朝、私は部屋に差し込む陽の光によって目を覚ました。

時計を仰ぎ見てみれば、いつもより早めだ。

私は目を擦りながら上体を起こした。

自然と出てきたあくびを噛み締めると、ナギニがふとこちらに顔を向けた。



『おはよう、アリス。』

『ん…おはようございます。』



ナギニに微笑み、私はベッドから足を下ろした。

早く起きたからといって、そんなにゆっくりはしていられないだろう。

私はホグワーツの制服に袖を通し、伸びをした。

髪はいつも通りでいいだろうと、後ろで軽く縛る。

手袋をつけ、羽織ったローブの中に杖を仕舞った。

ナギニに手を差し出せば、ズルと音をさせてナギニは腕に上がってきた。

私は部屋を見回し持ち忘れているものがないかを見る。

特にないことを確認すると、私はナギニに笑みをこぼして寝室を後にした。

階段を下り談話室に来ると、そこにハーマイオニーの姿があることに気づいた。

ハーマイオニーは暖炉の前にあるふわふわしたソファーに座り、分厚い本を読んでいた。

その姿がふとリリーと重なり、私は唇をぎゅっと引き結ぶ。

ソファーの前で足を止めると、ハーマイオニーが顔を上げてこちらを見た。

私の姿を認識したハーマイオニーは、嬉しそうに顔を輝かせる。



「あら!おはよう、アリス。」

「ぅ、ん…おはよう、ハーマイオニー。」

「あの…よかったら、一緒に朝食を食べに行きましょ?」



私の様子を見ながらハーマイオニーは控えめに聞いてきた。

私はその言葉に大きく頷き、もちろんと微笑んだ。

するとハーマイオニーはほっとしたように胸を撫で下ろした。

微かに頬を赤くさせながら、ハーマイオニーは私の手を引く。

くすくすと笑いながら、私はハーマイオニーの後に着いて談話室から出ていった。

私達は他愛もない話をしながら大広間に向かっていた。

主に私が質問し、彼女がそれに答えた。

彼女の家族のこと、魔法使いだと知ってどう思ったか、予習としての勉強の範囲。

ハーマイオニーは私の質問にはきはきと答えた。

私はそれに微笑みながら相槌を打っていた。

彼女はとても聡明で努力家で思いやりがあると感じさせた。

ふと気づけば大広間に着いており、中には朝食を食べに来ている生徒がばらばらと席に着いていた。

私とハーマイオニーはグリフィンドールの長テーブルの空いた席を見つけ、周りの生徒に挨拶をしながら座った。

朝食はバターロール、スクランブルエッグ、ポテトサラダ、ソーセージ、オレンジジュースなどの比較的軽いものだった。

私は取り皿にスクランブルエッグを盛り、ケチャップをかけた。

ナギニにはソーセージを取り、ナギニはそれをごくんと丸呑みしていた。

ハーマイオニーはナギニを上目でちらちらと見ながらポテトサラダを口に入れていた。

私はケチャップをかけたスクランブルエッグを一口、口に入れた。

甘い卵の味とケチャップの酸味の効いている味が混ざり合っていてとても美味しかった。

朝食を取り始めてしばらく経つと、ハリーとロンが話しながら大広間に入ってきた。

朝食を取るために空いた席を探している二人を、私は手招きして呼んだ。

ハーマイオニーが不満げに眉を寄せ、少し席をずれた。

ハーマイオニーの隣にはロンが座り、私の隣にハリーが座った。



「おはよう。ハリー、ロン。」

「おはようアリス。」



微笑みながら挨拶をした私に、ハリーとロンはにっこりして挨拶を返した。

ハーマイオニーは二人を訝しげに見つめていた。

どうやらハーマイオニーはあまり二人をよく思っていないようだと苦笑をもらす。

朝食を見て目を輝かせているロンと取り皿に何を盛ろうか考えているハリーに、私はふと聞いた。



「少し遅かったけど…何かあったんですか?」

「ぁ…いや、なかなか道が覚えられなくて。
ちょっと迷ってたんだ。」



困ったようにハリーは眉を寄せた。

確かに、ホグワーツ城は城とついているだけあって、とても広い。

一日やそこら歩いただけでは覚えられないだろう。

私はナギニに新しく食事を取りながら、くすと笑った。



「ホグワーツは広いですからね。
これからずっといるんですし、すぐに覚えられますよ。」

「そうだったらいけどな。
でもそのアリスの言い方だと、何年も前からホグワーツにいたみたいだ。」

「そんなことあり得ないわ!アリスは今年ホグワーツに入学したのよ!
ねぇ、アリス?」

「あ、ぅ…うん。」



ロンの鋭い言葉に、ハーマイオニーが声を荒げた。まるでロンの正気を疑っているかのように。

私は首を傾げたハーマイオニーに圧されるように頷く。

ロンの言葉はあながち間違いではないけれど。

ロンはハーマイオニーの言葉にむっと眉根を寄せた。

そして聞いていられないといったようにロンは話を変える。



「にしても、君ってどうして僕たちに敬語を使うんだい?」

「え?…気になり、ますか…?」

「気になるっていうか…何か違和感があるよ。なぁハリー。」

「うーん…そう、だね。」

「…。」



確かに私は敬語を使われるのは苦手だけれど、基本的には敬語を使って話している。

それをどうしてかと聞かれたのは初めてだった。

どうしてだろう、と私はぼんやりと考えていた。

"彼"に敬語を使うのは妥当であり、一般的だと思う。

しかしそれ以外の、彼らに使うのはなぜだろう。

ふとある考えが頭に舞い降りてきた。

彼らが大切であるから。私が元々彼らと接することができない世界にいて、彼らとこうやって話ができているのは奇跡と言えるようなものだから。

私は彼らを大切にしたい。こうやって話ができることに感謝したい。

そういう考えがあるからだろうか。

私が二人に不安げな視線を向ければ、ロンは試すような視線で返してきた。



「っ、あ…じゃあ、気をつけるね。」



私が呟くように言えば、二人は満足そうに頷いた。

ハーマイオニーは相変わらず不機嫌そうだったが、朝食を取り終わった。

ナギニも満足げで、ホグワーツの朝食も気に入ったのだとわかる。

私とハーマイオニーは先に席を外し、談話室へ向かった。

今日初めの授業は、変身術だったはずだ。

ハーマイオニーが楽しみだわと言っているのを聞きながら、私は笑みを綻ばせていた。

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