実験班組織編


第1章 慾意羅繻



初めて此処に連れられた時、「嗚呼、自分は捨てられたのだ」と直感した。
白衣を来た大人達は物珍しげに自分の事を眺めていた。
身体中に、変な細い糸を入れられたり。変な薬飲まされたり。
大きな機械で検査されたり。
そんな日々が続いた。
食べ物なんて貰った事はない。
何故か、必要最低限の光と、水があれば、なんとかなった。
今思えば、彼等はそれで自分の身体の構造を調べていたのかもしれない。
何もない無機質な空間で。
逃げられないように鎖で繋がれて。
逃げようとか、そんな事考える気力もなくて。
何日も何日も声を発していないから、人の言葉すらも忘れかけていた時に。
彼と出会ったんだ。


第1科 出会い


調べられる側から、調べる側に変わったのは何時からだろうか。
曇りがかった空を眺めながら、少年は物思いに更けていた。
一年中雨が降り続ける故郷と比べれば、柳靖の地は晴れる日もあれば、雨が降る日もある。
比較的バランスのよい天気環境だった。
生き残る為に、ひたすら勉学を重ねた。
調べられる側に立ったままでは、いつか研究の過程で殺される。
目の前で死んでいく被検体を見ながら、ただただそう考えていた。
大人の目を盗んで本を読み漁り、科学者としての必要最低限、否、それ以上の知識を身につけた。
被検体のまま殺してしまうのは惜しいと悟った一部が、生かす代わりに知識の提供を、という事で得た現在の地位。
それでも奴隷に近い立場ではあるが、今現在、後片付けをしている目の前の被検体の亡骸よりはマシな立場だと悟ってはいた。

「砂殺。ちょっと来い。」
「はい。」

彼が来たのは丁度、現在から10年近く前。
出会ったばかりの彼は、着ているものは布一枚のみで。
にごりきった光のない瞳は、今でも忘れる事が出来ない。

「最近入った被検体だ。第3支部から譲り受けた。今日からお前、コレを担当しろ。」
「私が、ですか。」
「向こうでも調べつくしてみたが、あまり成果はなかったらしい。」

大方、希少価値はあるものの、研究成果が出ないから持てあましたのだろう。
本部の方が機器も充実しているし、支部長はそれを狙って本部へ送ったのか。
はたまた、ただただ押し付けられたのか。

「今から洗脳しておけば、将来優秀な兵器になるかもしれないからな。」

だから生かさず殺さずだ、と、上司から念いりに言われた。
自分より幼い子供はやせ細っていて、今にも折れそうな程弱弱しい身体だった。
今日死んだ被検体がいた隔離部屋が丁度空いていたので、彼はそこに入る事になった。
長く研究対象として過ごしたのかもしれない。
他の被検体が未だに出して嫌だ怖い助けてと喚くその環境で、彼は一言も声を発さなかった。

「…今日から、此処で寝る事になるけど…」
「………」
「…あの、さ…怖く、ないのか?」
「……」

なにを聞いているんだと自問自答したくなった。
此処まで疲弊した被検体は何人も見て来たし、死んでいく奴だって何人も見た。
でも心を殺して、殺して、押し殺して、此処までやって来た。
今回の奴だって、いつもと変わりない。
何に何故?
ぐるぐると思考を巡らせながら、ちらりと彼に目をやる。
もぞもぞと、口を動かそうとはしていたが、結局声を発する事はなかった。
長く垂れ下がった前髪が目元までかかり、額すらも隠している。
第一印象は、とにかく、不気味。
でもなんとなく放っておけないような、複雑な、印象。
それが、後の実験班組織の組織団長を担う二人の出会いだった。




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