手繰り寄せる一歩



目覚めると見知らぬ男に抱きしめられていた。どんな状況?昨日の出来事を五倍速で脳内再生する。
あ、この白髪。私は助けられたのか。
助けてくれたのは大変有り難いが、同じベッドで寝る必要性はあったのだろうか。
身体はホールドされて動けないので顔だけ動かして周りを見る。
高い天井。肌触りのいい寝具にシンプルながらも高級そうな家具が並んでいる。
そしてふと気が付いた。私着替えてるね?ワンピースだった筈だが、着心地の良いスウェットに変わっている。

「ん...あ、起きたんだ。おはよ〜」
「え、と。おはようございます」

白髪の男は漸く私の身体を解放してくれたが、寝転んだまま向かい合っている。
え?このまま喋るの?

「僕の事覚えてる?」
「はい。昨日は助けて頂いてありがとうございました。それでここは?」
「君気絶したままぜーんぜん起きなかったから僕の家連れてきちゃった」
「それはお手数をお掛けしてすみませんでした。…それで着替えも貴方が?」
「勿論!あのワンピース良いやつだったから皺になるの嫌でしょ?」
「そ、れは、そうですけど。…見ました?」
「此処に連れて来る前に知り合いの医者に診てもらったから脱がす前から知ってるよ」
「そう、ですが。見苦しいものを、すみません。」
「気にするとこそこなんだ?僕に抱かれてしまったかも!きゃ〜とか思わない訳?」
「...女性に困ってるような感じではないですし...こんな醜い身体見て勃つ訳ないでしょう」

そうだ。女性として最初に心配すべきはそこだった。でもそれよりもこの痣だらけの身体を見られた事実の方が辛い。羞恥心と自分に対する嫌悪感で吐きそうだ。


「はぁ。君は…いや、今はいいか。それで昨日は何であそこに居たのかな?」
「私も…良く分からなくて。昨日は銀座にいたんですけど、気付いたらあそこに居ました」
「それは痣の事と関係ある?辛いなら無理して話さなくていいけど」
「...いえ。もう終わった事ですので、大丈夫です。」

私は彼の事、仕事の事、昨日起こった事全て洗いざらい話した。
もう彼の事はどうでもいい。昨日確かに見た化け物が頭から離れない。少しでも安心したかった。
白髪の男はうん、うんと静かに聞いて、その後に化け物の説明をサラッとしてくれた。

「なら私は呪霊に数十キロ先まで引き寄せられたと?」
「まぁ、今のところは、そんな感じかな」
「そう、ですか。……助けて下さって有り難うございました。お礼が遅くなりすみません。私は相馬名前と申します。」
「僕は五条悟だよ。そんなに畏まらなくても。一緒に寝た仲じゃ〜ん」

誤解を招く言い方はやめて欲しい。
満面の笑みを浮かべるとやっとベッドから起き上がった。私もそれに倣う。

「とりあえずシャワー浴びておいでよ。着替えは硝子、あ!昨日名前を診てくれた医者ね!硝子が用意してくれてるよ」
「何から何まで有り難うございます」

少し馴れ馴れしいが、いやかなり、距離感もおかしいが、悪い人には見えない。
彼に見つかるのは避けたいので自称最強様の安全であろうお家にお世話になる事にした。

「落ち着いたらこれからの事を話そうか」

僕明日オフだから!と楽しそうに言うのを見て久々に少し笑った。


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