最高の日に


「助けて頂いてありがとうございます!!あ、あの!良ければ連絡先を教えて、」
「黙れ、猿が(すいません。個人的な関わりは禁止されてるんです)」
「げ、夏油さん、声に出す方間違えてますよ…」


あぁ、最悪だ。
笑顔のまま固まる猿とおろおろする伊地知にため息を吐いた。
今日は本当についてない。
朝から電車で男から尻を触られるわ、ソレの所為で任務に遅れて依頼者からぐちぐちと文句を言われるわ、散々だ。
折角のお弁当も忘れるし、お気に入りのコーヒーショップも臨時休業だった。
何か最近呪いを浴びる様な事があっただろうか?と考えてしまう程についてない。

「夏油さん送りは…」
「あぁ、高専でいいよ」

まだ昼過ぎだし、デスクに置いたままにしてしまっているお弁当を食べて心を落ち着けよう。一時間くらいで着くだろうか。
名前は任務中かな?スマホを開くも通知は来ていなかった。
仕方ないので待ち受けを眺めて癒される事にした。少し前に撮った寝顔。私の手に擦り寄るようにして眠る名前は天使に違いない。あぁ、かわいい。すき。
今日泊まってくれないかなぁ。
ついてなかった話をすれば仕方ないなぁって笑いながら頷いてくれるかな。

「すっぐるー!おかえりー!」
「……一応聞くけど、何食べてるんだい?」
「え?オマエの弁当じゃん。持ってくの忘れたんでしょ?名前が折角だから食べてってくれたんだよね」
「………今すぐ吐き出せ」
「はあ?!え、なに?僕にも嫉妬すんの?こっわー!」

後で食べるよって言わなかった私も悪いんだろうけど、酷いよ名前。
せめて一口だけでも!と最後に残された卵焼きを口に入れた。
楽しみに取って置いたのに!と喚く悟をスルーして甘めの卵を堪能してやった。
泊まるついでにご飯作ってくれないかな。一緒にスーパーに寄ろうか。
もう泊まるのは私の中で確定だ。

「あ、傑。お疲れ様ー」
「っ名前!!」
「…オマエら会うの十年ぶりなの?」

私のテンションに盛大に引いている悟には目もくれず事務室に入って来た名前を抱き寄せた。柔らかな香りを肺いっぱいに染み込ませると漸く荒んだ心が凪いでいく。
勘がいい名前は私の頭をよしよしと撫でながら頑張ったねぇとあやす様に穏やかな声を掛けてくれた。

「すき」
「うん、私も好きだよ。今日もお疲れ様だったねぇ」
「まじでオマエら変わんないよね。よくもまあ飽きずにいちゃついてるもんだよ」
「恋愛童貞の悟には分からないさ」
「こら、無駄に煽んないの。どうせ悟は何も言い返せないんだからね」
「おい、まじで変わんねぇな。…まあ僕は大人だから今日くらいは大目に見てあげる」

べーっと舌を出して部屋から出て行った。
くすくすと笑う名前に首を傾げる。

「素直じゃないねぇ」

今日の苛立ちを悟にぶつけるのも悪くないかなと思ったのにな。それに素直じゃないとは?お弁当のお詫びに煽られても耐えたんじゃないのか?あぁ、美味しかったって素直に言わなかったからかな。

「あーその顔は!さては忘れてるな?」
「忘れてる?え、私何か約束でもしていたかい?」
「今日は何の日でしょう」
「え?今日……?あ、わたし、誕生日…」
「お誕生日おめでとう。傑、生まれて来てくれてありがとう。此処で笑っていてくれて、私を選んでくれてありがとう。愛してるよ」

もう一度名前をぎゅっと抱きしめた。
さっきまで最悪だと思っていた一日だったのに名前の暖かい言葉と笑顔で最高の一日になった。
お礼を言うのは私の方だよ。
私を好きになってくれてありがとう。諦めずに何度も何度も話をしてくれてありがとう。今私が此処で笑えるのは名前がいてくれたからだよ。私も愛してる。

「本当は夜に言おうと思ってたんだけど、傑疲れてそうだし明日にしよっか?」
「え、夜?」
「傑の好きなもの作ってお祝いしよっかなって。だからお弁当悟にあげたんだよ」

今食べたら夜ご飯入らないでしょ?と微笑む名前が愛おしくて堪らない。

「今日がいい。泊まってくれないかな」
「あー…えっと、その話しなんだけど…」

急に声のトーンが落ちて身体を離すと言いづらそうに口をもごもごとさせていた。
明日任務が早いのかな。
なるべく早く寝かすから駄目かな。
眉を下げて名前を見つめると可愛い!と胸を押さえて悶えた。
うん、この顔好きなのは知ってるんだ。

「えーっと、ね」
「?」
「誕生日プレゼント何がいいかなって考えたんだけど……」
「ふふ、気持ちだけで充分だよ。いつもありがとうね」
「んー…そう言うと思って、物じゃないんだけど……その、ど、同棲、」
「え……?え!ホント?!いいの?!」

頷いた名前にぎゅうぎゅう抱き着いた。
自由人な名前は自分の時間が欲しいとか、マンネリしそうだとか、喧嘩しそうだとかで私の同棲の誘いを断り続けていた。

えー…どうしよう本当に嬉しい。
これからは毎日同じ家に帰っておやすみからおはようまで隣に名前がいるんだ。
何度私が想像した事か……!
こんな幸せな誕生日プレゼントなんて貰っていいのだろうか?いや、今更無しとかは受け付けないけども。

「悟にさ、さっきみたいに変わんないねって言われてね。どこが好きなのって話しになって、色々考えたんだけど、その時に大丈夫だなって思ったんだ」
「大丈夫って?」
「一緒に住んで飽きられないか不安だったんだよね。側にいるのが当たり前になってお互いに瑣末に扱うようになっちゃうのかなぁって心配だった」
「そんな、」
「うん。そんな事有り得ないなって気付いた。私は変わらず傑が好きだから」

そんな事で不安になる名前が馬鹿で愛おしい。何年付き合っていると思ってるんだい?年々、成長し続ける私の激重の愛を舐めないでくれよ。君に飽きるなんて何百年たっても有り得ない。逆により過保護になっている私を見て心配するなんてまだまだ私は甘かったらしい。

「いつ引っ越して来てくれるの?」
「中旬に解約だから次の休みにでも業者頼むよ」
「あー待ち遠しいな。そうだ!明日休みなんだ!私が明日終わらせておくよ」
「……明日は駄目」
「え、なんで…」
「私も休み取ったから、明日はお祝いするの」
「っ、……名前、愛してる」

こんなにも幸せでいいのだろうか。
名前だって特級呪術師だ。二人が揃って休みなんてそんな無理をどうやって……あ、悟か。素直じゃないってそういう事。
本当に私の親友は最高だよ。
私は沢山の人に愛されているんだなぁ。
どうしようもない地獄でこんなにも幸せで笑えているのは皆んなのお陰だ。

父さん、母さん。私を産んでくれてありがとう。二人は普通に生まれてこなかった事を悔いているかもしれないけど、私は特別を授けてくれて感謝してるよ。
勿論そのせいで苦しくて悩んで投げ出してしまいたいくらいに辛かった日があったし、今でもそれは変わらない。けどね、この特別のお陰で私は仲間に出会えて、親友ができて、愛する人と同じ気持ちになれたんだ。
今度紹介するよ。こんなにも素晴らしい人と出会えたのねって、私を生んで間違ってなかったって思ってくれるかな。
心の底から笑う私を見て泣いてしまうかな?

「傑、去年よりもっと素敵な一年を重ねようね」
「此処に来てから充実した日々を送っているよ」
「もっと欲張りなよ。傑は我儘言うくらいが丁度いいんだからね」
「ふふ、ならお言葉に甘えさせてもらうよ」

同棲の夢が叶ったんだ。となると、次は勿論決まっているよね?
名前の事だからまた何かと理由をつけて勝手に悩むんだろうけど、次は流石に断られたくないから一発で決めさせて貰うよ。

「…何か企んでるでしょ」
「我儘で良いって言ったのは名前なんだから責任取ってね」
「……お手柔らかに」
「ふふ、明日は家具でも見に行くかい?」
「あ!いいね!ソファーそろそろ買い替え期じゃない?」
「そうだね。次はもっと頑丈で大きいのにしようか」
「…用途が違うんだよなぁ」

手を繋いでデートしよう。
それで帰り道に何食べる?って話しながらスーパーに寄って、二人で並んでご飯作って、一緒にお風呂はいったりして、同じベッドで抱き合って眠るんだ。
そんな幸せな日々に飽きるなんて有り得ないから安心して私の隣にいて。



  
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