ほとんどの生徒がホグワーツ特急に乗り、クリスマス休暇を家族と一緒に過ごすために帰っていった。

わずかな生徒の残ったホグワーツ城は閑散としていて、煌めいているクリスマスツリーや大広間や廊下がやけに不格好に見えた。

冷たく冷え切った空気の影響もあってか、しんとした空間に切なくなったように感じる。

ただ、ほとんどの生徒がいないということは、普段人のあふれて堪らない場所も自分達の好きにできるということだ。

ハリーとロンは特にグリフィンドール寮の談話室にある、暖炉の前のソファーが気に入っているようだった。飽きるまでそこのふんわりとした場所に腰をおろし、メラメラと燃えている炎を見つめながらうつろうつろと意識を遊ばせている。

私はその近くにある椅子に座りながら、談話室に置かれているツリーの華やかさに目を奪われていた。

こんなにも豪華なクリスマスをおくったことがあっただろうか。彼の邸にいたときにもクリスマスは過ごしたが、私は特に信仰している宗教もないので気にしなかった。

クリスマスの思い出といえば、この世界に来る前――もうほとんどぼやけて見えない記憶の中に存在しているが――冬の祭りと海外の影響が混ざり合った、キラキラと輝くイルミネーション、大きなホールのケーキ、朝起きたら枕元に置いてあるプレゼント。

本当に幼いときは、クリスマスの意味もイブの意味も分からず、ただプレゼントのもらえる日だと楽しみにしていた。サンタさんへ、という書き出しでその年のクリスマスでほしいものを手紙にして書いたものだ。

くすっと思わず笑みを綻ばせた。そのときには考えもしなかったことが今起きているのだと思うと微笑ましい。

私はクリスマスツリーを着飾っているボール型のオーナメント、クーゲルから視線を外した。

暖炉の前のソファでは、ハリーとロンが夢心地で座っている。笑みを浮かべたまま、私は静かに立ち上がった。



「ハリー、ロン。そんなところで寝ると風邪ひいちゃうよ。」



ぼんやりとしているその顔をのぞき込むようにすれば、ふたりはぎょっと目を見開いた。

突然の覚醒に私はもちろんだが本人達も驚いたように身を引こうとする。

しかしふたりはソファーに座っているので、その身体を深く沈めただけだった。

その様子をぱちくりと目を瞬きながら見て、くすくすと笑う。顔を真っ赤に染め上げたハリーとロンは慌てて口を開いた。



「ッアリス…!」

「あ、あぁ!ちょうどそうしようと思ってたんだよ、うん!」



早口でそう言ったハリーとロンに、私はまたくすりと笑みを綻ばせた。

暖かい談話室の中では、その落ち着いた雰囲気に気持ちが穏やかになる。

いそいそと立ち上がり部屋へ戻る準備をしているふたりを見ながら幸せな気持ちに浸った。



「明日はクリスマスだね。」



微笑みながら言葉をもらすと、ふたりはこちらを見てにっこりと笑った。

ホグワーツ城はこんなにも素晴らしく着飾り、クリスマスを迎えようとしている。明日はとても楽しいパーティーになるに違いない。

それぞれ事情があり家族と共にクリスマスを過ごすことができなくても気を沈める暇もないほどキラキラした時間が待っているのだ。

ドキドキと高揚している気持ちを感じながら、ふたりの後に続いて立ち上がる。

私達は女子寮と男子寮をわける階段の前で向き合い、明日の楽しみで胸を躍らせながらわかれた。

部屋に戻ると、ベッドの上で蜷局を巻いていたナギニがふっとこちらを見た。



『おかえり、アリス。』



柔らかなナギニの声に、私は誘われるように返事をしてベッドへ歩み寄る。

いつでも温かく迎えてくれるナギニがいなければ、こんなにも幸せな毎日はなかっただろう。

ベッドに腰掛けナギニの身体に手をのばすと、ナギニはすり寄るように手に触れた。

ひんやりとした彼女の体温はいつも変わらずに心地よさを覚える。

ナギニとクリスマスを過ごすのは何度目だろう。今までにこんなに本格的なクリスマスを見たこともなかった私は、ただ何となくこの日を過ごしてきた。



『ナギニ、ホグワーツのクリスマスはすごいですね。
大きな樅の木と、綺麗な飾りがあって。』

『あぁ…そうだね。
私には、こんな騒がしい日があることが理解できないけどね。』



私の言葉にナギニはあきれたように言葉をこぼした。

するりと寄せられた身体をなでると、ナギニはくっと首をもたげた。

確かにナギニにとってこのクリスマスというイベントは何の意味もなさないものであるだろう。

ナギニらしい。私はくすくすと笑いながらナギニの首もとに手をのばし、ぎゅっと抱きしめるようにしてベッドに倒れ込んだ。

ナギニは一瞬驚いたように瞳孔を開いたけれど、すぐにいつもの調子に戻った。



『なんだい、随分と甘えただねぇ。』

『私は、またこの日をナギニと迎えられて嬉しいです。』

『その言葉も、何度目だい?』

『ふふっ…何度でも。ナギニは、私の家族ですから。』



いつも一緒にいてくれるナギニには感謝してもしきれない。決して見放さず、突き放さず。

どれだけ私が迷惑をかけても、冷たくあしらわない。

胸が温かくなる感覚に、溶けるように意識が薄くなっていく。

ぼんやりとした視界では、ナギニは私の様子をるようにのぞき込み、くすくすと笑っていた。

私もつられたように笑みを浮かべ、微かな声で囁く。



『ありがとう、ナギニ…。』

『あぁ…おやすみ、アリス。』



子守歌のように優しいその声音はたゆたっていた意識を誘っていく。

深く息を吐くような安心と心地よさを覚え、目を閉じれば瞼の裏には煌びやかなクリスマスの光がうかんでいるようだった。

トクン、と胸がときめく。小鳥のように小さな鼓動は、私自身のものなのか耳を寄せているナギニのものなのかはわからなかった。

ただひたすらにこの幸せを感じ、子供のような楽しみを抱いていた。



「…っん、ぅ…。」



無意識的に身体を動かすと、身体の重みが覚醒を促す刺激になった。

防寒魔法のおかげで暖かくなっている部屋とふんわりとしているベッドはとても居心地がよかった。

私はもうひとつ身じろぎをすると、パチリと目を開けてお腹のあたりで蜷局を巻いているナギニに微笑んだ。



『メリークリスマス、ナギニ。』



小さな声で囁き、ナギニがまだ起きそうもないことを確認すると、そっとベッドから足を出した。

部屋に掛けてある時計を仰ぎ見れば、まだ朝は明けきっていない時間だと理解した。

できるだけベッドへ振動をかけないように起き上がり、簡単に上着を羽織る。

机の上に置いてあるラッピングをした袋をふたつ手に取ると、静かに部屋を後にした。

談話室は薄暗かったが、私が降りていくと暖炉に温かな炎が灯された。

ハリーとロンのお気に入りのふわふわなソファーに腰をおろす。手の中にあるものを見つめ、小さく笑みをこぼした。

暖炉の傍にある煌びやかなクリスマスツリーを見つめ、その根元にあるプレゼントの山に視線を移す。

今日は、とても素敵な一日になるだろう。予感のような、確信のような、不思議な気持ちを感じながら持っているものをプレゼントの山に添えるように置いた。

喜んでくれるといいけれど。ささやかな気持ち程度しか入っていない包みを見て苦笑をこぼす。大きなプレゼントがいくつもある山の中では、私の置いたものがひどくちっぽけに見えた。

ふたりが起きてくるまで待っていようと思い、ソファーに深く身体を沈める。正面から、暖かな陽を浴びているかのような場所はとても心地よかった。

とろん、と溶けてしまいそうな意識の中、いつもここでふたりがうつろうつろとしているのも仕方がないと思える。

しばらくの間、目を閉じてじっとしていると、ドタバタと階段を駆け下りてくる音が聞こえた。



「うっわ、すっげぇ…!」



薄い意識の中、微かに聞こえたのはロンの歓声だった。

高揚している気持ちが表れているようにその足音は軽い。

クリスマスツリーまで駆けてきたかと思うとすぐにプレゼントの包みを取ったらしく、ラッピングをはがす音が聞こえてきた。

ガサガサという音がやけに耳に響き、私は目を開けた。

ソファーの肘掛けからそろりと顔をのぞかせ、わくわくした様子で包みを開いているロンを見る。その様子がとてもいじらしく思えてくすっと笑ってしまった。



「…メリークリスマス、ロン。」

「っ、うわあ!
アリスッ、い、いたのかよ。」



そのまま見ているのもどうかと思い声をかけると、ロンは飛び跳ねるように振り返った。

心臓でも吐き出しそうなロンは、目を見開き口をあんぐりと開け、包みから出した栗色のセーターを力一杯握っていた。

私はにっこりと微笑み、身体を起こしてまた口を開いた。



「メリークリスマス。」

「あ、あぁ…メリークリスマス、アリス。」

「そのセーターは?」

「…ママからだよ。僕のはいつだって栗色なんだ。」



ロンは肩を竦ませながらもごもごと言ったけれど、そのセーターに袖を通しはじめた。

ロンの様子からするに、あまり栗色は好きではないのだろう。けれどその燃えるような赤毛と柔らかい栗色はとても似合っていると思った。

彼に向けられている母親の愛情はとても尊いもので、幸せなものだ。

ロンは私がくすくすと笑っているからか、顔を赤らめた。そして恥ずかし紛れに寝室へ繋がる階段へ駆けだし、その扉に向かって声を張り上げた。



「ハリー起きて!ほら起きてってば!」



その言葉から察するにロンはプレゼントが楽しみでたまらず、起きてすぐに眠っているハリーを残して談話室へおりてきたのだろう。

ロンの大きな声に驚いたのか、寝室の奥からドタン、と大きな音が聞こえてきた。

ロンはその音を聞き、もう一度急かすように声を張り上げる。

少しすると寝室へ続いている扉が開き、ハリーがくしゃくしゃな髪を撫でつけながら飛び出してきた。

そんなハリーを見て、私とロンは図らずも同時に口を開いていた。



「メリークリスマス、ハリー!」

「メリークリスマス!ロン、アリス。」



あまりにも急いで来たのだろう、ハリーはまだ水色のパジャマを着たままだった。

ハリーはそんなことも頭からとんでいるかのように、ロンを見て首を傾げた。

ハリーの視線の先はロンの着ているセーターだ。考えるような視線に、ロンはドキリとしたように固まった。



「なに着てるの?」

「…これ、ママの手作り。
君にもプレゼントあるよ!」

「僕にプレゼント!?」

「ああ!」



セーターについて聞かれたロンは恥ずかしそうにそれを摘みながらもごもごと言ったがその話題は居たたまれないらしく、話を逸らすように声を上げた。

ロンのその気持ちは見事にくみ取られ、ハリーは目をキラキラと輝かせて階段を駆け下りてきた。

そのいかにも嬉しそうな姿に、ロンは得意げにプレゼントを指さす。

ロンはもうほとんどを開けてしまったようだが、開けられていないプレゼントがツリーのもとに残っていた。

ドキッとしながら私はそこに視線を移す。まだ私の置いたプレゼントは開けられていないようだった。



「プレゼントなんて初めてだ…!」



ハリーは感激したように声を上げた。今までダーズリー家で隠すように育てられてきたハリーが立派なプレゼントをもらっていたとは思えない。

おそらく大切にされている息子、ダドリーとの差をつけるようにされてきたのだろう。

嬉しそうなハリーに口元が緩む。おもむろに立ち上がり、私はその隣にしゃがみ込んだ。

ロンはソファーの肘掛けにもたれるように座りながら、開けていないプレゼントに手を掛けていた。

楽しみにのばされたふたりの手の先には私が置いたプレゼントがあった。

ドキリとして顔を俯かせる。自分の前で自分の贈ったプレゼントをあけられるのはとても恥ずかしい。

ラッピングをあけるとハリーとロンは顔を見合わせた。ふたりのプレゼントにはお菓子を詰め合わせた。男の子は何が嬉しいのかわからないし、立派なものを贈れる余裕もない。

喜んでもらえるかと緊張していると、ふたりは私の名前を呼んだ。その手にはプレゼントと添えたメッセージカードを持っていた。



「ありがとう!僕、すっごく嬉しいよ!」

「今日はやくここにいたのは、このためだったんだな。
あー…ウン。ありがとう、アリス。」

「ううん、大したものじゃなくてごめんね。」

「そんなことないよ!本当に嬉しいんだ!」



ハリーは高揚した気持ちを表すように頬を染めて。ロンは照れたように視線を外して。

ふたりの言葉に、私はほっと胸をなで下ろした。温かな胸に広がる熱に口元が綻ぶ。

にこりと笑いかけると、ハリーははにかむように微笑み、ロンは慌てた様子でクリスマスプレゼントの山を指さした。



「ほっほら、君のプレゼントもあるよ!」

「え?」



ロンの言葉に、きょとんと目を丸くした。

私にプレゼントとはどういうことだろう。一体誰がくれたのだろう。

指さされた方を見てみると、他のプレゼントよりも大きな箱がその存在を主張しているかのように置いてあった。

白く輝くラッピング紙には金色の模様が描かれている。そのプレゼントには大きなリボンが結ばれていて、赤と緑のそれはふんわりと上品に佇んでいた。

リボンに挟まれたクリスマスカードに手をのばしてその中を見る。

メリークリスマス、アリス。とても綺麗な筆記体で書かれたその文字は、見ただけでその送り主がわかった。

ふふっと笑みをこぼす。小さくお礼を囁くと、開けたお菓子を食べているロンが首を傾げた。



「誰からなんだ?」

「ルシウスと、シシーだよ。」

「へぇ……、って!マルフォイだろ!?」



あまりにもロンが驚くので、私とハリーはそろって肩を跳ねさせた。

目をぱちくりとさせながら、ハリーの方を向いてみる。ハリーはむっとしたように眉根を寄せていた。

ロンもハリーもあまりいいようには思っていないらしい。前もこんなことがあったと思い、私は苦笑をこぼした。

すぐでなくとも、この関係がよくなればいいと願ってしまう。それが私の我が儘だとしても。

それでも今日くらいはその感情を抱いてほしくはない。私は人差し指を口元へ持っていき、シーッと悪戯に微笑んだ。

ロンはそんな私を見てぐっと口を噤むと、もごもごと口ごもった。



「っま、まぁ…別にいいけど…。
ハリー!君には何が届いたんだい?」



話を逸らすようにハリーに意識を向けたロンは、身を乗り出すようにしながらお菓子を頬張った。

突然話を向けられたハリーは驚いたように目を見開く。うわずった声で頷くと、プレゼントの包みを開けはじめた。

ハリーに届いていたプレゼントは、ハグリッドからの手作りの横笛、ダーズリー家からのメモと硬貨、ロンの母モリーからの"ウィーズリー家特製セーター"とお菓子、ハーマイオニーからのお菓子の詰め合わせ。

おおかた開け終わったときには、私達の周りにはラッピング紙や解いたリボンが広がってしまっていた。

けれどそんなことも気にせず、最後のひとつとなったプレゼントに手を掛けた。包みは紐で括られ、手紙が添えられていた。

私とロンはハリーが手紙を開く様子を食い入るように見つめる。緊張したようにハリーはゆっくりと手紙の内容を口にした。



「君のお父さんから預かっていた物だ。君に返すときがきた。
上手に、使いなさい…?」



ハリーは手紙を読みながら首を傾げた。一体、何のことを言っているのだろう。

"お父さん"というのはジェームズに違いない。けれどジェームズが誰に何を預けたのだろう。

私は目を丸くし、訝しむように考えていた。

じっと黙り込んだ私を尻目に、ハリーとロンは夢中で包みを括っている紐を解いていった。

包みが開かれると、銀ねず色の液体のような物がハリーの手から滑り落ちた。

するりと滑らかなそれはキラキラと輝いているようで、見たこともないものにロンは興奮で声を上げた。

ハリーは床に折り重なり不思議な輝きを見せているそれを手に取り広げる。



「何それ!」

「何かの…マントみたい。」

「へぇ…、じゃあ着てごらんよ!」



ロンは面白そうにハリーに笑いかけた。

ハリーとロンの会話が、どこか違う場所から聞こえてきているかのように感じる。

ジェームズが誰かに預けたマント?滑るようにキラリと輝くその不思議な物は、一体何なのだろう。

よくよく考えてみるが、何か知っているようでわからない。記憶を失う前だったら、知っているのが当たり前だろうが。

けれど、確かに知っているような気がする。もしかしたら――この世界の中の――何かの本で読んだのかもしれない。

じっと考え込むが、答えなんて浮かぶわけがない。

ハリーとロンは私がそんなことを考えていることもつゆ知らず、贈られてきたマントを羽織り、ぎゅっと前を閉じた。



「うわぁ…!」

「からだが消えた!」



ハリーとロンの声に誘われるようにそちらを見てみると、私は目を見張った。

ハリーの身体が、マントを羽織ったはずの場所から下が無くなって――いや、見えなくなって――しまっていた。ハリーの頭がその場に浮いているかのような姿に何度も目を瞬かせる。

ロンはこれでもか、というほど目を見開き、口に運んでいた百味ビーンズをぽろっと落とした。



「僕それ知ってるよ!それ透明マントだよ!」



ロンは感激に声を高めながら、百味ビーンズの箱をソファーに置いた。

ハリーはロンの言葉に、自分の身体を見ようとクルリとその場で回った。

驚きの言葉をもらしているハリーに、ロンは賞賛の言葉をかけた。



「それ滅多にないよ!」



私は呆気にとられたように口を開いていた。

透明マントと聞いて、知っているような感覚が確かなものだったのだと知った。

そうだ。銀ねず色のマント。マントに覆われたその身体は透明となり、それを纏った者は他者から姿を隠すことができる。死の秘宝のうちのひとつだ。

それはお伽噺のなかで語られている。マルフォイ邸にいたとき、何度かドラコに聞かせていた覚えがあった。

いまハリーが纏っている物は確かに透明マントなのだろう。しかしなぜハリーに贈られてきたのだろうか。一体、誰が?



「誰がくれたんだろう…。」



ちょうど考えていたことがそのまま口に出たかのようなタイミングで、ロンが呟いた。ロンは羨むようにハリーの透明な身体に釘付けになっている。

はっと我に返った私は、ロンが拾い上げた手紙をのぞき込んだ。

ハリーも透明マントを羽織ったまま近づいてくる。首から上しか私達の目には見えないのだが、頭は歩いているように揺れるので不思議な気分だった。

ハリーは手紙をまじまじと見ながら呟くように声を落とした。



「名前がない。ただ、上手に使いなさいって…。」



ハリーとロンはふたりして首を傾げた。透明マントの贈り主も、手紙の言葉の意味も、さっぱり見当がつかないに違いない。

けれど、その手紙の風変わりな文字に見覚えがあった。

細く、ミミズののたくったような文字。私の知っている中では、この文字を書く人物はひとりしかいない。

もしかして、と心の中で呟いた。囁くように慎重に、その人物を思い浮かべる。

そして豊かな白い髭を蓄え、半月型の眼鏡をかけた彼のことをよく考えると、それは確信に変わっていった。

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