死燐の傍にいたいのかよ。」

羅繻はにこにこと笑みを浮かべてこくりと頷く。
弓良を含め、羅繻達3人は通常の人間よりも多少は丈夫に出来ているために、数日は飲み食いをせずとも耐えることが出来る。
だからこそこんな廃墟みたいな状態と化した組織から、もっと良い場所へという思考も持たない。
そして食事をせずともけろっとしている。
陰思も羅繻同様、椅子を一つベッドの傍に置き、腰かけた。

「早く起きるといいね。」

羅繻が呟く。
それは誰もが思っていることだった。
陰思もああ、とだけ呟く。
その時だった。
ガラスが割れ、風がいともたやすく入り込む窓から、微かに楽器の音色が聞こえる。
先にその音に気付いたのは陰思だった。
何の音かと立ち上がると、急に身体が重くなり、膝をつき床へと崩れ落ちた。
自分の意思とは裏腹に動く身体に、疑問と動揺が同時に浮かぶ。

「なっ…」

まるで何かに押しつぶされるような感覚。
身体の自由が利かなくなった陰思を不審に思い羅繻も動こうとするが、身体が動かない。
見えない何かが身体をしばりあげているような、窮屈な思いだけが感じられた。
そして次第に大きくなる楽器の音色に、陰思と羅繻は同時にはっと気付く。

「まさか、あの人が言ってた…」

ゼロが話していた噂話を思い出す。
嫌な予感がして、ベッドの方を見つめると、そこにはベッドの上に立ち上がる死燐の姿があった。
目は虚ろで、焦点が定まっていない。
何かに取り憑かれているかのように、音のする方角…窓の向こう側へと視線を向けていた。
白い手をすっと伸ばすと、その手へと黒い光が収束される。

「シリン!待っ…!」

その声が死燐へと届く前に、黒い光は放たれ、爆発音が響き渡った。

 


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