また会おうね


あぁー。今日は早上がりしちゃおっかな。
担当の客も帰ったし、明日は土曜日で休みだしゆっくりマッサージでもして帰りたい。

私はホステスをしている元呪術師だ。
一時期は特級の推薦も上がるくらい死ぬ気でというか何度も死にかけながらも努力していた。
でも化け物みたいな後輩が入学して来て心が折れたんだよね。もう別に私なんか要らなくない?後は頼んだ。ってその三人と会ったことも話した事もないんだけど。
呪術界の至宝、呪霊操術、反転術式、粒揃い過ぎない?
自分の努力を無駄だったと思ってしまった。
うん。私は君達には並べない。
高専を中退してからは有り余る貯金でダラダラと堕落した生活をしていて、偶々スカウトされた有名クラブで、ぼちぼちの成績のホステスをしている。
何でも程々がいいのよ。程々が。
私は悟ったのだ。

「名前さん、ママ担当の席の新規お願いしていい?」
「えー。帰りたいんだけど」
「…黒髪、高身長、それに、凄く良い身体付きしてたなぁ」
「……行きましょう」

わぁー!久々のタイプ!
黒服のちょろいぜコイツみたいな笑みも何とも思わなーい。
私は身長が高いから華奢よりはゴツい男が好きだった。しかも黒髪なんて唆るわー。
偶には目の保養も大切だよ。うん。
マッサージは明日にしようと思いながら軽い足取りでVIPルームに向かった。

「おぉ、名前ちゃん!久しぶりだね」
「社長お久しぶりですー!なかなかお席に呼んで下さらないからてっきり忘れられてると思ってましたよ?」
「ハハ、君みたいな綺麗な子呼んだらママに叱られてしまうからね」

笑いながら軽くハグされてママからの視線が痛い。
え、何なん。彼氏かパパか何かなん。
えー面倒な席に来ちゃったかなぁ。
クッソー。やっぱり帰るべきだったか。
とりあえず挨拶を済ませて端に座っている初めましてであろう男の横に座った。

「名字名前です。よろしくお願いします。宜しければ、お名刺ーー」
「私は夏油傑だよ。名刺忘れちゃっててまたの機会でいいかな」

え?この人、呪術師、だよね?
関わるの久々過ぎて言葉に詰まったわ。恥ずかし。
てか社長祓って貰ったんだ?
強引なやり方で成り上がった人だもんなぁ。そりゃ怨みくらい買うか。
社長から視線を移すと夏油傑はニコニコと私を見ていた。
長い黒髪はハーフアップにされていて、サラサラと落ちた前髪と切長の瞳が色気を醸し出している。
黒いシャツに黒いスーツ。厚い胸板が海外俳優の如くそれを着こなしていた。

「…どうかしたかい?」
「あ、いえ。鍛えてらっしゃるんだなと思って」
「ふふ、見惚れたのかな?」
「言われ慣れているでしょうけど、素敵です」

目を見張った彼に首を傾げつつ、ご一緒にいただきますと挨拶をしてワインを一口飲んだ。
さすがママ。良いワイン卸してんね。
うんまい。
私は酒好きだし、何よりマメで記憶力がいい。
呪術師よりもこの仕事の方が向いている。
初めは死ぬほど頑張ったけどね。
お陰で我儘言えるくらいには毎月売り上げを作れるようになったし、高専時代からしたら貯蓄も倍くらいにはなった。
それでも、そろそろ辞め時かなぁ。目標もなくだらだらと惰性で続けられる程甘くはない。
まぁ稼げなくてもいいならそれでもやって行けるけど。

「名前って呼んでいいかな」
「え?あ、はい。勿論です」
「ありがとう。良かったら私の事も名前で呼んで欲しいな」
「傑さん?」
「傑でいいよ。同い年くらいだろう?敬語も要らないよ」
「ふふ、ママの顔があるので二人の時だけですよ?」

あー何なん。名前呼ばれるだけできゅんとするんだから、イケメンって狡いよね。
控えめに微笑む感じも百点満点。
ワイングラスに添えられた指もゴツゴツしてて男!って感じでいいよねぇ。
グラスになりてー。
てか、傑以外は非術師だよね。こんな接待を受けるくらいならレベルが高い案件だったんだろうなぁ。この人相当強いんだ。
今日も世界を守ってくれてありがとう。

「名前はこの仕事長いの?」
「五年くらいになりますね」
「敬語。どうせ聞こえてないよ」

チラリと社長を見るとすっかりママと二人の世界だった。他のメンバーもそれぞれ話している。まぁ、もう会う事もないだろうからいいか。
ね?と微笑んだ傑に目線を戻した。
耳元で囁くのやめて貰ってもいいですか?
それにしても傑の色気ヤバくない?
無駄遣いにも程があるわ。

「傑はこういうお店よく来るの?」
「いや、今日は断りきれなくて偶々だよ」
「そうなんだ。飲み慣れてる感じするけどね」
「そうかい?こう見えて緊張してるんだ。名前が綺麗だから」
「ふふ、やっぱり飲み慣れてる」

飲み慣れてると言うよりは遊び慣れてるね。
イケメンだから許されるわ。
確かにタイプではあるけどね、私そんなに軽くないし、安くないからお持ち帰りなんてされてあげなーい。
そういう女が欲しいならそもそもお店間違ってるしね。
枕なんて断固拒否。

「ねぇ、連絡先教えてくれないかな」
「んーまた会えたら、ね」
「へぇ?ふふ、何でだろう、またすぐに会える気がするよ」

自信満々といった感じで口角を上げた。
客にはならなそうなタイプだよなぁ。
てか辞めようと思ってるのに今更新規は要らないかな。
見てるだけで癒されました。
ありがとう。
心の中で合掌していると熱い視線を感じた。傑が私を真っ直ぐに見つめて口を開きかけた時、テーブルの上の携帯が震えた。

「あー、仕事だ」
「遅くに大変だね。酔ってない?」
「大丈夫だよ。今日は君に会えて良かった。また会おうね」

挨拶を済ませた傑は艶っぽい笑みを残して颯爽と退店して行った。
君に会えて良かった。って何処の王子様だよ。顔面が良いと何言っても許される。
しかも似合ってるから流石だ。
あぁ、心が浄化された気分。偶には新規も付いてみるもんだなぁ。
よし、ここにマッサージで追い討ちかけてやるかと決めてマネージャーに早上がりを申し出た。



  
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