無言の最適解







体術の合同訓練後、悠仁と恵は狗巻姉弟が会話するのをぼんやりと眺めていた。

「ツナマヨ?」
「…」
「明太子!」
「…」
「しゃけしゃけ!」

姉の狗巻名前は悠仁の二つ上で棘より身長が高くて髪は腰までさらりと伸びている。それを除けば髪や瞳の色、口元の呪印も同じで双子の様だった。
それに加えてもう一つ棘と違うのは呪言を用いる時以外は一切の言葉を発さない事。
いつも穏やかに微笑んでいるものだから、まるで人形の様に見える。

まだ棘の言葉も曖昧にしか聞き取れない悠仁は名前の表情さえ理解する事が出来なかった。


「お疲れ様サマンサーって悠仁、難しい顔してどうしたの?」
「五条先生!ねぇ先生は名前先輩の言ってる事分かるの?」
「勿論!そんなの手に取るように分かるよ」
「えーすっげぇ!」
「僕は最強だからね!これくらい朝飯前だよ」
「じゃあさ!さっきの会話何て言ってたの?」
「昨日怪我したんだって?
硝子に診てもらったから大丈夫。
そういう問題じゃない!
棘は優しいね、気をつけるよ。
姉さん約束だよって感じかな!」

声を真似ながら話す五条。そこまでは求めてないと悠仁は思いながらも、あれ?これ正解分かんなくない?と気付く。

「んで、伏黒合ってるの?」
「狗巻先輩の方はだいたいそんな感じだが、名前先輩は俺も分からん」
「うーん。名前は喋らないからねぇ。あ、棘!合ってるでしょ?」
「しゃけ」
「…」

棘と名前がOKサインを出した。

「え!五条先生すげぇ!」
「GTGを侮らないでよね」
「…」
「あーもう本当名前はかわいーんだからっ!て事で名前借りて行くね」

五条と名前は校舎に戻って行った。

彼女は不思議な人だと悠仁は思う。
ふわふわ、ぽやーっとしてる普通の女の子なのに任務に出るとまるで別人になる。
一度同じ任務に就いた時、呪言は使わなかったけれど、それ抜きにしても成る程、これが一級術師かと思わず目を輝かせてしまうくらい強かった。
意外と肉弾戦でちょっと引いたのは秘密だけど。

「狗巻先輩は名前先輩の声聞いた事ある?」
「おかか、すじこー」
「任務以外では聞いた事ないし、あるのは五条先生だけ。だと」
「へぇ!先生凄いのな」
「一応、名前先輩の婚約者だからな」
「え?まじ?」
「まじ」「しゃけ」



満面の笑顔の五条に手をひっぱられ名前は高専の地下室に連れて来られていた。

「もう喋って良いよ」
「…五条先生、なぜ地下室に?」
「二人の時は何て呼ぶんだっけ?」
「悟、さん」
「良く出来ました!一番の理解者なんて言われたら声聞きたくなるでしょ?」
「ふふっ可愛いところもあるんですねぇ」

口元を押さえながら控えめに微笑む名前が愛おしくて仕方ない。本当は皆んなの前でも普通に喋れるんだけどね。
これは僕の我儘。

「あ"ー僕の婚約者がかわいい…」
「今日は甘えんぼですね。疲れてます?」

ソファーに座りぎゅうぎゅう名前を抱き締めるとよしよしと優しい手つきで頭を撫でてくれる。

「名前。もう僕以外とも普通に話してもいいよ。我儘聞いてくれてありがとうね」
「あぁ、悟さん以外とは話さないって縛り勝手に結んじゃいました」
「え?」
「棘も私の無言を理解してくれてるから良いかなって。それに、いざっていう時に悟さんを守りたいので、強く在りたいんです」

したり顔で笑う彼女。それって最早プロポーズだよね?もう籍だけでも先に入れとくか?いや、でも卒業まで待つって言っちゃったしなぁ。後一年の我慢かぁ。

「本当に名前は僕をどうしたいの?好きすぎておかしくなりそう…」
「悟さんは大袈裟なんだから」
「…僕なら縛り解いてあげれるよ?本当にいいの?」
「それって…私の事要らなくなっちゃいました?」
「いるいる!そんなの有り得ないから!そうじゃなくて、やっぱり好きな人は幸せにしてやりたいからさ」
「十分幸せですよ。私も悟さんを幸せにしてあげたいです」

名前がこんなにも綺麗で愛に溢れた強い意志を僕だけに向けて、僕だけに見せてくれている事でもう十分過ぎる程幸せだよ。
最初は僕の一目惚れだったけど、今は名前もちゃんと僕を愛してくれている自信がある。
あの時諦めなくて本当に良かった。

「あ"ーーかわいいっ!名前すき」
「……」
「ねぇ!今?!狡いんだけど!なんでそんな…僕がどれだけ我慢してるか分かってる?」
「…」
「もう死にそう。」
「…」
「うん。愛してるよ名前」
「…」

名前も馬鹿だなぁ。
あの時僕を突き放していたら普通に喋れて自由に生きて行けたのにね。
それでも幸せだなんて笑うから、縛りなんて一生解いてあげれそうに無いよ。

彼女を理解出来るのは一生僕だけでいい。






  
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