図書館でニコラス・フラメルについて、それこそ図書館中の本という本を見て探したが、彼の名前にふれる本すら見つけられなかった。

繰る日も繰る日もハリー、ロン、ハーマイオニーは図書館に通い詰めた。

何十冊もの本を積み上げ、目を通し、返却する。その作業の繰り返しだ。

ハリーは熱心に探していたが、ロンは代わり映えせず静かな図書館にいるのは息が詰まるようだった。

ロンが余所事をし始めるたび、ハーマイオニーが小声で喝をいれていた。

そんな日がぼんやりと何の成果も出ないまま過ぎていった。

気がつけばホグワーツ城には雪が降り積もり、見渡す限りの一面を真っ白な雪景色に変えてみせた。

十二月にはいると寒さは度を増し、生徒達はマフラーと手袋なしではまともに外へ出ることもできなくなってしまった。

生物学上変温動物と分類されている蛇のナギニは外の寒さにやられ、温かく保たれている寮の部屋でしか過ごすことができなくなった。部屋の中でも、ほとんどの時間を動かずに身体を休めている。

ナギニでなくても、この厳しい寒さにはさすがに身が堪えていた。

クリスマス休暇が近づき、温かく保護された大広間に居座ることも多くなった。

ホグワーツのゴースト達が、クリスマスソングを口ずさみながら雰囲気を楽しむように廊下を移動していく。

何十回、何百回もクリスマスを経験しているのであろうゴースト達の歌声はさながら聖歌隊のようで見事だった。

妖精の魔法を受け持っているフリットウィック先生は、ハグリッドが禁じられた森から運んできた大きな樅の木にクリスマスの飾りをつけていた。

クリスマスが近づくにつれ、ホグワーツ城の中は煌びやかな緑と赤に装飾されていく。

ほうとため息を吐きそうなほど立派な城内になった頃、クリスマス休暇がやってきた。



「ナイトをEの5へ。」



ぽかぽかと温かい大広間で、ハリーとロンはチェスをしていた。

私はハリーの横に座りながら、チェスボードの上で動く駒をじっと見ていた。

チェスのルールは全くと言っていいほどわからない。よくルシウスがチェス・プロブレムをしているのを隣からのぞき込んでいたが、ただ見ているだけだった。

チェス・プロブレムのやり方はルシウスから話されたことでなんとなく理解しているが、チェス・プロブレムとチェスではまたルールが違うのだという。

ハリーの駒とロンの駒のやりとりを見ていると、家に帰る支度をしたハーマイオニーがやってきた。

ふと顔を向けるとハーマイオニーはにこりと笑いながら、荷物を置いてチェスボードをのぞき込みながらロンの隣に座った。

ロンはハーマイオニーが隣に座ったのを気にした様子もせずに、ハリーの命令で移動した駒を満足げに見た。



「クイーンをEの5へ。」



自信の有り余ったような声でロンがそう言うと、椅子に座っている駒がマス目を移動し、先ほどハリーが動かしたナイトの前で止まった。

するとその駒は椅子から立ち上がり、座っていた椅子を振り回してハリーのナイトに当てる。

ハリーのナイトは呆気なくバラバラに砕け、ロンのクイーンはそれをチェスボードの上から掃除でもするかのように落としていった。

チェスボードから破片を落とし終わると、ロンのクイーンは何事もなかったかのように指示された位置に戻り椅子に座った。

ハリーはため息を吐くように眉根を寄せており、次の手を悶々と考えているようだった。

そんな当たり前のような光景だったが、ハーマイオニーは信じられないというように声を上げた。



「なにこれ野蛮じゃない!?」

「魔法使いのチェスだよ。」



そんなハーマイオニーにロンがさして気にしていないように言った。

確かにハーマイオニーの言葉にも頷ける。

本来ならば駒を取るのだが、それを駒自身が壊してしまうのだ。

駒が命令通りに動くところは、さすが魔法界と舌を巻いてしまう。

それでも、この魔法使いのチェスかマグルのチェスかを選ぶ魔法使いも少なくない。

一般的には魔法使いのチェスを使う人も多いようだが、風情があるということで何の変哲もないチェスを使ったりもするらしい。

ロンはふとハーマイオニーの横にある大きな荷物に視線を移した。



「帰る用意した?」

「あなたは帰らないの?」

「予定が変わったんだ。パパとママはルーマニアに行くって。
チャーリー兄さんに会いにね。ドラゴンの研究をしてるんだ。」



ロンはどこか誇らしげにそう言った。

ロンの家族には兄弟が多い。ドラゴンの研究なんて滅多にできるものではないし、誰にでもできるものでもない。

確かな人望と技術をもってなければできないだろう。

そんな兄弟のことを、誇りに思わない人などいないに違いない。

ロンも例外ではないらしく、兄のことを立派に感じているのがひしひしと伝わってきた。

ハーマイオニーはそんなロンに一言だけ返し、こちらに視線を寄越した。

ぱちりと目が合い、ハーマイオニーは自然と首を傾げる。



「アリスは?」

「帰らないことにしたの。ハリーを手伝いたいしね。」



そう。今年のクリスマス休暇はホグワーツで過ごすことにした。

ルシウスとシシーから誘いの手紙が来なかったわけではないが、あのダーズリー家に帰るはずのないハリーを放っておくことはできない。

それに、今の彼らから目を離すのはとても危険なことに思えて仕方がない。

何か手がかりを見つけてしまえば、後先考えずにそれだけに目を奪われて行動してしまうだろう。

もしもそこに危険があれば、それを免れるすべはあるのだろうか。確かなものはないに等しい。

それならば、できるだけ近くにいて彼らと共に行動し、その身を守ることだけでもしたい。

ルシウスとシシーからの誘いを申し訳なく思いながらも断り、彼らと過ごすことを決めた。

私がそう言うと、ハーマイオニーは少し申し訳なさそうに微笑んだ。

そしてロンに目を移し、はっきりと口を開いた。



「じゃあ、ロンもハリーを手伝ってあげて。」

「っもう100回も調べたじゃないか!」



ハーマイオニーの言葉にロンは絶句したように目を見開き、うんざりだとでも言うように声を荒げた。

確かに、ここ一ヵ月近くは図書館に通い詰めニコラス・フラメルについて様々な文献を見て回った。

それは、図書館の本は全て見てしまったのではないかというほどだ。

ハーマイオニーはため息を吐くように肩を竦め、私達に顔を寄せて囁いた。



「閲覧禁止の棚はまだでしょ?」



図書館の中に変に詳しくなってしまった私達でもまだ手も出せていないのは閲覧禁止の棚だ。

閲覧禁止の棚は許可書がないと手をつけることも許されない。

そこにはどんな本があるのか簡単に想像できるけれど、それでも想像できなくて恐ろしい。闇の魔術に関する本があるのであろうという予想だけだ。

校則として禁止されている禁忌の棚についてのハーマイオニーの言葉に、ロンは衝撃を受けたように目を見開いた。

ハリーも目を丸くし、ハーマイオニーに衝撃を受けたようだ。

そんな二人を見てハーマイオニーは椅子から立ち上がり、荷物を手に取った。



「よいクリスマスをね。」

「ハーマイオニーもねっ。」



颯爽と歩いていってしまうハーマイオニーの後ろ姿をハリーとロンは呆然と見ていた。

にこりと笑ったハーマイオニーに、私は微笑みながら手を振る。

人に紛れて見えなくなっていくハーマイオニーを目で追いながら、ロンがハリーに顔を寄せて呟いた。



「…あいつ僕らのせいでワルになったな。」

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