実験班組織編


第1章 慾意 羅繻



この組織にも書庫というものはある。
何冊あるのかは、数えたことがない。
見渡す限り本、本、本と本に囲まれたその書庫は種類も豊富なので、資料を探すにあたってはとても便利だ。
否、便利過ぎて、逆に不便かもしれない。
死燐と共に書庫へ訪れた陰思は、天井に突き刺さるように伸びている本棚の群れを見上げて呆然とした。

「書庫なんて初めて来たけど、こんなにあんのかよ。」

書庫内には、本棚と同じく天井に刺さるのではという位に高く伸びた脚立が何台かある。
恐らく本を取る為のものだろう。
一つの脚立がガタリと揺れる。

「今日は何の用だ?」

眼鏡をかけた若い男は、脚立のてっぺんでこちらを見下ろすようにして座っていた。


第6科  書庫の番人


「弓良。ちょっと調べさせてもらいたいんだ。」

死燐が顔をあげ、弓良と呼んだ男へ声をかける。
輝くような金色の髪をもったその男は、ふむ、と口元に指を添え考えるような仕草をする。
彼の周囲を囲うように、青白い炎がゆらゆらと揺れ、何冊かの本もふわりと宙を漂っていた。
弓良は自身の広げていた本をぱたりと閉じると、脚立の上からふわりと飛び降りる。
その時も彼の周囲は青白い光に包まれていて、ゆっくりと床へと降りた。

「コイツは狐火弓良。狐の妖で、結構前から此処の書庫に住んでる。無駄に長生きだからなんでも知ってるぞ。」
「無駄には余計だ馬鹿者。」

死燐の紹介の仕方に不服をとなえると、さてと弓良は本を見渡す。
視線を本に向けたまま、死燐へ声をかけた。

「で、何を調べたいんだ?」
「えっと、特定の能力を使う精霊や異能者についての特定って可能か?」
「そういう書籍があればな。変わった力を使う子でもいたのか?」
「あぁ。植物を身体から生やした。そいつ自身も、植物みたいに光合成したりするんだ。何かの精霊かと思って。」

その言葉に、弓良の耳がピクリと反応する。
ゆらゆらと尻尾を揺らしながら、本から死燐へと視線を映した。

「そいつの出身地と、本名わかるか?」
「第三支部から送られて来た奴だから、多分出身は黄荒地。名前は確か、ヨクイラシュって。」
「慾意、か。慾意っつったら黄荒地の中でも規模のある一族のご子息じゃないか。出身は黄荒地で間違いないだろうね。」

弓良はそう言うと、すいと指を動かして青白い炎を操る。
ゆらゆらと燃える青白い炎は何冊かの本をゆらりと持ち上げ、持ち上がった本は死燐の目の前へと集まる。

「黄荒地は砂漠化した土地だ。存在する植物といえば、1本の御神木のみ。慾意一族と、後もう一つ、植物を操るのに特化した一族が居たらしいが、植物が存在しない土地に居たんじゃ、その能力者も減る一方。今じゃ殆どいないらしい。

死燐の前へ集まった本は、黄荒地の歴史。そして、慾意一族の著書、黄荒地で植物を操る人間の、第三支部から集められたレポート、そして。

「ししゃ、と…だいししゃ?」

陰思が本のタイトルを読み上げる。
分厚い本には、使者、そして大使者、とそれぞれ記載された本がゆらりと揺れていた。
そして神暦時代の歴史書、聖書、八代神の書物。
“科学”からは到底、かけ離れた書物ばかりであった。

「死燐って確か歴史、苦手だったよな。」

何処となく勝ち誇ったような笑みで弓良は死燐を見つめる。
死燐の顔は眉間にしわが刻まれていて、ほんのり頬も赤くなっていた。

(ああ、だから俺も一緒に、ね。)

陰思は納得して、うんと小さく頷く。
まぁこんな大量の本を読み調べるのにも時間はかかるだろうし。
そういうことにしておいてやろうと、陰思は1冊の本を手にとった。

「で、この中にこいつの能力を特定するヒントがあるかも、ってこと?」
「そういうこと。多分、そのガキ…お前が思っているより大物かもよ。」

弓良は既に答えが想像ついているようで、何処か楽しそうな笑みをこちらに浮かべていた。

 


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -