アルタイルは僕のもの




「七海ただいま」
「苗字、任務お疲れ様です。」
「お疲れ様。本当に疲れた。今は五条くんに会いたくない。七海…頼んだ」
「…私にどうしろと。」

教室に気怠げに入って来た彼女は遺言を残すように呟き机に突っ伏した。
早朝からの任務だったかと七海は溜め息混じりに名前を眺める。
艶やかな黒髪が机から流れ落ち、陶器のように滑らかな肌に長い睫毛が影を落とす。
灰原は「名前は天女みたいだよねぇ」と恥ずかしげも無く本人に言っているが、成る程。確かにと七海も納得する。
黒く長い睫毛に縁取られた白銀の瞳は夜空に輝く一等星の様に見えるからだった。

七海は名前の事を好意的にみている。勿論、同期としてだが。
眠ってしまう程疲れているのに律儀に教室に寄る様な真面目さは特に好感が持てるところであった。
窓から春の柔らかな風が彼女の髪を揺らす。
この穏やかな時間が七海は好きだった。



「…七海。どれくらい寝てた?」
「30分程度です。自室に帰って休んでは?」
「灰原の顔見てから帰るよ」
「…そうですか。」
「あ、いや。七海ごめん。灰原にお疲れ様って伝えといて!じゃあ、また明日っ!」
「あっれぇーー?ここに居ると思ったんだけど。七海、名前来てない?」
「いえ。来てませんね」

早口に挨拶した彼女が消えた瞬間、五条悟が教室の扉を開けた。
これも良くある事で七海は驚きもしない。
「ふぅん?」と呟いた五条は七海の隣の席に座る。

「視線が鬱陶しいのですが」
「辛辣だなぁ〜。ねぇ、七海。あれは僕のだから駄目だよ?」
「はぁ。何度言った分かるんですか。苗字はただの同期です」
「面倒事が嫌いなのに僕に嘘付いてまで隠してやるのがただの同期なんだ?」
「何故…」

にやりと意地の悪い笑みを浮かべる五条からひしひしと怒りを感じる。
彼女の隠密は五条が探せないくらいに完璧な物だ。何故バレたのだろうか、と七海は眉間の皺を更に深くした。

「簡単だよ。ここで寝てたでしょ?ここに名前の体温が残ってる」

彼女が寝ていたのと同じ体勢になる五条。
体温調節までは名前も流石に出来ないだろうが明日教えてやろう。と思いながら机に頬擦りをする変態を見やる。

「…はぁ。相当疲れている様ですので、休ませてやって下さい」
「僕から逃げるくらいには元気も呪力も有り余ってんじゃん」

七海次は無いよ。と後ろ手にヒラヒラと手を振って教室から出て行った。
今日は割と機嫌が良い方だ。いつもならネチネチと独占欲丸出しの文句を並び立てる筈なのに。まぁ苗字の居場所が既に分かっているからだろうなと思いながら心の中で彼女に合掌した。




五条は足取り軽く自室へ向かっていた。

「もー本当に僕のお姫様はいじらしいよね。可愛い過ぎて困っちゃう」

独り言の音量では無いがこれがいつもの五条悟であった。
自身の部屋から感じる存在に彼の口元が緩む。
そっとドアを開け中に入ると、広いベッドの真ん中に人形の様に眠る名前を見つけた。

なんで僕の部屋にいるのかな?全然逃げれてないよ?本当にお前は可愛い事をするよね。などと思いつつベッドに座り名前の髪を優しく撫でる。
卒業間近な五条は繁忙期前なのにこれでもかと任務を詰め込まれていた。愛しの彼女と会えたのも二週間ぶりであった。
久々の再会なのに逃げられたのには少し拗ねるが、五条は知っている。

「僕にも休んでって事でしょ?」

名前の額に唇を落とす。
多忙な自身に少しでも休んで欲しいと不器用な彼女の優しさに胸がきゅっとなる。
まぁ名前も疲れてるのは本当だろうけどね。お疲れ様。ともう一度口付け、布団に潜りそっと名前を抱きながら心地よい体温に目を閉じた。




柔らかな温もりにうっすら目が覚める。
暗い部屋に窓から入る月明かりが眩しい。
彼女の白い足が目に入り、この温もりは膝枕かと、彼女の大サービスにきゅんとしながら上を見る。
月明かりに照らされギラギラと光を乱反射させる一等星が此方を見ていた。

「五条くん、お帰りなさい。」
「ん、ただいま。」

一等星が柔らかく瞬き、優しく自身の髪を撫でる。この瞬間は自身が世界で一番幸せだといつも思わせてくれる。
この瞬間の為なら何でも出来ると言い切れる。

「五条くん。まだ寝てていいよ」
「んー起きるよ。名前と折角会えたのに勿体無いでしょ」
「私は逃げないよ」
「夕方は逃げたクセに」
「あれは…戦略的撤退だ」
「ククッ。やっぱ逃げてんじゃん」

彼女の小さい頭を掴みちゅっとキスをする。

「…首が折れる」
「照れちゃってかわいーんだから」

ギラギラと輝く瞳に蒼が映って混ざって独占欲が満たされていく。
名前を一目見た時からずっと愛している。死んでも離してやらない。愛しい僕だけのお姫様。僕だけをずっと照らしていて欲しい。

ありったけの愛を詰め込んだ蒼が名前の瞳に映った。
一等星が優しく輝き燦いた。








  
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