永遠の終着点を探して






傑はいつもの様に始業の数十分前から静かな教室に入りゆったりとした時間を過ごしていた。
繁忙期も終わりそろそろ授業もまともに受けれるだろうかとぼんやり窓の外を眺める。

「夏油おはー。相変わらず早いな」
「硝子おはよう」

いつも通り二番目に教室に入るのは硝子だ。
ふわりと煙草の香りを纏わせながら席に着いた。いつ死ぬか分からないこの世界では校則もあってないようなものだ。

「…悟はまた遅刻か。」

ガラガラと建て付けの悪いドアを鳴らし溜め息を吐きながら夜蛾が教室に入る。

「午前は通常通り座学、午後からは新しく京都から赴任してきた術師に体術を見てもらう予定だ」
「へぇ。拠点を移したって事ですか?」
「…そうだ。本人たっての希望でな」
「おはよーございまーす」
「はぁ。悟その遅刻癖どうにかならないか。」

大きな欠伸をしながら最後に教室に入る悟もいつも通りのテンプレートだ。
気をつけまーすと間延びした声に夜蛾の拳骨が落ちた。





「あー繁忙期終わったら終わったで座学ばっかかよ。疲れるわー」
「悟はほぼ寝てただろ」

途中で任務が入った硝子を見送り、二人で食堂に来ていた。Aランチを食べ終わり甘ったるい苺ミルクを飲みながら傑に愚痴る。

「午後は体術なんだから少しは発散できるんじゃない?それに新しい先生らしいよ」
「え?そうなの?ボッコボコにしてやろーぜ!」
「赴任して初日に可哀想だよ。悟は手加減を覚えたほうがいい」

二人は舐めきっているのも隠しもしない。言い方が違うだけで貶しているのは変わらない。それもその筈、教師に教えて貰うより二人で組み手でもした方がよっぽど為になるくらい体術にも自信があった。

修練場に着いた二人はなかなか現れない教師に苛立っていた。すでに二十分は過ぎている。

「新任のクセに時間も守れねぇなんて碌な奴じゃないね」
「悟がそれを言うなよ。まぁでも人間性は疑うよ」
「だろー?ていうかビビって逃げたんじゃね?」
「…誰が逃げたって?」
「っ!!」

悟は突然現れた気配と耳に感じた吐息にその場から飛び退く。
傑は瞬きの間に頭を畳に叩きつけられていた。

「ぐっ!…えっな、んで?」
「傑はちょっと黙ってようね」

にたっと笑った女に傑は押し黙る。

「遅れたのはすまないと思っているけど、その目上を馬鹿にする態度はいただけないな」
「っ!何だよオマエ!」
「体術。教えてあげるから、おいで?」

挑発的な笑みにカッとなった悟は女に向かって走り出した。
そこからは控えめに言っても地獄だった。
傑は最初に倒された時から指一本すら動かせず、ただただ悟がボロボロになって行くのを見ている事しかできなかった。
太腿の骨が鈍い音を立て悟は痛みに蹲る。
女を見ると汗ひとつかかず長い黒髪をかきあげながら、此方を見下ろしていた。
黒く大きな瞳にスッと高い鼻、形の良い艶やかな唇。
ショートパンツから伸びるスラっと長い足。
何より悟の目を引いたのはぴたりとしたタートルネックのニットが拾う曲線だった。

「なに?見惚れた?」
「っ!ちっげぇーよ!オマエ何なの?」
「姉さん…そろそろ拘束解いてくれないかな」
「え?はぁ?!」
「傑はそれくらい自分で解けるようにならないと。二人とも鍛え甲斐がありそうだね」
「はぁ。悟、この人は私の姉だよ」

鼻で笑った女と傑の顔を見ると確かに似ている気もするが、こんな規格外の姉がいるなんて聞いてなかった悟は驚きを隠せない。

「新任の夏油名前だよ。よろしくね」
「オマエ姉ちゃんいたの?!しかもこんな化け物」
「悟、それ以上は言わない方がいい。それで、姉さんは私に連絡も無しで何でこっちにいるのかな?」
「えーそんなの傑に会いたいからに決まってるでしょ?傑は嬉しくない?」
「う、嬉しいけど!連絡くらいしてくれてもいいだろ」

珍しく耳まで赤く染めた親友を悟はみて理解した。これは、あれだ。シスコンだ。
よしよしと大人しく頭を撫でられている様はまさにそれだ。

「それで?君の名前は?」
「…五条悟」
「へぇ。噂は本当だったんだ」
「あ?なんの噂だよ」
「イケメンだけど性格に難あり」
「あ"?」

クツクツと二人で笑い合っている顔を見るとそっくりでやはり姉弟だった。

「まぁ、任務であまり高専に居ないと思うけど、よろしくね」

悟は差し出された手を取った。





「んん、さとる…」

腕の中で小さく自分の名前を呼ばれて薄らと目を覚ます。ふふっ懐かしい夢みちゃったな。愛しい彼女の髪を撫でる。長い睫毛が震えてとろんとした黒曜石の瞳と目があった。

「な、に?笑ってるの?」

まだ眠そうな彼女は胸板に擦り寄るようしてに見上げてきた。

「名前と初めて会った時の夢を見たよ」
「あぁ生意気な悟を叩き潰した時ね」
「…もっと言い方あるでしょ?」
「ふふっ今も昔も悟はかわいいよ」

首に腕を回して口付けた彼女には今も敵わないなと細い腰に手を回す。

「まさかあの時は悟と付き合うなんて思ってもみなかったなぁ」
「それは僕もだよ」
「えー?見惚れてたクセに?」

にやにやと笑いながら柔らかな膨らみを押し付けてくる。悪戯っぽい顔も仕草もあの時と何も変わらない。

「なぁに?誘ってるの?」
「んーその気が無い訳じゃないけど、でも起きなきゃ」
「今日オフでしょ?」
「可愛い弟とデート」
「チッ。また傑かよ。…分かった。今は我慢するから僕も行く」
「悟は任務あるでしょ?」
「秒で終わらすから大丈夫」
「ふふっ本当にかわいい」

ふわりと微笑んだ名前は足を絡ませて僕の太腿をなぞった。ツルツルの素肌同士が擦れ合って気持ちいい。

「傑にちょっと遅れるって言っちゃおうかなぁ」
「はぁ、本当名前には敵わないよ」
「悟、好き」
「僕も大好き」

どちらともなくキスをする。

きっとあの日からずっと好きだった。
気付いたら名前しか目に入らなくなった僕はもうそれは本当に頑張った。
名前に告白して断られて告白して…最早高専の名物になっていたくらい頑張った。

「僕と付き合ってください」
「いいよ」
「え?」
「本当に卒業するまで好きでいてくれるとはね」
「え?何?それって…決めてたの?」
「ゴールがあったら油断しちゃうでしょう?それに必死に好きって頑張る悟が可愛くてつい、ね?」
「はあー。もう本当に…好き」
「私も好きだよ。悟。」


最初は応援もしてくれなかったけど姉さんを泣かしたら殺すからって渋々だけど傑も認めてくれて、こうやって毎日一緒に幸せな朝を迎えられている。
僕達に大切な事を沢山教えてくれた名前を今度は僕が大切にするから、断れ続けてるプロポーズにも頷かせてみせるよ。

死ぬまで一緒に沢山のゴールを迎えよう。






  
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