実験班組織編


第1章 慾意 羅繻



「死燐、お疲れ様。」
「あぁ。」

声をかけられ、振り向く視線の先には肩までかかった新緑色の髪をもつ少年。
死燐を含め、白衣を着ている研究者達の中に紛れた和服姿は、異様に目立っていた。
自分より背丈の低い、声変わりもまだな少女のような少年の髪を適当に撫でまわす。
そのままどさり、と割り当てられているベッドの中へと沈み込む。
幼馴染であり同じ境遇の犠牲者であり同志であり同期で同室な少年は隣のベッドへと座り込む。

「今日はそっちどうだったん?」
「死体片付けて死体片付けて、あ、後、なんか変なガキ押し付けられた。」
「へぇ。使い道あんのかね。」
「どうだか。第3支部で持て余したらしい。」
「ふーん。」
「明日から本格的に面倒見ないとだし…」

ベッドの中で眠気に襲われながらも、翌日以降の事を考える。

「とりあえず適当に機材と繋げて分析して、後、第3支部からの情報内容も確認しとかないと。」
「忙しいねぇ。」
「ホントだよ…少しは代われ…」

そこで確か、嫌なこった、とか、いつも通りの憎まれ口が聞こえた気がする。
しかし眠気というものは下手な敵よりも強大なもので。
気が付いたら朝だったというのは言うまでもない。


第2科 数多居る被検体の内の、


翌日、自分にあの得体の知れない少年を押しつけた上司からもらった第3支部からの研究情報を読み漁った。

「食べ物を与えても死なない、ねぇ。」

この組織には人成らざる者がよく集められる。
鬼や吸血鬼、狐、狗など種類は様々で、彼等は通常の人間よりも圧倒的な潜在能力を持つ。
彼等の力を、通常の人間に持たせることは出来ないか、と日々研究が行われている。
その過程で、人外である彼等の力を受け入れ切れず、命を落とす人間もいた。
この少年も、元はといえばその研究材料として連れられた人間らしい。
生命力が強いのか中々死なないそうだ。
1ヶ月食事を与えず、水しか与えていないのに生きているそうだ。
1週間ならまだしも、流石に1ヶ月ともなれば、それは人間の域を超えてるのではないか。
そう判断した研究者達が、彼を調べてみたがどう検査しても、中身はただの人間だったらしい。

「よぉ。」

鉄格子の前で、ソレに声をかける。
声に反応したのか、ソレは虚ろな瞳をあげてこちらを見つめていた。
何も食べていなくても生きている、とはいえ、必要な栄養は一切摂っていない。
手足は棒のように細く、身体も皮だけなのではないかという位、骨が浮かび上がってた。

「まだ生きてるんだ。」
「………」

ソレは、相変わらず無反応。
長期間此処で過ごしていれば、廃人のようになってしまうのは当然といえば当然だ。

(俺がそうだったしな。)

ポケットから取り出したものを、ソレの前に放り投げる。
トン、トン、と2・3回跳ねたパンは、ソレの前でころころと転がった。

「……」

ソレは不思議そうに首をかしげながら、目の前のパンを見つめている。
そして死燐は鉄格子の向こう側に背中を向けて、もたれかかるように胡坐をかいた。

「なんか、落とした気がするけどわかんねぇや。俺が見てない間に起きた事はしらね。」

自分がなんという馬鹿なことをしているのか、自覚はしている。
数多いる被検体の内の1人に過ぎない。
いくらただ食べ物を与えているだけといえど、見つかれば自分も只では済まないだろう。

「………い、いの………?」

唇をもぞもぞと動かしながら、やっと放った声は、擦れていてよく聞き取れなかった。
なんと言ったのかは想像ついたので、

「知らない知らない。俺は何も見てないんだ。」

投げやりにそう答えた。
後ろからは、鼻をすすりながらパンを頬張る音がしたが、それもあえて、聞こえないフリ。
見てしまった。
見えてしまった。
布切れ一枚のシャツの下から。
注射痕とも違う、管を入れられた痕とも違う、明らかに、それ以前につけられたであろう、火傷痕。
彼が過去どういう目にあっていたのか。
そしてその結果、どういう経緯で此処へ来る事になってしまったのか、容易に想像ついた。

「なぁ。アンタ、名前なんてゆーのさ。」
「……しゅ」
「ん?」
「…よくい、らしゅ。」
「ラシュ、ね。なぁラシュ。俺がお前を、此処から出してやろっか。」

 


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